第4話 無名の配信、世界に見つかる
――絶叫は、すぐには終わらなかった。
咆哮。
崩落音。
金属の砕ける衝撃。
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【うわあああ】
【S級パーティ崩壊】
【地形おかしい】
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通路が折れ曲がる。
床が沈み、壁がせり上がる。
牙狼が横から飛びかかり、盾役が吹き飛ばされた。
「ぐあっ……!」
前衛が反撃するが――
踏み込んだ瞬間、床が分割。
重心が崩れる。
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「何だこの構造は!?」
リーダーの声に焦りが混じる。
だが異変は止まらない。
出口が石壁で塞がれる。
天井が降下する。
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【完全トラップ型】
【未発見ダンジョン怖すぎ】
【これ設計が悪意】
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俺は、一歩も動いていない。
ただ、見ているだけだ。
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甲殻獣が突進。
前衛が吹き飛ばされる。
さらに奥から、さっきと同格の気配。
「撤退だ! 撤退――!」
だが撤退路は、存在しない。
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床が崩れ、四人まとめて縦穴へ落下。
「くそっ……!」
落下。
だが衝撃は来ない。
永遠に落ち続ける感覚。
恐怖だけが積み重なる。
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【無限落下!?】
【殺してない】
【精神破壊型】
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絶叫が遠ざかる。
そして、静寂。
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視聴者:3,842
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「……増えすぎだろ」
たった数分で、桁が変わった。
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【SNS経由で来た】
【切り抜き覇権】
【S級が罠に完敗】
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リーダーたちは気づいていない。
この構造が、
“俺の意思に反応している”ことを。
ただ異常なダンジョンに飲み込まれたとしか思っていない。
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視聴者:9,107
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そのとき。
入口側から、足音。
複数。
だが先ほどとは違う。
整っている。
強い。
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【誰か来る】
【救助?】
【別格感ある】
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光の中から、一人の女が歩み入る。
長い外套。
無駄のない装備。
静かな圧。
腰には王都直属部隊の紋章。
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【新キャラきた】
【絶対強い】
【ヒロイン候補】
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「……ここが未登録ダンジョン」
低く落ち着いた声。
空気が引き締まる。
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彼女は水晶を一瞥し、俺を見る。
「あなたが配信者?」
「……まあ、一応」
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視聴者:21,554
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「この短時間で二万超え……
異常ね」
女は冷静に言う。
「私はセリス。
王都直属探索部隊、第一隊隊長よ」
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【隊長クラス!?】
【国家案件】
【本物来た】
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そのとき。
どくん、とダンジョンが脈打つ。
胸が冷える。
感情が薄れる。
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セリスの手が俺の腕に触れる。
温かい。
冷えが消える。
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【今の何】
【セリス何者】
【触れたら戻った】
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「一つ聞くわ」
「このダンジョン、あなたと関係ある?」
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“作ったの?”とは聞かない。
観察している。
探っている。
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「……分からない」
嘘ではない。
本当に、仕組みはまだ理解しきれていない。
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【はぐらかした?】
【まだバレてない】
【ここ重要】
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セリスは数秒、俺を見る。
そして通信石を開いた。
「本部。未登録ダンジョン確認」
一拍。
「内部に特殊適性者を発見。
保護対象として監視を要請」
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【特殊適性者】
【核保持者じゃない?】
【まだ確定してない】
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視聴者:100,000
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六桁。
俺は、まだ何者でもないはずなのに。
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セリスが言う。
「あなた、運が良かったわね」
「普通なら、あのパーティと一緒に落ちてた」
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落ちてた。
そう。
彼女も、元S級も。
“偶然の異常ダンジョン”だと思っている。
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その瞬間。
ダンジョン最深部で、新しい震動。
今までとは違う。
もっと重い。
もっと古い。
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【まだ終わらない】
【本命いる】
【規模違う】
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視聴者:182,000
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セリスが剣に手をかける。
「……奥に、いるわね」
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闇の奥で、
黄金よりも深い影が、ゆっくりと目を開いた。
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(第4話・完)




