第3話 追放したS級パーティ、俺のダンジョンに踏み込む
闇の奥で、
何かが動いた。
重い。
遅い。
けれど――圧倒的。
さっき倒した牙狼とは、
存在感がまるで違う。
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【ボス感えぐい】
【はい強敵】
【心の準備できてない】
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巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。
黒い甲殻。
岩のような四肢。
床を踏みしめるたび、石が軋む。
「……中層級」
本来なら、S級パーティ総出で挑む相手。
丸腰の俺なら、
一瞬で終わるはずの存在。
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【逃げ案件】
【まだ序盤だぞ!?】
【ここで終わるな】
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だが、胸の奥は妙に静かだった。
怖さより先に、理解がある。
ここは――俺のダンジョン。
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巨体が突進する。
通路を埋める質量。
衝突すれば即死。
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(第一階層、戦闘再構成)
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通路が“ずれた”。
直線だったはずの地形が湾曲する。
巨体の踏み込み地点が、一段沈む。
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《第一階層:可変構造 展開》
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【地形変わった!?】
【ダンジョン動いてる】
【運営目線すぎる】
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巨体が壁へ激突。
だが壁は砕けない。
衝撃を吸収し、瞬時に硬化。
背後の床が消える。
落下。
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落下先の縦穴が、回転する。
重力軸が九十度傾く。
巨体は横壁へ叩きつけられた。
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《重力軸偏移 起動》
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【物理法則いじってる】
【設計者だろもう】
【主人公がダンジョン】
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咆哮。
甲殻が開き、衝撃波。
区画が軋む。
強い。
単純な圧殺では削りきれない。
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(構造ごと削る)
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「……区画分離」
巨大空間が八分割される。
巨体の周囲だけが完全孤立区画になる。
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《封鎖区画 形成》
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天井が降下。
床が上昇。
圧縮。
だがまだ潰れない。
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【ボス粘る】
【耐久おかしい】
【ここから本番】
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「……迷宮化」
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区画内部がさらに細分化される。
床が傾き、壁が回転し、
立てる面が消える。
常に転がり続ける構造。
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《内部可変圧縮連動》
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巨体は重心を失う。
踏ん張れない。
攻撃できない。
数秒後。
骨の砕ける音。
甲殻が割れ、崩れる。
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「……終了」
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《侵入者:排除》
《資源変換:完了》
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空間が元に戻る。
傷一つ残らない。
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視聴者:132
【桁違い】
【ボス瞬殺】
【主人公がダンジョンそのもの】
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呼吸が荒い。
だが確信は揺らがない。
俺は敵を殴らない。
“勝てない構造”を作る。
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そのとき。
入口側から、足音。
複数。
聞き覚えがある。
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忘れるはずがない。
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闇の向こうから現れた顔。
《蒼天の牙》。
――俺を追放した、元S級パーティ。
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【因縁きた】
【ここで再会は熱い】
【修羅場確定】
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リーダーが目を見開く。
「……お前、生きてたのか」
「ここは未発見ダンジョンだ。下手に動けば死ぬぞ」
見下す口調も、変わらない。
「無能は黙って従え」
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三年間の記憶がよぎる。
だが胸は静かだ。
「……別に」
「何もしない」
「できない、の間違いだろ」
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その瞬間。
ダンジョン全体が、深く脈打った。
低く、重く。
まるで――笑ったみたいに。
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【空気変わった】
【これ来る】
【ざまぁ前兆】
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リーダーの足元が、わずかに沈む。
カチ、と小さな音。
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【あ】
【踏んだ】
【それスイッチ】
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通路奥に光が灯る。
赤。
青。
紫。
次々と。
牙狼の唸り。
甲殻獣の足音。
さらに奥で、中層級と同格の気配。
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《侵入者:S級パーティ》
《排除プロトコル:自動実行可能》
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視聴者:612
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出口が、石壁で封鎖される。
天井が降下。
床が傾く。
「……おい」
リーダーの声が揺れる。
「何だ、この構造は」
盾役が振り向く。
だがもう遅い。
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俺は静かに言う。
「安心しろ」
一拍。
「俺は、何もしない」
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【一番怖い】
【運営宣言】
【歴史的瞬間】
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無数の足音が、一斉に動き出す。
牙狼。
甲殻獣。
上位種。
四方から。
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視聴者:1,004
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次の瞬間。
咆哮。
崩落音。
絶叫。
配信画面が激しく揺れる。
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【うわああああ】
【やばい】
【次話はよ】
【ブクマ確定】
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俺は、静かに目を閉じた。
「……ダンジョンが決める」
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視聴者:1,287
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この瞬間が、
すべての始まりになる。
まだ誰も知らない。
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(第3話・完)




