第15話 天才は、まだ本物を知らない
――森を抜けた先に、
小さな石造りの遺跡があった。
崩れかけた壁。
苔むした柱。
人の気配はない。
だが――
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魔力だけが、濃い。
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【新ダンジョン感すご】
【雰囲気SSR】
【絶対なんかあるやつ】
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セリスが周囲を見回す。
「ここ……普通じゃない」
「ああ」
短く答える。
空気の流れが歪んでいる。
まるで空間そのものが
重なりかけているようだった。
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そのとき。
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「――動かないで」
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背後から、
澄んだ声が落ちた。
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【背後取られた】
【新キャラ乱入】
【声が強キャラ】
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振り向く。
そこに立っていたのは――
一人の少女だった。
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長い銀髪。
淡い蒼の瞳。
年齢は、十六か十七。
だが纏う空気は、
明らかに常人じゃない。
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手には、
精緻な紋章が刻まれた魔導杖。
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【天才オーラ出てる】
【絶対エリート枠】
【噛ませに見えない】
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少女は俺たちを見て、
わずかに眉をひそめた。
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「一般人が来ていい場所じゃない」
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冷たい声。
迷いのない断定。
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セリスの目が細まる。
「あなたは?」
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少女は胸元の徽章を示した。
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「王立魔導院・首席。
リュシア・フェルロード」
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【首席きた】
【ガチの天才】
【エリート中のエリート】
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誇張はない。
事実だと分かる魔力密度だった。
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リュシアは続ける。
「この遺跡は、
王都でも未解明の危険区域」
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そして俺を見る。
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「――あなたたちじゃ、
死ぬ」
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【言い切り強すぎ】
【火力高い発言】
【バチバチやん】
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少しだけ、考える。
敵意はない。
ただの事実認識。
つまり――
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彼女はまだ何も知らない。
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「忠告どうも」
それだけ返す。
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リュシアの眉が、
わずかに動いた。
想定外の反応だったのだろう。
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「……理解してないの?」
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次の瞬間。
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遺跡の奥から、
低い唸りが響いた。
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【来るぞ】
【ボス確定音】
【空気変わった】
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地面が震える。
空気が沈む。
魔力の圧が、
一気に高まった。
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リュシアの表情が変わる。
初めて、
真剣な顔になる。
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「下がって」
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杖を構える。
空気が収束する。
周囲の魔力が、
彼女へ吸い込まれていく。
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【本気モード】
【首席のターン】
【見せ場来た】
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詠唱は、ない。
ただ一言。
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「――穿て」
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光が生まれる。
圧縮された蒼の閃光。
次の瞬間――
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轟音。
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遺跡の奥が、
爆ぜた。
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【火力おかしい】
【これ勝っただろ】
【主人公空気?】
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土煙が舞う。
静寂が戻る。
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リュシアが、
ゆっくり息を吐いた。
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「……終わり」
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確信に満ちた声。
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だが。
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煙の奥で――
何かが動いた。
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【え?】
【嫌な予感】
【まだ生きてるやつ】
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重い足音。
一歩。
また一歩。
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姿を現したのは――
先ほどよりも
さらに巨大な影だった。
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リュシアの瞳が、
見開かれる。
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「……ありえない」
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声が震える。
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彼女の全力魔法。
それが――
通じていない。
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【天才フリーズ】
【現実見ちゃった】
【ここから本番】
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影が、腕を振り上げる。
狙いは――
リュシア。
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彼女は動けない。
理解が追いついていない。
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その瞬間。
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小さく、息を吐く。
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「……仕方ないな」
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一歩、前へ出た。
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【来たぞ】
【主人公起動】
【安心感が違う】
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リュシアが振り向く。
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「なにを――」
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言葉が、止まる。
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俺はただ、
手を上げただけだった。
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それだけで。
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周囲の空気が――
静かに凍りついた。
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巨大な影の動きが、
ぴたりと止まる。
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完全な静止。
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【は?】
【何が起きた】
【理解が追いつかない】
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リュシアの瞳が、
ゆっくり揺れる。
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天才が初めて見る、
常識の外側。
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(第15話・完)




