第22話 第一層は、まだ優しい
――落ちてきたのは、
音のない切断だった。
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空が、遅れて裂ける。
光も、風も、
何も起きていないのに――
距離だけが、ずれた。
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【は????】
【今のなに】
【見えない攻撃やめろ】
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次の瞬間。
地面が、静かに滑る。
立っているはずの位置が、
半歩ぶんだけ
横へ移動していた。
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攻撃じゃない。
座標の書き換え。
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【座標バグってて草】
【戦闘始まってるの怖】
【理解追いつかん】
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そこに――
立っていた。
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人影。
輪郭は揺らぎ、
顔も、形も、
定まらない。
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だが分かる。
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さっきの“観測”と、
同じ側。
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【観測者きちゃ】
【同系統きたな】
【勝てる未来ある?】
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声が落ちる。
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「――境界干渉を確認」
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感情はない。
敵意もない。
ただ、
処理音のような声。
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次の瞬間。
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世界が、消えた。
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光も。
重さも。
時間も。
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【はい終了〜〜】
【即死演出やめてw】
【心臓もたん】
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――違う。
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消えたんじゃない。
まだ、
置かれていないだけだ。
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足元に、
淡い紋様が広がる。
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ダンジョン。
だが今までより、
ずっと静かで、
ずっと深い形。
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【主人公フィールドきた】
【領域展開みたいで熱い】
【逆転の時間だ】
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息を吐く。
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「……ここは」
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一歩、踏み込む。
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「まだ、
俺の外じゃない。」
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その瞬間。
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止まっていた世界が、
内側から砕けた。
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光が戻るんじゃない。
時間が動くんでもない。
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――俺を中心に、世界が再配置される。
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【支配じゃないの草】
【定義で殴る主人公】
【言い方が強い】
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足元の紋様が回転する。
淡い線は、
層を持った立体へ変わり、
半径数十メートルの
円形領域を形作った。
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人影の座標操作が、
その外側で軋む。
滑らない。
ずれない。
書き換えられない。
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【はい固定〜〜!】
【座標封鎖えぐ】
【強すぎて笑う】
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セリスが前へ出る。
剣を抜く音が、
遅れて届いた。
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銀の線。
それだけで、
裂けかけた空間が――
止まる。
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【隊長つよすぎ】
【概念止めるなw】
【共闘うますぎ案件】
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リュシアが杖を掲げる。
「……座標固定、仮置き!」
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蒼い印が走る。
空中に、三つ。
地面に、五つ。
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だが――
揺らぐ。
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【効いてないの泣く】
【相手格上すぎ】
【やばいやばい】
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だから。
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指を、
わずかに動かした。
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それだけで。
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人影の足元が、
一段深い層へ沈む。
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【は?????】
【層ズラし草】
【意味不明すぎて好き】
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石柱が生まれる。
一本。
また一本。
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閉じるためじゃない。
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そこが
閉じた世界だと
定義するため。
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柱が連結し、
天井が形成され、
完全隔離空間が完成する。
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【小ダンジョン建築職人】
【神話級初戦闘これかよ】
【スケール感バグ】
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隔離層の中心で、
人影の輪郭が――
わずかに揺れた。
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「……定義、逸脱」
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初めて生まれた、
誤差。
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だが次の瞬間。
人影の周囲で、
見えない“折れ”が走る。
小ダンジョンそのものを、
内側から裂こうとする干渉。
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【まだ動くのやば】
【終わってなくて草】
【でも熱い】
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セリスの銀線が、
裂け目を正面から受け止める。
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リュシアの印が、
崩れかけた座標を必死に繋ぐ。
「……あと、数秒……!」
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――十分だ。
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一歩、踏み込む。
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それだけで。
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小ダンジョンの階層構造が、
静かに向きを変えた。
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上も下もない空間で、
中心だけが――
ゆっくりと内側へ沈む。
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【圧縮きちゃ】
【違う、折れてる…】
【閉じていくの怖】
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潰しているんじゃない。
壊しているんでもない。
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ただ――
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畳んでいる。
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距離を。
時間を。
存在そのものを。
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小ダンジョンは、
中心へ向かって
一枚、また一枚と
静かに折り重なっていく。
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人影の輪郭が、
層の隙間へ沈む。
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「……観測、継――」
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言葉は、
最後まで届かない。
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折りたたまれた階層が、
完全に閉じた。
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音はない。
衝撃もない。
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ただ。
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そこにあったはずの存在が――
最初から無かった場所へ戻る。
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【消えたあああ】
【倒した?っぽい?】
【いや“戻した”か…?】
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残ったのは、
静かに収束する
小さな紋様だけ。
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それもすぐに、
土へ溶けるように消えた。
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風が戻る。
森の音が戻る。
世界が、何事もなかった顔をする。
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――だが。
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空気の奥に、
わずかな淀みだけが残った。
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胸の奥が、
小さく軋む。
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ここは、まだ――
浅い。
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視線を上げる。
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森の先。
音の届かない場所。
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そこに、
次の気配が
すでに滲み始めていた。
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静かに息を吐く。
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「……行くぞ」
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三人は、
まだ何も知らないまま。
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神話の外側へ、足を踏み出す。
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(第22話・完)




