第21話 観測者、更新
――空が、
静かにほどけた。
白い歪みは、
裂け目というより――
現実の継ぎ目だった。
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音が消える。
風も、葉擦れも、
遠くの鳥の声さえも。
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気づいたときには、
森は消えていた。
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足元に広がるのは、
白い空間。
影もない。
距離も曖昧。
奥行きすら、定まらない。
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【ここ現実じゃない】
【座標が壊れてる】
【神話領域きた】
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セリスが息をのむ。
「……座標が……
固定されてない……」
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リュシアの声も、震えていた。
「空間が“決まってない”……
こんなの、理論に……」
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分かる。
ここは――
境界の内側。
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次の瞬間。
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白の中央に、
影が生まれた。
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人の形。
だが輪郭は曖昧で、
顔も、性別も、
何一つ定まらない。
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【来た……】
【観測者】
【ラスボス級の静けさ】
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声が響く。
耳ではなく、
意識の奥へ直接。
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「――確認」
「境界干渉個体。
観測値、更新」
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その瞬間。
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世界が、沈んだ。
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【圧が違う】
【存在ごと潰される】
【これは無理】
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呼吸が重い。
存在そのものを、
押し潰される感覚。
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セリスが歯を食いしばる。
リュシアは声も出せない。
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だが。
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――俺だけは、
立っていた。
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【やっぱり主人公だけ】
【格の差ここ】
【来るぞ……】
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影が、告げる。
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「干渉強度、危険域」
「――排除を提案」
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【排除確定】
【完全に敵】
【どうするレイン】
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胸の奥に、
あの空白がある。
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届かなかった命。
腕の中で消えた温もり。
そして――
今度は、間に合った呼吸。
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迷いは、ない。
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「……断る」
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一歩、踏み出す。
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足元に、
淡い紋様が広がった。
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ダンジョン。
けれど以前より、
ずっと静かで、
ずっと深い形。
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白い空間が、
止まる。
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【世界止めた!?】
【規模おかしい】
【神域バトル】
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影が、初めて揺れた。
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「……理解不能」
「なぜ、存在位置が
固定される」
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答えは、
一つだけ。
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「ここは――」
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さらに一歩、踏み込む。
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「俺の境界だ。」
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【名言確定】
【ここ鳥肌】
【主人公覚醒完了】
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崩れかけていた白が、
逆に収束する。
裂け目が閉じ、
距離が定まり、
空間が静かに整う。
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【壊す力じゃない】
【守る力】
【概念が違う】
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影の輪郭が歪む。
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「……排除不能」
一瞬の沈黙。
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「結論――
経過観測へ移行」
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【敵じゃなくなった?】
【監視フェーズ】
【神の判断感】
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圧が、消える。
白い空間がほどけ、
森の気配が戻り始める。
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だが――
消える直前。
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影は、最後の言葉を残した。
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「侵食進行率――上昇」
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胸の奥が、
静かに冷える。
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「臨界到達時――」
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一拍。
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「世界は再配置される。」
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【世界規模確定】
【ラスボス構造】
【終末フラグ】
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静寂。
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リュシアの声が震える。
「……侵食って……
村だけじゃないの……?」
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セリスの顔が青ざめる。
「……世界、全部……?」
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分かっていた。
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でも。
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言葉にされると、
重さが違う。
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それでも――
迷いはない。
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もう、
目の前で消える命を
見たくない。
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「……止める」
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二人が顔を上げる。
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「侵食を止める」
「そのために――
侵食源を探す。」
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【物語の核きた】
【目的明確】
【ここから神話編】
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風が戻る。
森の音が、
少しずつ現実へ戻っていく。
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だが。
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空の奥。
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白が消えたはずの場所に――
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細い線が、残っていた。
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【まだ終わらない】
【本当の敵は上】
【震える】
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その線の向こうで。
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音もなく。
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何かが、
落ちてくる。
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形はない。
だが分かる。
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――切断。
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世界そのものを、
静かに裂くもの。
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息を、止める。
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第21話・完




