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第34話 観客席に落ちた、まだ名前のない震え

 ――闘技場の空気は、確かに変わり始めていた。


 歓声の中心は、

 まだヒロインたちにある。


 だが。


 視線の一部だけが、

 別の場所へ向かっている。


 無名の召喚士。

 レイ・クロード。


 たった三勝。

 それだけ。


 それだけなのに――

 妙に、記憶に残る。



視聴者:18,441


【なんか刺さる】

【地味にクセになる】

【気づいたら見てる】



 控え通路。


 石壁にもたれ、

 静かに呼吸を整える。


 疲労は――見せていない。


 当然だ。


 まだ何も、

 本当には使っていない。



 その時。


「……ねえ」


 背後から、

 小さな声。



 振り向く前に分かる。


 足音。

 気配。

 呼吸の間。



 セリスだった。



 至近距離。


 三年ぶりの、

 何も隔てない距離。



 だが彼女は、

 俺を見ていない。


 正確には――

 見ないようにしている。



「……あなた」


 一拍。


「前にも、どこかで――」



 言葉が、止まる。



 気づきかけている。


 だが、

 確信には届かない。



 それでいい。


 今は、まだ。



「……人違いだ」


 短く答える。


 声も、

 呼吸も、

 完全に別人のまま。



 沈黙。



 セリスは小さく首を振った。


「……うん。そう、だよね」


 そう言いながら――


 指先だけが、

 わずかに震えていた。



視聴者:22,903


【今の距離感えぐ】

【気づきかけてるの好き】

【人違い…ほんとに?】



 足音が遠ざかる。


 残ったのは――

 静かな余韻。



 胸の奥が、

 ほんの少しだけ痛む。


 だが。


 止まる理由には、ならない。



 鐘が鳴る。


「第十八試合!」


 名を呼ばれる。


 対戦相手――


 王国騎士団上位槍士

 ディルク・ハーゼン。



 入場した瞬間、

 空気の重さが変わった。


 無駄のない鎧。

 研ぎ澄まされた姿勢。

 呼吸すら制御された静寂。


 ――本物の騎士。



視聴者:31,002


【ここからガチ】

【今までと温度違う】

【壁きたな…】



 開始の旗。


 ――消える。


 ディルクの姿が。


 次の瞬間、

 槍の穂先が喉元に届いていた。



 速い。

 正確。

 迷いがない。


 今までの相手とは、

 次元が違う殺意。



 ――普通なら、終わり。



 だが。



 足元に、

 静かな紋様が広がる。



 現れる。



 一人の騎士。



 白銀の全身甲冑。

 深い群青の外套。

 装飾のない直剣。


 だが。


 ただ立つだけで――

 空気が、ひざまずく。



視聴者:44,880


【召喚“これ”は反則】

【騎士出てきて草】

【もう勝ち確演出】



 ディルクの瞳が、

 初めて揺れた。


「……精霊でも魔獣でもない」


「これは――」



 言葉の続きを、

 剣戟が遮った。



 白銀の騎士が踏み込む。


 音が遅れる。


 空気が裂ける。


 ただの一歩で、

 距離の概念が消えた。



 槍と剣が衝突。


 火花が散る。


 衝撃が石畳を砕く。



 ディルクは弾かれながらも、

 即座に体勢を立て直す。


 ――さすが上位騎士。



 連突。


 残像すら置き去りにする

 高速三連撃。



 だが騎士は――

 一歩も動かない。



 剣の角度だけで、

 すべてを逸らす。


 最小の動き。

 最大の制圧。



視聴者:61,220


【防御が芸術】

【さばき方うますぎ】

【騎士かっけぇ…】



 ディルクの呼吸が変わる。


「……なるほど」


「なら――本気で行く」



 槍が、光を帯びる。


 王国騎士奥義――

 《貫界》



 一直線の突き。


 だがそれは、

 空間そのものを貫く一撃。



 闘技場の空気が凍る。



視聴者:79,441


【奥義きたああ】

【ここで決まるやつ】

【胃がキュってなった】



 ――直撃。



 白銀の胸甲に、

 穂先が触れる。



 だが。



 止まった。



 貫けない。


 押しても。

 叫んでも。

 魂を込めても。



 一ミリも。



 その瞬間。



 騎士の剣が、

 静かに振り下ろされる。



 速くもない。

 強くもない。


 ただ――

 正しい一太刀。



 槍が、割れた。



 衝撃は、

 遅れてディルクに届く。



 倒れはしない。



 だが。



 彼は理解した。



 勝てない。



 静かに、槍の残骸を捨てる。



「……見事だ」



 剣を持たぬまま、

 まっすぐ立つ。



「名も知らぬ騎士よ」


「そして召喚士」



 一拍。



「――俺の敗北だ」



 深く、

 騎士礼。



 闘技場が、

 完全な沈黙に包まれた。



視聴者:120,882


【今の綺麗すぎる】

【鳥肌ずっと立ってる】

【“本物”見た】



 審判の旗が上がる。



「勝者――

 レイ・クロード!!」



 歓声は、

 まだ爆発しない。



 だが確実に――

 質が変わった。



視聴者:188,441


【これはガチ枠】

【召喚士って何だっけ】

【目が離せん案件】



 白銀の騎士が、

 静かに消える。



 その残像だけが、

 闘技場に焼き付いていた。



 観客席の上段で。



 セリスの鼓動が、

 大きく跳ねた。



 理由は分からない。


 だが――



 今の剣を、

 知っている気がした。



視聴者:240,002


【空気が変わった】

【ここから本編】

【次、絶対やばい】



(第34話・完)

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