第35話 無名の召喚士と、崩れない魔法陣
――闘技場。
熱は、もう止まらない。
先ほどの騎士戦。
あの静かな決着が、
観客の胸に引っかかっていた。
理解できない強さ。
説明できない勝利。
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視聴者:262,441
【さっきの件で脳焼かれた】
【チート騎士また頼む】
【次も“何か”来い】
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鐘が鳴る。
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「第二十二試合――
エルディア・クロウ
対
レイ・クロード!」
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空気が、凍った。
その名を知らぬ者はいない。
蒼天の牙。
元S級パーティの中核。
王国屈指の――
殲滅級魔導士。
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視聴者:401,882
【相手が悪すぎて草】
【ここで詰み濃厚】
【無名、ここで終わる?】
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エルディアが、
静かに杖を掲げる。
無駄な詠唱はない。
呼吸すら整っている。
それだけで分かる。
――格が違う。
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「召喚士、か」
淡々とした声。
「一瞬で終わらせてやる」
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開始の旗。
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――光。
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次の瞬間、
空間そのものが燃え上がった。
詠唱も、予兆もない。
超高位魔術――
広域殲滅閃光。
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闘技場の床が溶ける。
空気が蒸発する。
観客席の結界が軋む。
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視聴者:688,221
【威力バグってる】
【これがS級の“圧”】
【蒸発したろ今】
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光が収束する。
中心に残るのは――
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静寂。
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そして。
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立っている影。
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足元に、
静かな紋様。
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現れていた。
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――白銀の騎士。
磨き上げられた純白の甲冑。
細身の長剣。
揺るがぬ直立。
まるで王都最古の守護像が、
そのまま歩き出したような威厳。
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【生きてる!?】
【防いだの意味わからん】
【召喚士、何者案件】
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エルディアの眉が、
わずかに動く。
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「……ほう」
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杖が、静かに回る。
次の瞬間――
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無数の魔法陣。
空中、地面、背後、上空。
幾何学の嵐。
王国禁書級――
多重同時展開。
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炎。
雷。
重力。
虚空断裂。
すべてが同時に落ちる。
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【画面情報量が死ぬ】
【これ耐えたら人間じゃない】
【無名、終了のお知らせ】
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――だが。
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もう一つ、紋様が開いた。
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白銀の後方。
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黒衣の魔術師。
長い外套。
星を刻んだ細杖。
顔を半ば隠す静かな面差し。
瞳だけが――
深い蒼に光る。
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視聴者:1,102,441
【増えたwww】
【召喚“二枚抜き”やめろ】
【質が国家機密】
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黒衣が、杖を傾ける。
詠唱は――
ない。
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ただ、空間に一筆。
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その瞬間。
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落下していた全魔法が停止した。
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炎が燃えたまま止まる。
雷が走る直前で凍る。
重力が、意味を失う。
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そして。
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――反転。
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魔法陣が、
すべてエルディア側へ折り返った。
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視聴者:1,402,887
【は??????】
【今の“返送”だろ】
【魔法、宅配便みたいに戻すな】
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爆発。
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そして、
白銀が前に立つ。
剣を一振り。
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衝撃だけを切り捨てる。
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静寂。
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エルディアの呼吸が、
初めて乱れた。
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「……なんだ、それは」
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答えはない。
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白銀が歩く。
黒衣が並ぶ。
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ただ、それだけで――
戦場の主導権が移る。
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視聴者:1,884,220
【無双の音がした】
【主導権スッ…って取った】
【召喚士、こわ】
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最後の魔法。
エルディアの奥義。
王城防衛級――
星滅の環。
闘技場全体を呑む
巨大魔法陣。
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だが。
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レイが、
静かに指を下ろした。
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――消失。
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魔法陣そのものが、
最初から存在しなかった位置へ消える。
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沈黙。
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白銀の剣先が、
エルディアの喉元で止まった。
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勝敗は、
誰の目にも明らかだった。
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「……参った」
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旗が上がる。
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「勝者――
レイ・クロード!!」
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歓声が、
ついに爆発した。
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視聴者:2,744,991
【確定:本物】
【無名なわけない】
【でも誰だよォ!!】
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誰も――
気づかない。
その正体に。
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ただ一人。
貴賓席のアルヴェルトだけが、
静かに目を細めていた。
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疑いは――
もう消えていた。
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(第35話・完)




