第10話 世界は、もう見てしまった
――静寂だった。
ついさっきまで、
確かに“何か”が起きていたはずなのに。
風もない。
音もない。
ただ、世界だけが――
取り残されたように静かだった。
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【……終わったのか?】
【いや今の何だった】
【説明できる人いる?】
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俺はまだ、
膝をついたままだった。
腕の中には、
浅く息をするセリス。
生きている。
それだけで、
十分だった。
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だが。
胸の奥の鼓動は、
まだ止まらない。
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さっき消えたはずの“裂け目”。
空を見上げても、
もう何もない。
なのに。
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見られている感覚だけが、残っている。
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「……気のせいじゃないな」
小さく呟く。
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【まだ終わってないやつ】
【怖すぎて震える】
【配信続いてるの奇跡だろ】
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そのとき。
遠くから――
重い足音が近づいてきた。
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規則的。
統制された数。
振り向かなくても分かる。
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王都の部隊だ。
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数秒後。
白銀の鎧の集団が、
視界に入った。
先頭に立つのは――
第7話で現れた、あの男。
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だが。
彼はもう、
さっきと同じ目をしていなかった。
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驚愕。
困惑。
そして――
理解不能を見る目。
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「……今のは」
言葉が続かない。
当然だ。
説明できる人間なんて、
この世界にいない。
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【騎士団フリーズ中】
【そりゃそうなる】
【100万人が目撃してる】
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配信画面の端で、
数字が更新される。
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視聴者:1,620,000
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もう、
桁を気にする感覚すらない。
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白銀の男が、
ゆっくり膝をついた。
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――騎士の礼。
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【え、跪いた?】
【国家レベルで土下座】
【展開えぐい】
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「……脅威判定を更新する」
低い声。
だが震えている。
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「核保持者レインを――」
一拍。
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「最優先保護対象とする」
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空気が変わった。
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さっきまでの“管理”ではない。
完全な――
扱いの反転。
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【手のひらドリル】
【国家ビビり散らかし】
【そりゃ守るわ】
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興味はなかった。
称号も。
評価も。
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ただ一つだけ。
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「……静かにしてくれ」
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腕の中のセリスを、
見下ろす。
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「こいつ、寝てるんだ」
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一瞬の沈黙のあと。
騎士たちが、
音を消すように動いた。
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【優しさで殴られた】
【ここでそれ言うの反則】
【完全に好き】
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胸の奥の鼓動が、
少しだけ落ち着く。
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――そのとき。
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空の奥で、
何かが軋んだ。
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誰にも聞こえないほど、
小さな音。
でも。
俺には分かる。
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さっきの“裂け目”とは違う。
もっと遠い。
もっと深い場所。
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世界の外側。
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そこから。
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静かに。
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こちらを見ている。
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【今ちょっと寒くない?】
【空気バグった】
【ホラーやめて】
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配信画面の端に、
再び見慣れない表示が浮かぶ。
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《観測継続》
《上位存在:干渉準備段階》
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【ログ増えてる】
【運営じゃないやつ】
【神話案件きた】
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小さく息を吐く。
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「……来るなら来い」
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恐怖はなかった。
むしろ。
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胸の奥で、
静かな火が燃えている。
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守ると決めた。
それだけだ。
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空を見上げる。
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その瞬間。
誰にも見えないはずの“向こう側”で――
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何かが、確かに動いた。
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世界が、
わずかに軋む。
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物語はもう、
止まらない。
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(第10話・完)




