表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/52

第19話 届かない場所

 ――空気が、沈んでいた。


 森の奥。

 何もないはずの空間に、

 薄い歪みが揺れている。



視聴者:17,204,551


【来てしまった】

【質が違う恐怖】

【本能が拒否してる】



 胸の奥が、

 静かに冷える。


 強敵の気配じゃない。


 もっと遠い。

 もっと深い。


 触れてはいけない領域。



 次の瞬間。


 歪みの中から――

 小さな体が落ちた。



 子どもだった。


 十にも満たない、

 ただの村の子ども。



【やめてくれ】

【その展開は無理】

【守ってくれ】



 呼吸が浅い。

 意識もない。


 体に広がるのは――

 黒い侵食紋。



 見覚えがある。


 ダンジョン侵食。


 だが、違う。


 これは――

 もっと奥だ。



 リュシアの声が震える。


「……こんなの、

 人に現れるはずが……」



 セリスが叫ぶ。


「レイン、早く!」



 分かっている。



 一歩、近づく。



 触れれば――

 止められる。

 消せる。

 救える。



 今までなら。



 だが。



 その瞬間、

 理解してしまった。



 これを消すには――


 さらに深く、

 境界の奥へ入る必要がある。



 戻れない領域。



【選択を迫るな】

【これ罠だろ】

【嫌な未来しか見えない】



 それでも。



 迷わず、

 手を伸ばした。



「……助ける」



 指先が触れた瞬間。



 世界が反転した。



 音が消える。

 色が消える。

 温度が消える。



 代わりに満ちるのは――

 底のない闇。



【深すぎる】

【帰れない場所】

【ここは踏み込むな】



 侵食が、

 腕を登る。


 肩へ。

 胸へ。

 意識へ。



 境界が溶ける。



 自分が、

 どこまで“自分”だったのか――

 分からなくなる。



 それでも。



 手だけは、

 離さなかった。



「……まだ……」



 子どもの心臓は、

 微かに動いている。



 あと少し。

 あと少しで――



 そのとき。



「――レイン!!」



 声が響いた。



 遠い。

 だが確かに。



 現実の側から。



 セリスだった。



【来てくれた】

【止めてくれ】

【間に合って】



 必死の声。



「戻って!!

 そっちに行ったら――」



 言葉が、震える。



「……帰って来れない!!」



 意識が揺れる。



 闇に沈みかけた輪郭が、

 わずかに止まる。



 それでも。



 手は、離せない。



 救えるかもしれない。


 ここで離したら――

 終わる。



 その瞬間。



 温かい感触が、

 手首を掴んだ。



 セリスの手だった。



「……もういい……!」



 涙の声。



「あなたまで、

 消えないで……!」



【やめてくれ…】

【どっちも救えない】

【苦しすぎる】



 闇が引き裂かれる。



 現実が、

 無理やり戻ってくる。



 引かれる。


 意識が。

 体が。

 存在が。



 そして――



 手が、

 離れた。



 静寂。



 子どもの胸は――

 もう動かない。



視聴者:18,772,904


【言葉が出ない】

【心が重い】

【これはきつい】



 呼吸が止まる。



 世界が、

 色を失う。



 胸の奥に広がるのは、

 悲しみでも怒りでもない。



 空白。



 空の奥で。



 “何か”が、

 わずかに揺れた。



 まるで――

 観測が終わったみたいに。



 小さく息を吐く。



「……そうか」



 これは戦いじゃない。



 選別だ。



 助ける力があるかではない。



 どこまで――

 踏み込めるか。



 拳を握る。



 今度こそ。



 震えは、

 止まっていた。



(第19話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ