第43話 偽りの領主と、地下に眠るもの
――砂の国、ガルディア。
夜。
昼の静けさとは違う、
息を潜めたような沈黙が町を包んでいた。
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崩れかけた家屋。
灯りを消した窓。
泣き声すら押し殺した気配。
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この町には――
夜に音を立ててはいけない理由があった。
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昼間、レインを迎え入れた老人が、
震える声で語っていた。
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「……あの方は、領主などではありません」
「ですが……逆らえないのです」
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かすれた息。
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「地下の遺構を起こしてから……
魔物が、味方をするようになった」
「役人も、兵も……
誰一人、歯が立たなかった」
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沈黙。
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「王都にも訴えました」
「……ですが」
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老人は、目を伏せた。
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「この辺境は……
見捨てられたのです」
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その言葉に、
誰も何も言えなかった。
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ただ一人――
レインを除いて。
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彼だけが、静かに夜を見ていた。
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――おかしい。
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略奪者。
地下遺構。
魔物の従属。
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すべてが、
ただの暴政では終わらない構造を示している。
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「……前座、か」
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配信カメラが、
小さく光った。
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視聴者:3
【まだ起きてる】
【夜回いい雰囲気】
【なんか来そう】
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そのとき――
地面の奥で、重い鼓動。
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砂が、沈む。
町の中心が、
ゆっくりと歪む。
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「……来るな」
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【うわ、揺れた】
【空気かわった】
【初見だけど怖】
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井戸跡。
そこが――
割れた。
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闇ではない。
現れたのは、
人工の円形遺構。
石柱。
幾何学文様。
地下へ続く階層。
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【ダンジョンじゃん】
【人工っぽ…】
【イベント発生】
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足音。
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白い外套の男が、
闇から現れた。
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乾いた笑み。
濁った魔力。
人の皮を被った支配者。
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「……昼はよくもやってくれたな、旅人」
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だが声音は――
完全な余裕。
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【出たそれっぽい奴】
【声の圧が強い】
【悪い顔してる】
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「この町はな」
男は両手を広げる。
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「私の牧場だ」
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笑う。
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「恐怖を植えれば従う」
「奪えば黙る」
「……簡単な話だろう?」
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【うわクズ宣言】
【テンプレ悪役助かる】
【これは成敗回】
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男の視線が、
レインを値踏みする。
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「だがお前は違う」
「昼の雑魚どもを倒した程度で、
英雄気取りか?」
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鼻で笑う。
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「安心しろ」
「すぐに理解できる」
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杖を、地面へ突き立てた。
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轟音。
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地下遺構が開き、
巨大な影がせり上がる。
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――石の巨人。
三階建ての体躯。
城門ほどの腕。
赤く燃える空洞の眼。
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【でっっっか】
【町ごと消えるやつ】
【逃げろって!】
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男は、嗤う。
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「これが守護兵だ」
「王国の騎士団でも、
一撃で潰れた」
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ゆっくりと、
見下すように。
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「さて、旅人」
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「どう死にたい?」
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【煽りきたw】
【言い方がムカつく】
【フラグ立て職人】
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巨人の腕が振り上がる。
落ちれば――
町が消える。
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だが。
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レインは、
一歩も動かない。
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ただ静かに、
指先を下ろした。
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足元に紋様。
それは広がり――
地下へ潜る。
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【来た来た来た】
【主人公ターン】
【反撃の時間】
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次の瞬間。
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巨人の足元に、
別のダンジョンが開いた。
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闇ではない。
生成された深層。
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そこから――
白銀の獣が跳び出す。
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刃の鬣。
光を裂く牙。
質量すら噛み砕く顎。
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【うわ新モンスター】
【見た目かっこよ】
【勝ち確演出】
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守護獣が、
巨人の腕へ食らいつく。
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砕音。
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岩が――
紙のように潰れた。
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【腕いったぁぁ】
【紙みたいに砕けた】
【えぐ】
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さらに。
第二の紋様。
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現れる――
白銀の騎士。
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【また出た!】
【騎士かっけえ】
【この召喚、格が違う】
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騎士は、
ただ歩く。
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一歩。
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それだけで、
空気が静止する。
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剣が振られた。
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――一閃。
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巨人の胴体が、
遅れてずれた。
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次の瞬間。
崩壊。
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三階建ての石像が、
音もなく上下に分かれ、
そのまま砂へ還った。
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【一閃で終わり!?】
【分割されたw】
【瞬殺すぎて笑う】
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沈黙。
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残ったのは、
膝をつく領主だけ。
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「……ば、かな……」
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レインが近づく。
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静かに。
淡く。
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「安心しろ」
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「町は壊さない」
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【言い方イケメン】
【守る宣言好き】
【初見だけど惚れる】
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夜明け。
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砂の町に、
光が差す。
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配信画面。
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視聴者:12
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【増えてて草】
【初回から神回】
【次どこ行く?】
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レインは空を見る。
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地下の奥。
さらに深い層。
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そこに――
次の鉱脈の気配。
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「……やっぱりあるな」
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【え、地下まだあるの?】
【気配って何w】
【続きください】
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歩き出す。
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星を救う旅は――
まだ始まったばかりだ。
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(第43話・完)




