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33/50

第33話 強さの証明と、まだ見えない本命

 ――闘技場の空気が変わっていた。


 二回戦を終え、

 観客の熱は確実に上がっている。


 だがその中心にいるのは、

 まだ――


 無名の召喚士ではない。



視聴者:188


【次だれ枠】

【セリス来い】

【あの召喚士まだ?】



 鐘が鳴る。



「第十試合!

 セリス・アルディア、入場!」



 歓声が爆ぜた。


 三年前とは、違う。


 その一歩だけで、

 空気を支配する。



視聴者:412


【入場だけで勝ってる】

【格が違うオーラ】

【主人公じゃん】



 対戦相手は、隣国の剣士。

 重装。

 歴戦。

 実力者。


 ――だが。



 一太刀。



 踏み込み。

 軌道。

 間合い。


 すべてが、洗練されている。



 剣が触れた瞬間。



 勝負は終わっていた。



 相手の剣が、

 静かに宙を舞う。


 遅れて――

 膝が落ちた。



「……参った」



視聴者:1,102


【はっや】

【今の見えた人いる?】

【三年で別人すぎ】



 歓声が揺れる。


 だがセリスは、

 何も語らず退場した。


 視線はただ――

 どこか別の場所を探していた。



 続く鐘。



「第十一試合!

 リュシア・フェルノート!」



 空気が、少しだけ冷える。



視聴者:2,884


【魔導院の本命きた】

【冷気えぐい】

【これは当たり枠】



 対戦相手は、

 多重詠唱を得意とする他国の宮廷魔導士。


 通常なら――

 長期戦。


 だが。



 リュシアは、

 詠唱しなかった。



 静かな一歩。


 指先が、空をなぞる。



 次の瞬間。



 魔術式そのものが、裏返った。



 相手の魔法陣が、

 自分を拘束する。


 暴走。

 反転。

 崩壊。



 爆ぜる光の中で、

 勝敗は決していた。



視聴者:6,441


【今の何したのw】

【理解が追いつかん】

【王国の層あつすぎ】



 静寂。


 そして歓声。


 ――だが。



 そのすべてから、

 少しだけ外れた場所。



 控え通路の奥。



 無名の召喚士が、

 静かに立っていた。



視聴者:6,502


【あ、いた】

【影薄すぎて草】

【次こいつ来る?】



 名前が呼ばれる。



「第十五試合!

 レイ・クロード!」



 歓声は――

 ほとんど、ない。



 それでいい。



 闘技場へ出る。


 光。

 熱。

 視線。



 対戦相手は、

 今大会の有力候補。


 獣王国の戦闘狂――ガルド。



 笑う。


「運だけの召喚士、だっけか」



視聴者:6,880


【相手が悪い】

【ここで終了のお知らせ】

【さすがに無理ゲー】



 ……そう見えているなら。


 成功だ。



「開始ィ!!」



 ガルドが消える。


 速い。

 重い。

 殺意が深い。



 レイが手を上げる。


 現れたのは――

 影の狼。


 小さい。

 細い。

 闇を切り取っただけのような輪郭。


 牙すら頼りなく、

 闘技場の光に触れれば

 消えてしまいそうだった。



視聴者:7,004


【また弱そう枠】

【いつものやつ来た】

【はい、解散】



 ガルドが笑う。


「舐めてんのか」


 次の瞬間、

 巨体が消えた。



 ――衝撃。



 遅れて、

 空気が裂ける。


 踏み込みだけで

 石畳が砕け、

 闘技場の壁に亀裂が走る。



 影の狼は――

 吹き飛んだ。



 地面を転がり、

 黒い輪郭が崩れかける。



視聴者:7,188


【ワンパン草】

【はい終わり】

【やっぱ雑魚じゃん】



 だが。



 狼は、

 消えない。



 ふらつきながらも立つ。


 足が震える。

 輪郭が揺れる。

 今にも霧散しそうだ。



 それでも――

 牙を向けた。



 ガルドが踏み込む。


 拳。

 蹴り。

 連撃。



 重い。


 当たるたび、

 狼の体が削れる。


 影が散り、

 闇が剥がれ、

 存在が薄くなる。



 観客席から、

 ため息が漏れた。



視聴者:7,301


【見ててつらい】

【もう消えるって】

【やめたげてぇ…】



 それでも。



 狼は、

 退かない。



 砕かれ、

 叩きつけられ、

 何度も地面に沈む。


 だがそのたびに――

 立ち上がる。



 牙が届かなくても、

 爪が通らなくても。



 ただ。



 一歩だけ、前へ。



 ガルドの眉が、

 わずかに歪んだ。


「……なんだ、その目」



 影に、

 感情はないはずだった。


 だが今。



 そこにあったのは――

 執念。



 再び拳が振り下ろされる。


 直撃。


 狼の半身が、

 消し飛んだ。



視聴者:7,442


【消えた…】

【もう無理だろ】

【ここで終わり】



 沈黙。



 闇が、揺れる。



 残った前足が、

 石畳を掴んだ。



 ずるり、と。



 這う。



 崩れた体を引きずり、

 それでも――

 前へ。



 闘技場の空気が、止まる。



 誰も、

 声を出せない。



 ガルドが一歩、下がった。


 ほんのわずか。

 本当に、わずか。



 その瞬間。



 世界が、

 ほんの一瞬だけ遅れた。



 誰にも分からない。

 観客にも。

 審判にも。

 ガルドにも。



 ――俺だけが知っている。



 狼の牙が、

 軽く触れる。



 それだけ。



 音もなく。

 衝撃もなく。

 光もなく。



 ガルドの巨体が、

 膝をついた。



 静寂。



視聴者:9,771


【……は?】

【今の何が起きた】

【鳥肌立った】



 立てない。


 力は残っている。

 傷も浅い。


 それでも――

 動けない。



 ガルドの瞳に、

 初めて宿る感情。



 恐怖。



「お前……何を……」



 答えない。


 答える必要が、ない。



 審判の旗が上がる。



「勝者――レイ・クロード!」



視聴者:15,882


【今の絶対“何か”した】

【運じゃ説明つかん】

【お前誰だよ案件】



 歓声は、まだ小さい。


 だが――



 質が変わった。



 退場する背中に、

 初めて――


 視線が集まる。



 その中で、ただ一人。



 アルヴェルトだけが、

 静かに呟いた。



「……まさか」



 まだ――

 確信には、遠い。


 だが。


 アルヴェルトの視線だけは、

 すでに答えへ届いていた。



視聴者:16,004


【さすがに運じゃない】

【ここから本編始まる】

【震え止まらん】



 ――そして。


 誰も見ていない場所で。



 影の狼の輪郭が、

 ほんの一瞬だけ変質した。



 それは、

 三年前に消えた“何か”と――

 同じ揺らぎだった。



(第33話・完)

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