第33話 強さの証明と、まだ見えない本命
――闘技場の空気が変わっていた。
二回戦を終え、
観客の熱は確実に上がっている。
だがその中心にいるのは、
まだ――
無名の召喚士ではない。
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視聴者:188
【次だれ枠】
【セリス来い】
【あの召喚士まだ?】
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鐘が鳴る。
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「第十試合!
セリス・アルディア、入場!」
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歓声が爆ぜた。
三年前とは、違う。
その一歩だけで、
空気を支配する。
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視聴者:412
【入場だけで勝ってる】
【格が違うオーラ】
【主人公じゃん】
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対戦相手は、隣国の剣士。
重装。
歴戦。
実力者。
――だが。
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一太刀。
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踏み込み。
軌道。
間合い。
すべてが、洗練されている。
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剣が触れた瞬間。
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勝負は終わっていた。
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相手の剣が、
静かに宙を舞う。
遅れて――
膝が落ちた。
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「……参った」
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視聴者:1,102
【はっや】
【今の見えた人いる?】
【三年で別人すぎ】
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歓声が揺れる。
だがセリスは、
何も語らず退場した。
視線はただ――
どこか別の場所を探していた。
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続く鐘。
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「第十一試合!
リュシア・フェルノート!」
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空気が、少しだけ冷える。
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視聴者:2,884
【魔導院の本命きた】
【冷気えぐい】
【これは当たり枠】
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対戦相手は、
多重詠唱を得意とする他国の宮廷魔導士。
通常なら――
長期戦。
だが。
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リュシアは、
詠唱しなかった。
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静かな一歩。
指先が、空をなぞる。
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次の瞬間。
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魔術式そのものが、裏返った。
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相手の魔法陣が、
自分を拘束する。
暴走。
反転。
崩壊。
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爆ぜる光の中で、
勝敗は決していた。
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視聴者:6,441
【今の何したのw】
【理解が追いつかん】
【王国の層あつすぎ】
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静寂。
そして歓声。
――だが。
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そのすべてから、
少しだけ外れた場所。
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控え通路の奥。
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無名の召喚士が、
静かに立っていた。
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視聴者:6,502
【あ、いた】
【影薄すぎて草】
【次こいつ来る?】
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名前が呼ばれる。
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「第十五試合!
レイ・クロード!」
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歓声は――
ほとんど、ない。
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それでいい。
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闘技場へ出る。
光。
熱。
視線。
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対戦相手は、
今大会の有力候補。
獣王国の戦闘狂――ガルド。
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笑う。
「運だけの召喚士、だっけか」
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視聴者:6,880
【相手が悪い】
【ここで終了のお知らせ】
【さすがに無理ゲー】
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……そう見えているなら。
成功だ。
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「開始ィ!!」
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ガルドが消える。
速い。
重い。
殺意が深い。
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レイが手を上げる。
現れたのは――
影の狼。
小さい。
細い。
闇を切り取っただけのような輪郭。
牙すら頼りなく、
闘技場の光に触れれば
消えてしまいそうだった。
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視聴者:7,004
【また弱そう枠】
【いつものやつ来た】
【はい、解散】
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ガルドが笑う。
「舐めてんのか」
次の瞬間、
巨体が消えた。
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――衝撃。
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遅れて、
空気が裂ける。
踏み込みだけで
石畳が砕け、
闘技場の壁に亀裂が走る。
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影の狼は――
吹き飛んだ。
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地面を転がり、
黒い輪郭が崩れかける。
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視聴者:7,188
【ワンパン草】
【はい終わり】
【やっぱ雑魚じゃん】
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だが。
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狼は、
消えない。
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ふらつきながらも立つ。
足が震える。
輪郭が揺れる。
今にも霧散しそうだ。
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それでも――
牙を向けた。
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ガルドが踏み込む。
拳。
蹴り。
連撃。
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重い。
当たるたび、
狼の体が削れる。
影が散り、
闇が剥がれ、
存在が薄くなる。
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観客席から、
ため息が漏れた。
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視聴者:7,301
【見ててつらい】
【もう消えるって】
【やめたげてぇ…】
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それでも。
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狼は、
退かない。
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砕かれ、
叩きつけられ、
何度も地面に沈む。
だがそのたびに――
立ち上がる。
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牙が届かなくても、
爪が通らなくても。
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ただ。
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一歩だけ、前へ。
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ガルドの眉が、
わずかに歪んだ。
「……なんだ、その目」
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影に、
感情はないはずだった。
だが今。
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そこにあったのは――
執念。
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再び拳が振り下ろされる。
直撃。
狼の半身が、
消し飛んだ。
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視聴者:7,442
【消えた…】
【もう無理だろ】
【ここで終わり】
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沈黙。
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闇が、揺れる。
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残った前足が、
石畳を掴んだ。
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ずるり、と。
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這う。
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崩れた体を引きずり、
それでも――
前へ。
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闘技場の空気が、止まる。
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誰も、
声を出せない。
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ガルドが一歩、下がった。
ほんのわずか。
本当に、わずか。
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その瞬間。
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世界が、
ほんの一瞬だけ遅れた。
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誰にも分からない。
観客にも。
審判にも。
ガルドにも。
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――俺だけが知っている。
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狼の牙が、
軽く触れる。
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それだけ。
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音もなく。
衝撃もなく。
光もなく。
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ガルドの巨体が、
膝をついた。
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静寂。
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視聴者:9,771
【……は?】
【今の何が起きた】
【鳥肌立った】
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立てない。
力は残っている。
傷も浅い。
それでも――
動けない。
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ガルドの瞳に、
初めて宿る感情。
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恐怖。
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「お前……何を……」
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答えない。
答える必要が、ない。
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審判の旗が上がる。
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「勝者――レイ・クロード!」
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視聴者:15,882
【今の絶対“何か”した】
【運じゃ説明つかん】
【お前誰だよ案件】
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歓声は、まだ小さい。
だが――
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質が変わった。
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退場する背中に、
初めて――
視線が集まる。
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その中で、ただ一人。
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アルヴェルトだけが、
静かに呟いた。
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「……まさか」
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まだ――
確信には、遠い。
だが。
アルヴェルトの視線だけは、
すでに答えへ届いていた。
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視聴者:16,004
【さすがに運じゃない】
【ここから本編始まる】
【震え止まらん】
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――そして。
誰も見ていない場所で。
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影の狼の輪郭が、
ほんの一瞬だけ変質した。
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それは、
三年前に消えた“何か”と――
同じ揺らぎだった。
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(第33話・完)




