第30話 再び始まる観測
――王都、中央闘技場。
かつて侵食の影に沈みかけた都市は、
いまや以前にも増して、熱気に満ちていた。
石造りの観客席は隙間なく埋まり、
旗が翻り、
歓声が空を震わせる。
王国主催――
大陸交流戦闘祭。
三年前の災厄からの復興、
そして各国への「王都健在」の証明。
その意味を持つ、
巨大な祭典だった。
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闘技場の上空。
魔導式拡声陣が淡く光り、
開始を告げる鐘が鳴る。
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「――これより!」
「王国主催・第七回大陸戦闘祭を開催する!!」
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爆発する歓声。
地鳴りのような拍手。
熱狂が、王都を包み込む。
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貴賓席。
セリスは静かにそれを見下ろしていた。
白銀の鎧。
三年前よりも研ぎ澄まされた気配。
王国守護騎士――
正式任命。
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隣では、
リュシアが無言で闘技場を見つめている。
王国最上位魔導士直属、
特別研究官。
その瞳は、
観客ではなく――
出場者席を探していた。
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「……いるわけ、ないか」
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小さな呟き。
歓声に紛れて、誰にも届かない。
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そのとき。
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闘技場の外周、
最下層の入場口。
誰にも注目されない影が、
ゆっくりと歩いていた。
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粗末な外套。
名もない装備。
どこにでもいる、無名の出場者。
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登録名――
レイ・クロード。
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顔は半分、影に隠れている。
観客は誰一人、気に留めない。
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当然だ。
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そこにいるのは――
三年前に消えたはずの男なのだから。
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足を止める。
闘技場の中央を見る。
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懐かしい景色。
遠いはずなのに、
昨日のことみたいに鮮明だった。
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胸の奥で――
静かに、鼓動が鳴る。
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その瞬間。
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闘技場上空の魔導結晶が、
わずかに揺れた。
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誰も気づかない。
まだ。
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だが確かに。
三年間、沈黙していた“何か”が動いた。
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次の瞬間。
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闘技場の空間に、
見えない文字列が走る。
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観測再開。
接続確認。
個体識別――
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《REIN SIGNAL DETECTED》
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――光。
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視聴者:1
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誰も知らない。
誰も気づかない。
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だが確かに。
世界は、再び“彼”を観測し始めた。
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レインは、
小さく息を吐く。
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「……三年ぶりか」
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懐かしさはない。
後悔もない。
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ただ一つ。
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静かな確信だけがあった。
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――ここから、もう一度始まる。
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その視線の先。
闘技場中央では、
第一試合の選手が向かい合っている。
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歓声。
熱狂。
期待。
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だが。
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本当の物語は、まだ誰も知らない。
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レインは歩き出す。
無名の出場者として。
誰にも気づかれないまま。
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――王都の運命を、
再び動かすために。
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(第30話・完)




