第36話 双星、衝突
――王都中央闘技場。
ざわめきが、ゆっくりと沈んでいく。
誰もが理解していた。
ここから先は、
ただの試合ではない。
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視聴者:3,112,884
【本命カード】
【神試合の匂い】
【瞬き禁止】
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鐘が鳴る。
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「準決勝――
セリス・アルディア
対
リュシア・フェルノート!」
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歓声が、爆ぜる。
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視聴者:4,880,221
【うおおおお】
【ここで当たる!?】
【運営神】
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セリスは静かに歩き出す。
一歩ごとに、
闘技場の空気が研ぎ澄まされていく。
三年前とは、別人の重さ。
――剣そのものの気配。
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対するリュシアは、微動だにしない。
呼吸は浅く、
魔力の揺らぎは極限まで抑えられている。
だが。
周囲の元素だけが震えていた。
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視聴者:6,221,004
【静かな方が強者】
【魔力圧えぐ】
【怖すぎ】
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距離、十歩。
言葉はない。
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ただ一度。
セリスが小さく笑う。
「……強くなったね」
リュシアの瞳がわずかに緩む。
「あなたも」
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それで十分だった。
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「――開始ィ!!」
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同時に動いた。
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セリスの踏み込み。
石畳が遅れて砕ける。
一直線の斬撃。
だが速さは直線を越え、
視界から消える。
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その瞬間。
リュシアの指先がわずかに揺れた。
詠唱――極短縮。
空中に浮かぶ、
多層防御魔法陣。
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剣撃と魔法陣が衝突。
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――無音。
次の瞬間、
衝撃だけが爆ぜた。
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視聴者:9,004,551
【音消えた】
【衝撃だけ来た】
【何この領域】
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セリスが止まらない。
二撃、三撃。
角度が消え、
軌道が読めない。
純粋な剣速だけで結界を削る。
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リュシアの瞳が細まる。
両手が静かに開く。
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――高位制御術式、同時展開。
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炎。雷。風圧。拘束。
すべてを一点に圧縮。
迎撃ではない。
斬撃の通過点そのものを焼き潰す魔術。
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光と刃が激突。
闘技場の結界が軋む。
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視聴者:12,880,774
【準決勝の火力じゃない】
【結界もってくれ】
【これ決勝だろ】
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空中。
セリスが体勢を変える。
落下加速を利用した――
上位剣技・落星。
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対するリュシア。
深く息を吸う。
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長い詠唱はない。
ただ一言。
「――束ねて」
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元素が従う。
魔力が収束する。
空間ではない。
世界でもない。
純粋な魔術密度だけが極限へ到達する。
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蒼白の閃光が、剣と衝突。
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白。
蒼。
視界消失。
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視聴者:22,004,991
【画面真っ白】
【でも神】
【最高更新】
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光が晴れる。
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中央。
剣先と魔力塊が、
数センチで止まっていた。
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互角。
完全な均衡。
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視聴者:28,771,552
【これが頂点】
【美しすぎ】
【時間止まった】
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沈黙の中。
リュシアが小さく呟く。
「……ねえ、セリス」
「なに」
「あなた、本当に――」
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その一瞬。
魔力制御が、
ほんの僅かに遅れた。
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セリスは逃さない。
剣が半歩前へ。
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均衡、崩壊。
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剣先が、
リュシアの喉元で止まった。
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静寂。
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視聴者:40,882,114
【うわあああ】
【紙一重すぎ】
【神試合確定】
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リュシアが、ゆっくり目を閉じる。
「……参った」
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旗が上がる。
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「勝者――
セリス・アルディア!!」
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歓声、爆発。
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視聴者:58,004,221
【歴史更新】
【無料で見ていいの?】
【伝説回】
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だが。
セリスは笑わない。
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ただ静かに、
空席を見ていた。
――本来、そこにいるはずの人を。
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視聴者:60,112,009
【……あ】
【足りない理由それか】
【泣きそう】
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控え通路の奥。
無名の召喚士が、
静かに目を閉じている。
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次は――。
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(第36話・完)




