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第40話 名を取り戻す者

 ――決勝の熱は、まだ空に残っていた。


 リングの中心。

 セリスとレイ。

 剣の余韻と、歓声の残響。


 そのすべてを――



 上から、切り裂くように。



 空が、黒く割れた。


 稲妻でもない。

 魔法でもない。

 ただ――現実の継ぎ目が開く音。



視聴者:72,441,882


【え、空割れた】

【決勝どころじゃない】

【世界バグきた】



 黒い亀裂の向こうは、闇ではなかった。


 白い。

 奥行きが定まらない、あの“白”。


 そして――


 そこから、降ってきた。



 影。


 人の形。

 だが輪郭は曖昧で、顔も性別も定まらない。


 それが一体ではない。


 二体。

 十体。

 百体。



 闘技場の空に、影が群れる。


 王都の上空へ、影が広がる。


 まるで――

 都市そのものを覆う“観測”。



視聴者:88,004,112


【観測者だろこれ】

【21話22話のやつ】

【うわ…増えすぎ】



 声が落ちた。


 耳ではなく、意識の奥へ直接。



「――確認」

「境界干渉個体、複数」

「観測値、更新」

「排除処理――開始」



視聴者:101,774,441


【排除って言った】

【処理開始やめろ】

【王都終わる】



 次の瞬間。


 王都の“音”が薄くなった。


 鐘の音が遠ざかる。

 人の声が沈む。

 石畳の重さが抜けていく。


 ――世界が、仮置きに戻される。



 セリスが歯を食いしばる。


「……来る……!」


 リュシアが杖を握り直す。


「数が……多すぎる……!」



 アルヴェルトが静かに前へ出た。


 剣を抜く。


 それだけで――

 闘技場の中心が“揺れなくなる”。



視聴者:118,004,882


【守護騎士きた】

【王国最強が前線】

【頼むぞ…】



 影が、一斉に落ちる。


 攻撃ではない。

 座標の書き換え。

 存在の切断。


 闘技場の床が、音もなくずれた。

 観客席の結界が、紙のように“めくれ”かける。



 アルヴェルトの剣が走る。


 ――一閃。


 裂けかけた空間の線だけが、真っ直ぐに戻る。


 固定ではない。

 魔法ではない。

 斬った結果、そうなる。



視聴者:139,882,441


【剣で世界戻すな】

【魔法じゃないのが怖い】

【アルヴェルト神】



 セリスが駆ける。


 銀の剣線。

 影の“切断”へ真っ向から踏み込み、受け流し、押し返す。


 強い。

 三年前の少女ではない。


 足取り一つで、空気が変わる。



視聴者:152,441,991


【セリス強すぎ】

【成長バケモン】

【決勝の余韻どころじゃない】



 リュシアが詠唱に入る。


 王都上空へ、蒼い魔法陣が幾重にも展開される。


 多重障壁。

 干渉遮断。

 侵食減衰。


 ――現実を書き換えるのではない。


 ただ、全力で“受け止める”。



 空に落ちる影が、蒼い膜で止まる。


 だが――


 影は止まらない。


 膜の上で“増える”。


 膜の外へ“回り込む”。


 膜そのものを「そこに無かったこと」にしようとする。



視聴者:171,004,220


【数が無理】

【防御してるのに削られてく】

【これ詰み】



 そのとき。


 闘技場の中心に、紋様が開いた。


 ひとつ。

 ふたつ。


 そして二つの人影が現れる。



 ――白銀の騎士。


 純白の甲冑。

 長剣の切っ先。

 揺るがぬ直立。


 光を受けて、輪郭がはっきりと“存在する”。



 ――黒衣の魔術師。


 長い外套。

 星を刻んだ細杖。

 深い蒼の瞳。


 こちらも、影ではない。

 明確な造形の“人”。



視聴者:191,882,770


【出た白銀】

【黒衣もいる】

【召喚士、今これ出せるのかよ】



 さらにもう一つ、紋様が裂けた。


 蒼い光が走る。


 現れたのは――



 槍騎士。


 青白い蒼光を纏う重装。

 長槍の穂先が、空の継ぎ目を指す。


 動くたび、蒼い尾が残る。

 まるで流星の槍。



視聴者:214,441,882


【さっきの新キャラ!?】

【槍騎士かっけぇ】

【召喚の格が違う】



 観客は、まだ気づかない。


 “召喚士が強い”と思っている。


 そして、彼を知らない。


 セリスも、リュシアも――

 目の前の異常に必死で、そこまで届かない。



 影の群れが、王都全体へ落ちていく。


 城壁の上へ。

 街路へ。

 塔の間へ。


 王都を覆う規模で、現実の線がほどけていく。



視聴者:238,004,551


【王都全域やば】

【闘技場だけじゃない】

【街も崩れてる】



 白銀の騎士が踏み込む。


 剣が走る。


 ただの斬撃ではない。

 “切断”そのものを、正面から受け止めて殺す剣。


 影が、数体まとめて弾けた。


 だが――

 次が降る。


 さらに次が降る。



 黒衣の魔術師が杖を振る。


 空間に一筆。


 影の群れの“落下”が、わずかに遅れる。


 遅れた瞬間に、槍騎士が突く。


 蒼光の槍が、影の中心を貫く。


 貫かれた影は、輪郭が乱れ、白へ溶けて消える。



視聴者:271,882,110


【連携うますぎ】

【白銀と黒衣と槍、神パ】

【でも数が無限】



 ――数が、増える。


 影は消えない。

 倒しても倒しても、上から降ってくる。


 そして、次の段階へ進んだ。



 王都の上空で、影が同時に“沈む”。


 空が落ちる。

 街が薄くなる。

 塔が、意味を失い始める。



 リュシアが息を呑む。


「……都市が、座標ごと……!」


 セリスが叫ぶ。


「このままだと……王都が……!」



 アルヴェルトが、初めて顔を歪めた。


 斬れる。

 だが、斬る速度が足りない。


 剣一本で救える範囲に、限界がある。



視聴者:318,441,902


【無理だこれ】

【王国最強でも追いつかん】

【終わる終わる】



 白銀の騎士の足が、半寸だけ沈む。


 黒衣の魔術師の外套が揺れる。


 槍騎士の蒼光が、細くなる。


 全員が善戦している。

 だが――


 王都全体を覆う数と規模が、膨大すぎる。



 そのとき。



 レイ・クロードが、前に出た。


 静かに。


 まるで、遅すぎたように。



 セリスが振り返る。


「……レイ、下がって!」


 リュシアも叫ぶ。


「今は前に出たら――!」



 レイは首を振らない。


 ただ、息を吐く。



「……もう、ここまでだ」



視聴者:355,004,882


【え、召喚士が前出た】

【やめとけって!】

【死ぬぞ!?】



 指先が動く。


 ほんの、わずか。



 足元に紋様が広がる。


 ひとつではない。

 幾重もの円環が、闘技場の床を透かし――


 街路へ。

 地脈へ。

 城壁の下へ。


 王都全土へ。



 静かな、都市級ダンジョン生成。


 壁でもない。

 結界でもない。


 都市そのものを包む“新しい階層”。



視聴者:401,002,441


【は????】

【王都全部に紋様】

【都市級きたああ】



 影の群れが、初めて揺れた。


 “落下”が、止まる。


 “沈み”が、止まる。


 王都全体が、呼吸を止めたまま――

 別の呼吸を始める。



 次の瞬間。



 影が、押し返される。


 斬るのではない。

 焼くのでもない。

 封じるのでもない。


 ただ――



 この王都は、ここに在ると定義される。



 塔が戻る。

 石畳が重さを取り戻す。

 空が“空”として固定される。


 影の群れは、王都の外側へ押し出され――

 裂け目へ引き戻されていく。



視聴者:488,118,882


【押し返した!?】

【都市守った】

【召喚士って何なんだよ】



 最後の一押し。


 紋様が脈動し、都市が一段“深く”なる。


 王都全体が、わずかに沈み込むように見えた。


 そして――

 裂け目が閉じた。


 黒い線が、空から消える。



視聴者:744,002,441


【閉じたあああ】

【王都救った】

【伝説更新】



 静寂。



 誰も、言葉が出ない。



 セリスが、震える声で言った。


「……あなた、いったい……」


 リュシアの瞳も揺れていた。


「……召喚士、じゃ……ない……」



 白銀の騎士が、ゆっくり剣を下ろす。

 黒衣の魔術師が杖を収める。

 槍騎士の蒼光が、静かに薄れる。


 ――役目を終えたように。



 アルヴェルトだけが、確信した目でレイを見ていた。


 言葉は出さない。


 だが、顔が告げている。


 分かっていたと。



 レイは、目を閉じる。


 そして――



 静かに名を捨てた。



「……レイ・クロードじゃない」



 セリスの息が止まる。


 リュシアの指が、震える。



 レイが、告げる。



「――俺は、レインだ」



視聴者:1,102,441,000


【うおおおおおお】

【帰ってきた!!】

【レイン!?レイン!?】

【三年の答え】

【泣いた】



 王都が、揺れる。


 今度は崩壊じゃない。


 歓声だ。

 叫びだ。

 祈りが、光になったみたいな熱だ。



 セリスが、声にならない声で名前を呼ぶ。


「……レ、イン……」


 リュシアは、怒っているのか泣いているのか分からない顔で――

 ただ一歩、踏み出した。



 レインは言わない。


 三年のことは。

 中で何があったかは。

 なぜ戻れなかったかも。


 まだ。



 ただ、空を見上げる。


 閉じたはずの裂け目の“跡”。



 そこに、微かに残る白。



 ――終わっていない。



 レインは息を吐き、静かに告げた。


「……終わらせる」


「崩して、やり直すしかない世界を――」


「壊さずに、救う」



 王都の上で、

 物語は次の段階へ進む。



(第40話・完)

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