表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/50

第30話 再び始まる観測

 ――王都、中央闘技場。


 かつて侵食の影に沈みかけた都市は、

 いまや以前にも増して、熱気に満ちていた。


 石造りの観客席は隙間なく埋まり、

 旗が翻り、

 歓声が空を震わせる。


 王国主催――

 大陸交流戦闘祭。


 三年前の災厄からの復興、

 そして各国への「王都健在」の証明。


 その意味を持つ、

 巨大な祭典だった。



 闘技場の上空。


 魔導式拡声陣が淡く光り、

 開始を告げる鐘が鳴る。



「――これより!」


「王国主催・第七回大陸戦闘祭を開催する!!」



 爆発する歓声。


 地鳴りのような拍手。


 熱狂が、王都を包み込む。



 貴賓席。


 セリスは静かにそれを見下ろしていた。


 白銀の鎧。

 三年前よりも研ぎ澄まされた気配。


 王国守護騎士――

 正式任命。



 隣では、

 リュシアが無言で闘技場を見つめている。


 王国最上位魔導士直属、

 特別研究官。


 その瞳は、

 観客ではなく――


 出場者席を探していた。



「……いるわけ、ないか」



 小さな呟き。


 歓声に紛れて、誰にも届かない。



 そのとき。



 闘技場の外周、

 最下層の入場口。


 誰にも注目されない影が、

 ゆっくりと歩いていた。



 粗末な外套。

 名もない装備。

 どこにでもいる、無名の出場者。



 登録名――


 レイ・クロード。



 顔は半分、影に隠れている。


 観客は誰一人、気に留めない。



 当然だ。



 そこにいるのは――

 三年前に消えたはずの男なのだから。



 足を止める。


 闘技場の中央を見る。



 懐かしい景色。


 遠いはずなのに、

 昨日のことみたいに鮮明だった。



 胸の奥で――


 静かに、鼓動が鳴る。



 その瞬間。



 闘技場上空の魔導結晶が、

 わずかに揺れた。



 誰も気づかない。


 まだ。



 だが確かに。


 三年間、沈黙していた“何か”が動いた。



 次の瞬間。



 闘技場の空間に、

 見えない文字列が走る。



 観測再開。


 接続確認。


 個体識別――



 《REIN SIGNAL DETECTED》



 ――光。



視聴者:1



 誰も知らない。


 誰も気づかない。



 だが確かに。


 世界は、再び“彼”を観測し始めた。



 レインは、

 小さく息を吐く。



「……三年ぶりか」



 懐かしさはない。


 後悔もない。



 ただ一つ。



 静かな確信だけがあった。



 ――ここから、もう一度始まる。



 その視線の先。


 闘技場中央では、

 第一試合の選手が向かい合っている。



 歓声。

 熱狂。

 期待。



 だが。



 本当の物語は、まだ誰も知らない。



 レインは歩き出す。


 無名の出場者として。


 誰にも気づかれないまま。



 ――王都の運命を、

 再び動かすために。



(第30話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ