第41話 星は、壊れないために壊れる
――王城、最奥の一室。
外の歓声は、ここには届かない。
厚い石壁の内側で、
ただ静かな時間だけが流れていた。
集められたのは、王国の中枢。
国王。
アルヴェルト。
セリス。
リュシア。
そして――
レイン。
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国王が口を開く。
「……聞かせてくれ」
「三年前、何が起きていたのかを」
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レインは、静かに答えた。
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「この星には――
崩壊と再配置っていう現象がある」
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誰も言葉を挟まない。
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「溜まりすぎた“古い力”を一度壊して、
世界を作り直す仕組みだ」
「それがないと――
星そのものが、内側から爆ぜて消える」
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リュシアの声が震える。
「……じゃあ、
再配置は……必要なことなの?」
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「……ああ」
「本来は、
星を生かすための正常な代謝だ」
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そこでアルヴェルトが続ける。
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「そして――
それを監視している存在がいる」
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静かな声。
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「観測者だ」
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空気が重くなる。
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「再配置には“核”が存在する」
「観測者は、
その核に干渉するための核を持つ」
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国王が低く言う。
「……そして王国は、
すでにそれを把握していた」
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視線が、レインへ向く。
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「だから三年前――
お前を見つけた時、我々は言った」
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アルヴェルトが告げる。
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「核保有者を発見した、とな」
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沈黙。
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レインはうなずく。
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「……俺も同じだ」
「理由は分からないけど、
再配置の核に干渉できる力を持ってる」
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セリスの手が震える。
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アルヴェルトが続ける。
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「再配置の際――
世界の一部は、ランダムに消える」
「場所も、人もだ」
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息を呑むセリス。
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「だが消えた者は――
消えたことにすら気づかない」
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静寂。
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「私は十年前、
それに気づいた」
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部屋の空気が凍る。
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「だから王都を守るため、
多重結界を張り続けていた」
「だが……限界だった」
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レインが言う。
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「……そこに、俺が来た」
誰も、すぐには言葉を出せなかった。
世界は壊れる。
だがそれは、星が生き続けるために必要な現象。
あまりにも重い真実だった。
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最初に声を出したのは、セリスだった。
「……じゃあ」
震える息。
「三年前、
あなたが止めたのは――」
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レインは静かに首を振る。
「あれは再配置を止めたわけじゃない」
「溜まりきった“古い力”を、
別の場所へ逃がした」
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リュシアが呑み込むように問う。
「……逃がした……?」
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「俺の中の核に流れ込んだ力を、
地下に作った生成ダンジョンへ流し続けた」
「……三年間、ずっと」
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空気が止まる。
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「俺は、
いつ爆発してもおかしくなかった」
「だから――
ダンジョンの中に潜り続けた」
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セリスの瞳が揺れた。
「……ひとりで……?」
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「いや」
レインは小さく答える。
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「中には――
観測者も紛れ込んでいた」
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全員の表情が変わる。
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「三年間、戦い続けた」
「……その中で分かった」
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静かな確信。
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「再配置を起こさなくても、
古い力を解放する方法はある」
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アルヴェルトの目が細まる。
「……可能なのか」
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「条件がある」
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レインは続ける。
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「三年前、王都でだけで古い力の解放が出来た理由」
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国王が低く言う。
「地下の鉱山か……」
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うなずき。
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「王都の地下には、
あらゆる力を何百倍にも増幅する鉱石がある」
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「鉱石のおかげで、この王都は栄えたのだろう。」
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《アストラル・オリハル》
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「これがあったから、
俺は膨大な力を逃がせた」
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リュシアが息を漏らす。
「……じゃあ……」
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「世界中に、同じ鉱脈がある」
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声が、少しだけ強くなる。
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「そこを回って古い力を解放できれば――
再配置は起きなくていい」
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沈黙。
そして。
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セリスの瞳に光が戻った。
「……救えるのね」
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レインは、わずかに迷い――
「……まだ分からない」
「俺一人で扱える量にも、限界がある」
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その言葉に。
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アルヴェルトが静かに言った。
「ならば、一人で背負う必要はない」
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レインが顔を上げる。
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「世界は広い」
「私も探そう」
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セリスが続く。
「……私も行く」
「別の国を回って、みんなで鉱山を探す」
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リュシアも迷わない。
「魔術師の情報網、甘く見ないで」
「私は北を調べる」
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レインが言葉を失う。
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アルヴェルトは、ただ短く。
「南は任せろ」
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四人の視線が交わる。
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別行動。
だが――
同じ目的。
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セリスが笑いながら聞く。
「配信は、どうするの」
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レインは少し考え、答えた。
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「……やめない」
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全員が彼を見る。
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「崩壊と再配置を見て、
不安になっている人は多いはずだ」
「全部は話せない」
「でも――」
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まっすぐに。
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「少しでも安心できる情報は、届けたい」
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静かな決意。
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アルヴェルトがうなずく。
「ならば守ろう」
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リュシアが小さく笑う。
「ただし」
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「国が変われば、
配信の受信網も変わる」
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セリスが言葉を継ぐ。
「つまり――」
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「視聴者は、また一人から」
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レインは、少しだけ笑った。
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「……それでいい」
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「また、一から始めればいい」
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その言葉に。
誰も反対しなかった。
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やがて。
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扉の前。
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レインは振り返る。
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アルヴェルト。
セリス。
リュシア。
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もう、三年前とは違う。
並び立つ者たち。
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アルヴェルトが言う。
「行け」
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セリスが続く。
「ちゃんと、生きて」
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リュシアが笑う。
「次に会う時は、成果報告ね」
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レインは小さく息を吐き――
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「……ああ」
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一歩、踏み出す。
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扉の向こう。
まだ見ぬ世界。
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配信は――続く。
視聴者は――また一人から。
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それでも。
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この旅は。
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世界を、終わらせないための旅だ。
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(第41話・完)




