第2話 最弱鑑定士、はじめて意図して無双する
闇の中に、足を踏み入れた瞬間――
空気が変わった。
冷たい。
だが、嫌じゃない。
むしろ。
ここにいる方が、正しい位置に戻ったみたいだった。
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背後で、配信カメラの光が揺れる。
視聴者:10
まだ、信じられない。
「……本当に、見てるのか?」
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【初見】
【洞窟ソロ?】
【さっきのチート虫なに】
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コメントが流れる。
本当に誰かが見ている。
三年間、評価されなかった俺を。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
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そのとき。
闇の奥で、低い唸り声。
赤い瞳が三つ。
四足。
牙が光る。
「……牙狼」
前衛三人でやっと抑える魔物。
普通なら、逃げる。
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【詰み】
【ソロ無理】
【主人公ここで終わる?】
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正論だ。
だが、今は違う。
ここは――
俺のダンジョン。
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牙狼が跳ぶ。
空気を裂く速度。
爪が喉元を狙う。
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俺は、初めて“意図して”思考する。
(第一階層、戦闘区画へ再構成)
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床が、波打った。
牙狼の着地地点が、一段沈む。
同時に、周囲の壁が円形にせり上がる。
閉鎖空間。
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《第一階層:闘技区画 生成》
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【え、地形変わった?】
【今の生成?】
【ダンジョン動いたぞ】
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牙狼は着地に失敗し、足を滑らせる。
床が傾く。
斜面が形成される。
牙狼は壁へ叩きつけられた。
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「……逃げ場、なし」
次の瞬間。
床が分割。
足場が三枚に割れる。
中央が落下。
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《重力落下区画 起動》
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牙狼が落ちる。
落下先で床が反転。
上下が逆転する。
叩きつけ。
さらに天井から拘束鎖が射出。
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【なにこれ面白すぎ】
【ボス部屋演出じゃん】
【これ設計してるの本人?】
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牙狼が吠える。
だが、ここは俺の空間。
「……圧縮」
区画が縮む。
壁が迫る。
牙狼の身体が、ゆっくり押し潰される。
骨が軋む音。
数秒。
完全沈黙。
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《侵入者:排除》
《資源変換:完了》
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床が元に戻る。
何もなかったかのように。
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呼吸が荒い。
だが、理解した。
俺は魔物を殴らない。
“勝てない空間”を瞬時に組み上げる。
戦闘=設計。
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視聴者:28
【今のなに】
【地形ハメじゃん】
【鑑定士どころか建築士】
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……増えてる。
俺は、さらに試す。
思考する。
通路延長。
視界確保用の光源設置。
索敵用微小区画展開。
ダンジョンが、即応する。
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《第二階層 自動拡張》
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その瞬間。
奥から、重い振動。
さっきとは違う。
巨大。
鈍い足音。
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【ボスきた?】
【でかい音した】
【視聴者増えてるぞ】
視聴者:41
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闇を裂いて現れたのは――
黒鎧巨獣。
通常個体より二回り大きい。
牙狼の上位種。
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床を踏み抜き、突進。
さっきの即席区画では止まらない。
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(なら、階層ごと変える)
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俺は深く息を吸う。
「……再構築」
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ダンジョン全体が脈打つ。
壁がずれ、通路が回転する。
床が浮き上がる。
巨獣の進路が、迷路へと変わる。
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《第一階層:迷宮化》
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【迷路生成!?】
【これゲームじゃん】
【主人公が運営側】
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巨獣が曲がり角で衝突。
壁が柔らかく吸収し、即座に硬化。
後退不能。
床が開く。
落下。
その下で、複数区画が連動。
圧縮、回転、反転。
巨大な歯車の中に飲み込まれる。
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最後に。
静かに。
「……終了」
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《侵入者:排除》
《第一階層 安定化》
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静寂。
巨大な死骸は残らない。
資源へ変換され、ダンジョンへ吸収される。
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視聴者:63
【無双始まった】
【設計型チートは新しい】
【これ伸びるやつ】
【ブクマ確定】
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俺は、静かに息を吐く。
怖くないわけじゃない。
だが。
逃げる理由は、もうない。
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胸の奥で、確信が灯る。
ここでは。
俺の意思が、法則だ。
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水晶を見る。
視聴者:71
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ほんの数分で、ここまで増えた。
俺の戦いを、誰かが見ている。
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闇の奥で。
さらに深い気配が動いた。
まだ、先がある。
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【続き気になる】
【次回ボス確定】
【今から追うわ】
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俺は、笑った。
「……面白くなってきた」
最弱鑑定士。
戦えない男。
だが今は違う。
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俺は――
ダンジョンを“作る側”だ。
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(第2話・完)
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