睦姫②愛美の劣等感
「『望まなくてもトップ』ってなんだよ!?」
トップを望んだわけではなく、我を通していたらトップになっていた。だから自覚はある。だけど、アイミにケチを付けられる理由が思い付かない。
「藤原グループの一軍は、ムツキとフミヤとコウジ。
私と加藤と遠藤は二軍。そんな話、ムツキは聞いたことねーだろ」
「なんだそりゃ?」
「女子のクラストップは武藤睦姫。それは良い。私だって認めている。
次は菅原涼華。まぁ、生徒会長なんだから仕方が無い。
だけどさ、3番手は織田櫻花・・・ムツキと菅原と織田が1軍なんだってよ。
腹立つよな~~~。なら私は何なんだよ?」
菅原や織田が注目を集めているのは解る。菅原は実績で、織田は人格や総合的なカリスマで、その地位にいる。
「なぁ、アイミ・・・
スクールカーストの1軍って、望んでればなれるものなのか?」
肝心な私が、どうやって皆に認められているのかが解らない。
「そのスタンスがムカ付くんだ!
ムツキやフミヤには、私や加藤や遠藤の悔しさは解らねーんだよ!」
「悔しさ?」
アイミが剣を振り上げて向かって来たので、横に回避をしてやり過ごし、擦れ違いながら、アイミの裏腿を旗竿で叩く。体勢を崩したアイミは転倒をした。
「踏み込み、切り返し、どっちも遅すぎる!満足に動けてねーっての!」
立ち上がったアイミが、マントを外して突進をしてきた!アイミが振るった剣を弾いて全身に竿頭の連打を打ち込むが、正面からの攻撃では分厚い鎧に阻まれて、ダメージを通せない!顔と首だけは露出をしているが、顔は狙いたくない。
「クソみてーな鎧に隠れてんじゃねーよ!それで格好良いつもりかっ!
私の攻撃が、そんなに怖いかっ!」
「怖い・・・と思ってたけど、大したこと無いみたいだな。
ムツキが強いのは喧嘩だけ。
そう言えば、武器なんて振り回したこと無かったよな」
アイミが剣を地面に刺し、紫の兜、籠手、胸当て、腰当てを外して、地面に転がす。
「これで、急所を狙いやすくなった・・・なんて考えは甘いからな。
剣を合わせて解ったよ。ムツキより私の方が、修羅場を潜り抜けている」
地面に刺した剣を抜いて突進してきた!竿頭の刺突を放つが、旗を握られて武器の自由を奪われる!
「しまったっ!」
「旗付の槍なんて振り回してんのがマヌケなんだよっ!」
重武装に隠れていた時の倍は速い!懐に飛び込まれ、胸に剣の一振りを叩き込まれて弾き飛ばされ、尻餅を付く!甲冑を着てなかったら、今の一撃で死んでいた。
「ムツキこそ・・・
そんな鎧で身を守って、私の攻撃を怖がってんじゃねーのか?」
「言ってくれんじゃねーか」
紅い和風甲冑を脱ぎ捨てる。アイミの攻撃が怖い。だけど、煽られても「防御は大事」と割り切れるほど冷静ではない。
「はははっ!さすがは、ムツキ!打てば響くな~!」
「これで互いに背水の陣。笑ってんじゃねーよ!」
アイミを屈服させるには、同じ土俵で戦わなければ意味が無い。
「邪魔だったからさ・・・富醒を封じて抵抗できないようにして、
智人をそそのかして嗾けて、メチャクチャにブッ壊してやった」
「なに?・・・誰のこと言ってんだよ!?」
「織田に決まってんだろ。
アイツ、一晩中、声を殺して泣いてたってさ」
「おまえ・・・」
アイミが黒い目をして薄ら笑いを浮かべる。
「オマエ、いつの間にそんなに腐ったんだよっ!?」
「腐ったわけじゃない!望んでこうなったんだ!」
これが、アイミなのか?その表情は別人にしか見えない。
「帝都で、フミヤと会って驚いた。
私が智人のところにいるって知っていたのに、合流を後回しにしてた。
フミヤに殺意が湧いたのは・・・
智人の策に乗って、フミヤを誘き出そうと決めたのは、その時だった」
「何言ってんだ?逆恨みで、フミヤを倒したのかよ!?
尊人と真田は自分の足で動いてフミヤ達に辿り着いたってのに、
オマエは何もせずに人のせいにしてんのかよ!?」
「私は智人に救われた。智人に安息をもらった。
智人が私の『他人の足を引っ張ることしかできない特殊能力』を、
評価して必要としてくれた。
源と真田だって、智人に助けられた。
それなのに、アイツ等は智人を見限って、恩を仇で返しに来やがったっ!」
言いたいことは解るが、アイミの思想は盲目的すぎる。でも、改めて考えると「アイミは、そんなヤツ」と思い当たるフシはある。私自身が「私を全面的に信頼するアイミ」に甘えていた。
「智人がいなければ、源は目黒と青騎士に殺されていた!
『男女平等』なんて平和な考えは、この世界じゃ通用しねー!
真田は私と同じ末路になる寸前だった!」
「・・・同じ末路?」
アイミに何があった?私が戸惑ったところに、アイミが剣を振り下ろしながら突っ込んできた!辛うじて旗竿で受け止めるが、力負けをして仰向けに倒され、再び尻餅を付く!
顔を上げた時には、眼前に切っ先を突き付けられていた。
「仲間だと思っていた目黒が、自分の出世のために、私達を青騎士に売った。
属することを拒んだ柴田が、目の前で、青騎士共に殺された。
綿本は泣きながら歯向かって返り討ちに合って、
這いつくばりながら柴田を求めて手を伸ばしたけど、届く前に息絶えた。
アンタに想像できるか?さっきまで仲間だったヤツの死体が転がってんだぞ。
私の特殊能力じゃ、騎士共に対抗できない。降伏か死しか無かった。
心が折れて抵抗する気が無くなった私は降伏をして・・・
『恭順の証』と言われて目黒に・・・騎士共にも・・・
私の富醒は使い物にならねーから、死にたくなきゃ他の方法で役立てってよ」
その苦しみは「この世界で要領良く生きてきた私」には共有できない。価値観が崩壊して、何もかもが憎くなったのだろう。気の毒とは思う。だけど、同時に不満が湧いてくる。
「その苦しみを知っているのに、織田や菅原を同じ目に?」
キラーワードをぶつけたつもりは無かった。だけど、アイミが一瞬フリーズをしたので、突き付けられた切っ先を旗竿で弾いて立ち上がる。
「私だけが不幸なんて不公平すぎるっ!だからっ!!」
アイミが壊れて暴走をしている理由が、やっと解った。




