第37話 王国最強と、名を持たない挑戦者
――闘技場。
ざわめきが、ゆっくりと形を変えていく。
先ほどの準決勝。
セリスとリュシアの激突は、
まだ観客の胸に焼き付いていた。
だが――
次に呼ばれる名は、
その余韻すら塗り替える。
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視聴者:3,882,441
【本命きた】
【ここが頂上】
【心臓やばい】
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「準決勝第二試合――
アルヴェルト・グランツ
対
レイ・クロード!!」
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空気が、沈む。
歓声ではない。
熱狂でもない。
――畏怖。
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視聴者:5,441,882
【王国最強】
【負ける未来見えん】
【でも夢見たい】
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アルヴェルトが歩く。
ただ歩くだけで、
闘技場の中心が固定される。
重力が、意思を持ったように。
――強い。
それだけで、すべてが分かる。
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開始の旗。
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――消失。
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次に現れたのは、
空間を断つ剣閃。
軌道ではない。
速度でもない。
存在そのものを削る一撃。
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視聴者:9,884,220
【見えねぇ】
【今の何】
【終わったろ】
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――金属音。
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白銀の騎士。
純白の甲冑が、
その一撃を真正面から受け止めていた。
火花は散らない。
衝撃も漏れない。
すべてを内部で殺している。
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視聴者:12,004,551
【止めた!?】
【硬すぎ】
【バケモン同士】
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アルヴェルトが踏み込む。
剣が、二度、三度――
加速ではなく“増殖”する。
一振りが、同時に複数の軌道を持つ。
白銀の肩口。
首。
心臓。
すべてを同時に狙う
回避不能の連撃。
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白銀が動く。
最小動作。
だが完璧。
剣圧を受け流し、
軌道を半歩ずつ殺し、
最後の一閃だけを正面で受ける。
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――衝撃。
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石畳が、円形に沈む。
白銀の足元が、
初めて半寸だけ滑った。
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視聴者:15,882,770
【押した】
【アルヴェルト強すぎ】
【でも崩れない】
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後方。
黒衣の魔術師が、
静かに杖を傾ける。
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詠唱はない。
ただ、空間に一線。
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その瞬間――
闘技場全域の魔力流動が反転した。
重力が遅れ、
風が逆流し、
時間の密度が歪む。
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視聴者:21,882,110
【また意味不明】
【世界おかしい】
【規模やば】
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黒衣の魔術師が歪めた空間。
流れを失った魔力。
静止しかけた世界。
――だが。
アルヴェルトは、止まらない。
剣を、ただ構える。
技もない。
光もない。
魔力すら、感じない。
あるのは――
極限まで研ぎ澄まされた一振りだけ。
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踏み込み。
それだけで、空気が裂ける。
剣が通った“線”に沿って、
歪められていた空間そのものが――
遅れて整列した。
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固定したのではない。
打ち消したのでもない。
ただ、
斬った結果、そうなっただけ。
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黒衣の魔術師の瞳が、初めて揺れる。
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【は?】
【今なにした】
【魔法じゃないの怖い】
【純剣で世界戻した?】
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アルヴェルトが静かに言う。
「――術ではない。」
「届く場所まで、振っただけだ。」
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視聴者:25,004,882
【打ち消した!?】
【意味わからん】
【三つ巴やば】
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激突。
白銀の剣。
アルヴェルトの剣。
純粋な剣技だけの衝突。
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――無音。
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遅れて、
闘技場の外壁が崩れた。
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視聴者:31,884,110
【衝撃遅れて来た】
【映画超えた】
【神回】
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互角。
完全な、互角。
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だが次の瞬間。
アルヴェルトの回避不能の軌道。
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そこで――
空間が、わずかにずれた。
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剣先が、
存在していた座標を外れる。
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【よけた!?】
【紙一重】
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アルヴェルトの瞳が揺れる。
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「……やはりな」
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確信。
だが誰も気づかない。
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最後の衝突。
剣と魔術と召喚が、
同時に爆ぜる。
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二人の体が、
外周へ弾き飛ぶ。
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煙。
沈黙。
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リングに立っているのは――
レイ。
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アルヴェルトは、
わずかに線の外。
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リングアウト。
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審判の旗が上がる。
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「勝者――
レイ・クロード!!」
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視聴者:45,004,882
【うわあああ】
【王国最強負けた】
【でも紙一重】
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歓声が爆発する。
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その中で。
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アルヴェルトだけが、
静かにレイを見ていた。
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そして――
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一瞬だけ、視線が交わる。
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「……隠す理由が、あるのだな。」
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誰にも聞こえない声。
ただ一人へ向けた言葉。
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レイは、何も答えない。
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だが、アルヴェルトだけが、
そこへ触れていた。
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視聴者:48,882,441
【決勝きた】
【誰なんだこいつ】
【心臓やばい】
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こうして――
最後の舞台が、
静かに整った。
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決勝。
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セリス
対
レイ。
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まだ誰も知らない。
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この先で、
世界が思い出すことを。
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(第37話・完)




