第1話 追放された鑑定士、世界に存在しないダンジョンの主になる
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「──もういい。お前は外れだ」
その一言で、三年が切り捨てられた。
王都最強と名高いS級パーティ《蒼天の牙》。
俺、レインは専属鑑定士だった。
戦えない。
魔法も使えない。
だが――
未知の魔物の弱点。
呪われた装備の真贋。
未踏破ダンジョンの崩壊予測。
俺の鑑定は“国家級精度”。
三年間、一度も外していない。
それでも。
⸻
「今回の崩壊は、お前の鑑定ミスだ」
リーダーが告げる。
俺は静かに言った。
「撤退推奨を出した。危険域突破は──」
「黙れ」
横から割り込む貴族。
今回の遠征スポンサー。
「功績が必要だったのだ」
つまり。
俺の鑑定より、貴族の焦りを優先した。
結果、前衛は重傷。
作戦は失敗。
⸻
「報告書には“鑑定士の判断誤り”と書く」
「……は?」
「貴族様の判断ミスにはできねえだろ」
仲間の一人が笑う。
三年間、命を預け合ったはずの連中だ。
誰も否定しない。
理解した。
これは責任ではない。
生贄だ。
⸻
「戦えない鑑定士が悪い。それで丸く収まる」
装備没収。
冒険者証剥奪。
違約金請求。
王都追放。
たった三十分で、俺の人生は“なかったこと”になった。
⸻
王都外れの荒野。
風だけが吹いている。
「……俺が、外れ?」
三年間、鑑定は一度も外していない。
むしろ――
《蒼天の牙》がS級に昇格できたのは、俺の鑑定があったからだ。
それでも、俺は切られた。
戦えないから。
⸻
その瞬間。
足元が、ぐにゃりと歪んだ。
黒い穴が開く。
静かに、深く。
まるで――
新生ダンジョン。
ありえない。
王都近郊は完全調査済みだ。
俺は反射的に呟く。
「……鑑定」
淡い文字が浮かぶ。
⸻
《未登録ダンジョン:???》
危険度:測定不能
階層:無限拡張可能
所有者:──あなた
⸻
「……は?」
思考が止まった。
次の瞬間。
漆黒の上位捕食虫が這い出る。
S級指定魔物。
丸腰の俺なら即死。
逃げろ、と身体が叫ぶ。
だが――
⸻
魔物が、止まった。
俺を見たまま、震えた。
次の瞬間。
見えない圧力に押し潰され、粉砕された。
⸻
《ダンジョン防衛機構が侵入者を排除しました》
⸻
防衛機構?
ゆっくり足元を見る。
黒い穴。
静かに脈打つ。
そして、変わらない表示。
⸻
所有者:あなた
⸻
「……俺の、ダンジョン?」
胸が熱くなる。
情報が流れ込む。
階層構造。
魔物配置。
罠起動条件。
資源生成。
侵入者の処理ルート。
分かる。
全部、分かる。
まるで俺が“設計図”だ。
⸻
そのとき。
穴の奥から、さらに。
二体、三体――
黒殻の重装型捕食虫が這い出た。
さっきの個体より明らかに強い。
脚が刃のように光っている。
狙いは俺。
一斉に跳んだ。
⸻
(――無理だ)
そう思った瞬間。
俺の“思考”が先に動いた。
「……閉じろ」
地面が盛り上がった。
黒い石柱が円環状に隆起する。
逃げ道のない檻。
魔物は、その円の中へ落ちた。
⸻
《第一階層:拘束区画 生成完了》
⸻
「……俺が、作った……?」
声が震える。
だが魔物は止まらない。
檻へ体当たり。
石柱が軋む。
次の瞬間。
床が、沈んだ。
沈むだけじゃない。
“裏返る”。
重力の向きが、反転した。
魔物たちは天井へ叩きつけられた。
⸻
《重力反転トラップ 起動》
⸻
続けて。
天井の黒石が割れ、
無数の槍が雨みたいに降る。
逃げ場はない。
串刺しになった魔物が、もがいて――
数秒で、動かなくなった。
⸻
《侵入者:排除》
《区画:自動洗浄》
⸻
血が床に吸い込まれ、痕跡が消えた。
静寂。
俺は、ただ立ち尽くす。
剣も握っていない。
呪文も唱えていない。
なのに。
勝った。
いや――
俺が戦ったんじゃない。
“勝てる場所”を作った。
⸻
理解する。
俺は敵を殴らない。
敵が“勝てない空間”を作る。
それが、俺の戦い方だ。
⸻
さらに思考を巡らせる。
階層を拡張。
足元から黒い通路が伸びる。
壁が組み上がる。
魔力炉が鼓動する。
一瞬で。
荒野の一角が、
巨大な地下構造へと変貌する。
⸻
《第二階層 自動生成開始》
《防衛機構 増設》
《資源循環システム 稼働》
⸻
理解した。
俺は“鑑定士”だった。
でも今は違う。
俺は――
ダンジョンそのものを生成する側だ。
⸻
そのとき。
草むらで、小さな光が揺れた。
拾い上げる。
配信記録用カメラ。
遠征用のものだ。
皮肉にも、俺の私物扱いで没収されなかったらしい。
何気なく魔力を流す。
ぴ、と起動音。
『……テスト。映ってるか?』
沈黙。
夕焼け。
荒野。
足元の、世界に存在しない穴。
数秒後。
画面の端に文字が浮かんだ。
⸻
視聴者:1
【え、なにこれ】
【どこ?王都外?】
【ダンジョン湧いてない?】
⸻
心臓が跳ねた。
誰かが見ている。
何もかも失ったはずの俺を。
そして――
世界に存在しないダンジョンを。
⸻
視聴者:2
【初見なんだけど…野良ダンジョン?】
【今の虫、S級じゃね?】
【え、死んだ?一瞬で?】
⸻
……増えた。
たった今、回線が“繋がった”。
俺は乾いた笑いを漏らす。
「……配信、か」
三年間、評価されなかった俺が。
今、世界に見られている。
理由は一つ。
足元のこれだ。
⸻
視聴者:4
【所有者:あなた って見えたんだが】
【嘘だろw】
【主人公、何者?】
⸻
俺はゆっくり息を吐く。
三年間、押し殺してきた感情が浮かび上がる。
悔しさ。
屈辱。
怒り。
それでも、飲み込んできたすべて。
「外れ、か」
なら。
見せてやる。
“戦えない鑑定士”という前提ごと、壊してやる。
⸻
俺は穴を見下ろす。
闇の奥で、
ダンジョンが――待っている。
⸻
視聴者:7
【入るの!?】
【ここから始まるやつ】
【ブクマした(早)】
【タイトル回収気持ちいい予感】
⸻
「──行くぞ」
俺は、闇へ踏み出した。
⸻
その瞬間。
足元の穴が、どくんと脈打つ。
“歓迎”のように。
そして、俺の頭の中に――
次の階層の設計が流れ込んできた。
まだ誰も知らない。
これは。
追放された鑑定士が、
世界の設計図を書き換える物語。
⸻
視聴者:10
【開幕から強すぎ】
【鑑定士なのに戦い方が“地形”】
【世界観ひっくり返るタイプだ】
【次話いく】
⸻
(第1話・完)
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