第18話 最強と呼ばれる者
――森を抜ける直前。
風が、止まった。
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【来るぞ…】
【空気が段違い】
【強者の前触れ】
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鳥の声も消える。
葉の擦れる音も消える。
静寂が、
意図的に作られたみたいだった。
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足を止める。
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「……来たか」
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セリスが息をのむ。
リュシアも顔を上げる。
まだ姿は見えない。
だが――
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分かる。
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次の瞬間。
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前方の空間が、
音もなく歪んだ。
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そこから現れたのは――
一人の男。
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長身。
黒い外套。
背に一本の細剣。
飾りはない。
威圧もない。
それなのに。
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立っているだけで――
世界の重さが変わる。
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【格が違う】
【本物の最強枠】
【空気で分かる強さ】
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男は静かに周囲を見て、
最後に俺へ視線を向けた。
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「……なるほど」
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低い声。
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「王都が騒ぐ理由は、
君か」
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リュシアがはっとする。
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「まさか……
王国守護騎士……」
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震える声。
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「序列第一位――
アルヴェルト」
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【頂点きた】
【国家最強】
【ラスボス級の気配】
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アルヴェルトは否定しない。
ただ静かに立っている。
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「命令だ」
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感情のない声。
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「核保持者レイン。
王都へ同行してもらう」
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空気が張り詰める。
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【来たな権力】
【ここ分岐点】
【どう返す】
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少しだけ考える。
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「……断る」
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短い返答。
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リュシアの肩が揺れる。
セリスは黙ったまま。
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だが。
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アルヴェルトは怒らない。
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「そうか」
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ただ一歩、前へ出る。
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その瞬間。
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地面が沈んだ。
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【圧が異常】
【存在だけで重い】
【次元違う強さ】
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魔力じゃない。
威圧でもない。
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純粋な――
存在の重さ。
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リュシアが膝をつく。
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「……っ、重……い……」
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セリスも歯を食いしばる。
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だが。
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俺だけは――
何も変わらない。
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【効いてない】
【勝負見えた】
【格差えぐい】
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アルヴェルトの目が、
初めてわずかに細まった。
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「……無効化か?」
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「違う」
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一歩、前へ出る。
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「届いてないだけだ」
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静かな言葉。
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【名言きた】
【完全上位】
【震えるかっこよさ】
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空気が変わる。
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アルヴェルトが、
初めて剣に手をかけた。
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【本気来る】
【国家最強の抜刀】
【息止まる】
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細剣が、
静かに鞘から離れる。
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――一瞬。
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世界が、
切り裂かれた。
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音もなく、
背後の森が真っ二つに分かれる。
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【見えない斬撃】
【人の領域じゃない】
【強すぎる】
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リュシアの顔が青ざめる。
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「……こんなの、
学院でも誰も……」
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アルヴェルトは剣を下ろし、
静かに告げた。
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「これでも、
同行は拒むか?」
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沈黙。
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少しだけ、息を吐く。
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そして。
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足元を――
軽く踏んだ。
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それだけで。
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裂けた森が、
元に戻った。
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切断も。
破壊も。
最初からなかったみたいに。
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【巻き戻し!?】
【概念操作】
【理解不能領域】
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アルヴェルトの瞳が、
初めて揺れた。
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「……空間修復?」
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「違う」
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「触れてない場所は、
壊れてないだけだ」
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【理屈が神】
【完全に別次元】
【最強更新確定】
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静寂。
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数秒後。
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アルヴェルトは――
ゆっくり剣を収めた。
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【まさかの非戦闘】
【認めた?】
【展開うますぎ】
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「……理解した」
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低い声。
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「これは――
剣で測れる領域ではない」
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王国最強の騎士が、
はっきりとそう言った。
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【公式敗北宣言】
【格付け完了】
【伝説の瞬間】
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アルヴェルトは背を向ける。
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「本件は、
王都ではなく――」
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わずかに空を見上げる。
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「もっと上の判断になる」
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【神話ルート確定】
【国家超えた】
【スケール跳ねた】
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そのまま、
空間の歪みの中へ消えた。
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静寂が戻る。
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リュシアが、
震える声で呟く。
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「……王国最強が……
引いた……」
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セリスは静かに言う。
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「違う」
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「届かなかっただけ」
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【真の理解者】
【信頼の深さ】
【この関係好き】
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胸の奥が、
わずかに痛んだ。
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さっきより、
少しだけ強く。
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だが――
まだ歩ける。
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前を見る。
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森の奥。
世界の境界。
そのさらに先。
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そこから。
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何かが、確実に近づいていた。
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(第18話・完)




