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第23話 神話の外で、ただ一人

 森へ足を踏み入れた瞬間、

 さっきまでの圧が、嘘みたいに消えた。



 風が吹く。

 葉が揺れる。

 ただの――静かな森。



視聴者:18,904,112


【え、急に平和】

【さっきの神話バトルどこ行った】

【温度差で風邪ひく】

【情緒ジェットコースター】

【逆に怖い定期】



 セリスが、ゆっくり息を吐いた。


「……ほんとに、終わったのね」



 リュシアはまだ緊張が抜けきらず、

 周囲を何度も見回している。


「終わった、というより……

 一区切り、って感じだけど……」



 俺は答えない。


 胸の奥の欠けは、

 まだ静かに残っている。



 それでも――



「……歩けるか」



 短く言うと、

 セリスは少しだけ眉をひそめた。


「それ、心配してるの?

 それとも“置いていくけど自己責任”の方?」



「両方だな」



【素直じゃない主人公】

【でも言葉が優しい】

【ツンが出た】

【セリスの返し好き】



 リュシアが小さく笑う。


「……余裕、あるんだ」



「ないよりはマシだろ」



 沈黙。


 けれどさっきまでの

 押し潰されるような静寂じゃない。



 ほんの少しだけ、

 呼吸ができる沈黙。



 そのとき。



 遠くから、

 がさつな笑い声が聞こえた。



「――はは、だから言っただろ。

 この辺りは“穴場”なんだよ」



 足音。

 金属の擦れる音。

 隠す気もない気配。



視聴者:19,221,008


【人の声きた】

【モブだな?】

【このタイミングで出るやつ=だいたい…】

【嫌な予感しかしない】

【フラグ立ってて草】



 セリスが小声で呟く。


「……冒険者?」



 リュシアは眉を寄せた。


「魔力の質……高い。

 かなり、上位……」



 木立の向こうに、

 三つの影が見える。


 無駄のない装備。

 迷いのない歩き方。

 周囲を“脅威として見ていない”視線。



 ――元S級。



【うわ出た】

【テンプレ強者】

【元S級=かませの香り】

【レイン追放組じゃね?】

【因果来た】



 俺は、小さく息を吐いた。


「……運が悪いな」



 セリスが首をかしげる。


「どっちの意味で?」



「両方だ」



 リュシアが、少しだけ苦笑する。


「……あなた、

 前はああいう側だったのよね」



「昔の話だ」



【元S級パーティー追放主人公】

【対比がうめぇ】

【ここで“人間の悪意”見せるの良い】

【神話の後に俗っぽいの助かる】



 三人の影が、

 こちらにはまだ気づかないまま通り過ぎる。



 その背中を見ながら、

 セリスがぽつりと呟いた。


「……ねえ」


「もし今、

 あの人たちと戦ったら――」



 一拍。


「どっちが勝つの?」



 少しだけ、考える。



「……さあな」



【絶対分かってる】

【言わないやつ】

【ニヤける】

【これが“余裕”】



 その時、少し離れた場所で、

 乱暴な声が響いた。


「ほら立てよ。

 ここ通るなら“通行料”くらい払え」


 倒れた旅人の襟元を、

 男が無造作に掴み上げる。


 歪んだ笑み。

 ためらいは一切ない。



視聴者:20,744,903


【また弱い者いじめ】

【胸くそ】

【誰か止めろ】

【元S級の品格どこ】

【“穴場”=犯罪現場で草】



 もう一人が笑う。


「払えねぇなら、装備置いてけ。

 命は……気分で残してやる」



 後衛らしい男が、肩をすくめた。


「面倒だな。

 さっさと終わらせようぜ。

 俺たち、S級だったんだし」



【出た“昔は強かった”】【フラグ過ぎる】

【このセリフ言ったら負け】

【かませの教科書】

【視聴者の反応が一致団結してて草】



 旅人が咳き込み、

 震える手で地面を掴む。



 俺は、前へ出なかった。


 ただ――

 息を吐いた。



 その背後で――

 風が、わずかに揺れた。


 だが三人は気づかない。


 空気の流れも。

 足元に重なり始めた

 見えない紋様も。



 世界はすでに、

 静かに折り替わっていた。



視聴者:21,010,004


【え もう始まってる?】

【気づいてないの怖い】

【“折り替わる”ってこういうことか】

【レインの生成ダンジョン初の他人入り!?】

【初公開きたああ】



 旅人を突き飛ばし、

 三人は周囲を見回す。


「……妙だな」


 後衛が小さく呟く。


「森の音が……遠い」



 いい感覚だ。

 だが――


 まだ浅い。



 次の瞬間。


 地面が、わずかに沈んだ。



【来た】

【ダンジョン!?】

【自然発生!?】

【いや生成だろこれ】

【きたきたきた】



 沈んだのは土じゃない。


 “地面の定義”そのものが、

 一段、下へ置き直された。



 足元の落ち葉が、

 音もなくほどけ、

 粒になり、

 石の粒へ変わる。


 湿った土の匂いが、

 一瞬で消え――

 代わりに、冷たい鉱石の匂いが満ちた。



 木々の配置がずれる。


 新しい壁が生まれた。



 幹の間に、

 石が“押し出される”ように隆起する。


 岩肌は滑らかで、

 削った形じゃない。

 最初から“そうだった”形。



 空間が静かに閉じる。


 逃げ道は、もうない。



【うわリアル】

【匂いの描写いい】

【生成って“生える”んだ】

【これがレインのダンジョンか】

【閉じた閉じた閉じた】



 三人は即座に構えた。


 さすがは元S級。

 判断が速い。


 前衛が笑う。


「結界型か?

 ちょうどいい。見せてやるよ」



 狙撃手が矢を番える。


「囲ったくらいで、

 俺らが怯むとでも?」



 後衛が鼻で笑った。


「――“S級の突破”ってやつ、見せてやる」



【うわぁ…】

【口だけS級】

【余裕ぶったセリフ助かる】

【死亡フラグ三段活用】

【“見せてやる”は負ける】



 三人の魔力が同時に跳ね上がる。


 前衛が地を蹴った。

 一瞬で数十メートルを詰め、

 空間ごと斬り裂く一撃。


 続けて後衛の高位魔術。

 座標固定型の拘束陣。


 さらに狙撃。

 空間を完全に潰す連携。



 完璧。

 迷いも無駄もない。



 ――だが。



 すべて、届かない。



【は?】

【消えた】

【攻撃どこ行った】



 斬撃は、

 最初から存在しなかった位置へ。


 魔術は、

 定義される前に霧散。


 矢は、

 距離そのものを失った。



 三人の顔に、

 初めて動揺が走る。


「……なんだ、ここ……」



 答えはない。



 ただ静かに、

 階層が深くなる。



 石柱が生まれる。


 “生える”のではない。

 空気の中から、

 石の分子が整列し、

 冷たい音もなく“完成する”。



 壁の表面に、

 薄い水膜が浮く。


 湿度が急に変わる。


 ダンジョンは、

 呼吸するように環境を作り替える。



 空が反転する。


 青が、天井に貼り付くのではなく――

 天井が青を選び直す。



 重力の向きが書き換わる。


 三人の膝が、

 微かに沈んだ。



【環境生成エグい】

【湿度まで変えるのか】

【“天井が青を選び直す”名文】

【これが支配空間】

【レインのダンジョン=世界編集】



 三人は、それでも戦う。


 連携を変え、

 速度を上げ、

 限界まで力を引き出す。



 ――善戦している。



 だからこそ。



 ここで終わらせる。



 俺は、指を一度だけ動かした。



 ――それだけで。



 世界の最深部が、

 静かに開いた。



【やばい】

【空気変わった】

【これ本命】

【指パチンで世界変える男】

【一発で終わるやつ】



 音もなく、

 巨大な影が降りる。



 形を持たない。

 牙も角も、最初は曖昧。


 けれど落ちてくるにつれて――

 “獣”という定義が選ばれ、

 輪郭が確定していく。



 空気が、獣の匂いになる。

 鉄と湿土と、焦げた獣毛。


 喉が渇く。

 皮膚が粟立つ。



 階層そのものの獣。



【うわ…生成モンスター】

【匂いまで来る】

【定義が確定していくの怖い】

【これ“世界の裏側の生物”】【元S級、終わった】



 三人の呼吸が止まる。


「……冗談だろ……」



 前衛が、引きつった笑いを作る。


「な、なぁ……

 落ち着け。

 俺たちはS級だったんだぞ?

 こんなの……“見たことないだけ”だ」



 狙撃手が、矢を握り直す。


「……当てれば、倒れる。

 当てれば……」



 後衛が声を上ずらせた。


「理屈はある!

 きっと、ある!

 結界なら――解除手順が――」



【ダサいw】

【“S級だった”連呼草】

【当てれば倒れる(震え声)】

【解除手順どこにあるんだよ】

【見たことないだけ理論やめろ】



 理解した瞬間。


 恐怖が、

 本能を突き破った。



視聴者:24,221,507


【格が違う】

【これは無理】

【逃げろ】

【“勝てない”の顔になった】

【カタルシス準備完了】



 出口が、

 ただ一つだけ開く。


 ――いや。


 開いたんじゃない。


 開けてやった。



 三人は迷わなかった。


 旅人も捨て、

 戦意も捨て、

 ただ生き延びるために――

 逃げた。



 走りながら、前衛が叫ぶ。


「くそっ!

 今日は引くだけだ!

 撤退は戦術だ!!」



 狙撃手が涙声で怒鳴る。


「何だよこれ!

 こんなの聞いてねぇ!!

 ダンジョンが…ダンジョンがズルい!!」



 後衛が喚く。


「おい、俺の魔術が効かないのはおかしいだろ!

 ダンジョンの方が間違ってる!!

 ……俺は悪くない!!」



【撤退は戦術www】

【ダンジョンがズルいw】

【ダンジョンの方が間違ってるw】

【全員ダサくて最高】

【読者が求める“かませの断末魔”】【カタルシス気持ち良すぎ】



 足音が、完全に消える。



 静寂。



 そして。



 階層が、ほどける。



 湿度が戻る。

 匂いが戻る。

 森が戻る。



 風が戻る。

 世界が戻る。



 だが――



 中心に立つ俺だけは、

 まだ動けなかった。



 胸の奥が、深く軋む。



視聴者:25,003,219


【え】

【戻ってない?】

【危ない】

【代償きた】

【無双の代金】



 意識が、下へ引かれる。


 もっと深い層。

 もっと静かな場所。


 ――戻れなくなる。



 その瞬間。


 腕を、強く掴まれた。



「レイン!!」



 セリスの声。


 怒りと、

 震えと、

 必死さが混ざった声。



「……無茶、しすぎ」



 引き戻される。


 光が戻る。

 重さが戻る。

 呼吸が戻る。



 小さく、息を吐く。



 ――まだ、完全じゃない。



【セリスありがとう】

【ここで引き戻すの最高】

【守るための無双】

【代償が重いから映える】

【次の層が呼んでる】



 遠く。


 さらに深い層から――

 別の鼓動が響く。



 今のは、まだ入口。



(第23話・完)

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