第44話 砂を喰らう影と、名もなき支配者
――夜明け直後。
崩れた石の巨人の残骸が、
砂の町の中央に静かに沈んでいた。
その前で。
膝をついたまま、
震えている男。
――偽りの領主。
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レインは、ゆっくり近づいた。
足音だけが、
やけに静かに響く。
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「……一つ、聞く」
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男の肩が跳ねた。
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「お前如き小物が――
あれだけのダンジョンと魔物を操れるとは思えない」
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視線が、冷える。
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「からくりを話せ」
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視聴者:15
【尋問タイム】
【黒幕くる?】
【しゃべれしゃべれ】
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男の喉が鳴る。
逃げ場はないと、
本能で理解していた。
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「……わ、私は……
与えられただけだ……」
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「“あの方”に……」
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レインの目が、わずかに細まる。
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「……あの方?」
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男は、壊れたように笑った。
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「ダンジョンを生み……
魔物を創り……
そして、操る……」
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震える声。
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「人ではない……
支配する者……」
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息を吸う。
その名を――
言いかけた瞬間。
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地面が、鳴った。
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ずるり、と。
砂の下で、
巨大な何かが動く音。
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視聴者:22
【え?】
【今の音なに】
【嫌な予感】
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次の瞬間。
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――裂けた。
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偽領主の足元の砂が、
円形に崩れ落ちる。
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そこから現れたのは。
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巨大な砂の大蛇。
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家屋より太い胴。
終わりの見えない体長。
口の内側で回転する、無数の砂の牙。
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視聴者:41
【でかすぎ】
【ボス追加!?】
【待って聞き出し中】
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偽領主が、叫ぶ。
「ま、待て――
私はまだ――」
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最後まで届かない。
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大蛇の顎が、
静かに閉じた。
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――丸呑み。
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悲鳴も、血も、
何一つ残らない。
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ただ砂だけが、
さらさらと落ちた。
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視聴者:58
【消えた】
【口封じだろこれ】
【黒幕確定】
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大蛇の視線が、
レインへ向く。
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一瞬の沈黙。
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だが――
襲ってはこない。
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次の瞬間、
砂へ崩れ、消えた。
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何事もなかったように。
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視聴者:63
【帰った!?】
【怖すぎる】
【今の誰の命令】
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静寂。
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レインは、空を見上げた。
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(……ダンジョン生成)
(……魔物創造)
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胸の奥で、
小さな確信が生まれる。
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(……俺と、似ている)
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だが。
分かるのは、そこまで。
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名も。
目的も。
姿すら。
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何一つ、届かない。
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「……まあいい」
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小さく息を吐く。
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「いずれ会う」
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視聴者:71
【意味深】
【ラスボス臭】
【震える展開】
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そのとき。
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背後から、
弱い声。
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「……あ、あの……」
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振り向く。
そこには――
町の子どもたちが、
怯えながら立っていた。
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「……もう、
取られない……?」
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かすかな問い。
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レインは、
少しだけ目を細めた。
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「……ああ」
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「ここは、もう大丈夫だ」
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子どもが、
ゆっくり息を吐く。
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その後ろで。
大人たちが――
静かに膝をついた。
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視聴者:96
【守った】
【こういうの好き】
【朝から泣く】
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だが。
レインの視線は、
町ではなく――
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地下へ向いていた。
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さっきの大蛇が現れた、
さらに深い層。
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(……ある)
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微かだが、確実な感覚。
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アストラル・オリハルに似た、
力の反応。
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視聴者:111
【次の目的地?】
【地下探索くる?】
【ワクワク】
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だが同時に。
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別の気配もある。
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冷たい。
静かな。
人為的な支配の痕跡。
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(……先に来ているな)
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あの“大蛇”の主。
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ダンジョンを生み、
魔物を操る、
もう一人の存在。
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胸の奥が、
わずかに熱を帯びる。
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恐怖ではない。
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――予感。
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「……いいだろ」
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静かに呟く。
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「先に進む」
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一歩踏み出す。
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視聴者:138
【旅続行】
【地下編きた】
【ここから本番】
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砂の国の空は、
どこまでも乾いていた。
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だがその下で。
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二つの力が、
静かに近づき始めている。
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まだ誰も知らない。
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この出会いが――
星の運命すら揺らすことを。
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(第44話・完)




