44-4・我慢のターン
「踏み込みすぎて逃げ場を失わないように、
自分の命を守りながら戦うことを最優先して、
チートが焦れて隙が生じるのを待とう」
そんなチャンスが訪れる保証は無い。だけど、こちらが焦って足並みが乱れないように、仲間達を落ち着かせる。
「富醒・レンタル!ウインドミル発動!!」
チートとの距離を保ちながら火の玉を幾つも飛ばして牽制!真田さんがチートの攻撃を先読みして回避しながら接近する!その後を追って、長野さんと楠木くんと龍造寺先生が突進をして、若林さんが掌を翳してチートの隙を待つ!
「ふんっ!ザコ共が何をやっても無駄だよ!」
チートが真田さん目掛けて無数の火炎弾を放った!
「やばっ!きゃぁっっ!!」
真田さんは辛うじて避けるが、床に着弾した火炎の爆風に煽られて弾き飛ばされる!
「真田以外に、俺を撹乱できる者はいない!」
真田さんを退けたチートが四方八方に火炎弾をバラ蒔いたため、接近中だった長野さんと楠木くんと龍造寺先生は足を止められ、後退を余儀なくされる。
「くっ!踏み込みすぎて狙い撃ちをされるよりはマシ・・・だけどっ」
チートの指摘通りだ。前に戦った時は、土方さんが牽制、真田さんと鷲尾くんが撹乱をして、フィニッシャーの藤原くんと近藤くんが突撃をした。
長野さんのトルネードでは土方さんのウインドミルほど射程圏が長くないので、僕が牽制をするしかないんだけど、ノーコンすぎて牽制になっていない。撹乱役が真田さんだけでは、チートに狙いをしぼられてしまう。長野さんと楠木くんと龍造寺先生と若林さんはフィニッシャータイプ。牽制と撹乱が駒不足では、フィニッシャーばかりいても活かせないのだ。
「どうした、尊人?もう終わりか?
遠慮しないで掛かって来いよ」
チートが、人差し指を上に向けて手前にチョイチョイと数回動かして挑発をする。
「ただし、今の攻め方は面白くも何ともないから、
もう少しマシな作戦を立ててからな」
腹立たしい。だけど、手札不足は承知している。チートが「物足りない」と感じているのは当然だ。表面的には攻めのスタンスをしているが、実際は「自分の命を守りながら戦う」を最優先しているので必要以上には踏み込んでいない。
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「前回の戦いで負けた理由は何だと思う?」
このたびの作戦立案は、吉見くんの些細な質問から始まった。
「そりゃ~もちろん、チートの特殊能力が別格すぎて、
・・・と言いたいけど、吉見くんの求めてる答えは、それじゃないよね?」
答えが「チートが強すぎる」なら、「堂々と正面から挑む」以外の作戦が必要になるのに、僕等は「正面突破」をするつもりだ。
「スキルシールでペースが崩れた。藤原くんが倒れて総崩れをした。
吉見くんが言いたいのはそれだよね?」
「うん。あの戦いのゲームチェンジャーは安藤さん。
彼女が動き出すまでは、苦戦なりに、こっちが戦いの主導権を握ってたからね」
チートと安藤さんを分断する。チートが安藤さんの援護をできないように足止めをする。それが、チート討伐の最低条件になる。
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「今は、我慢しなければならないターンだからね」
しかし、まるっきり通用しなかった「今の攻め方」を何度もするわけにはいかない。チートに「舐められること」すら飽きられて、本気で潰しに来られたら、あっという間に全滅してしまうだろう。
「牽制を別の人に任せて、僕がアジリティで撹乱に廻るべき?」
仲間達をチラ見して、懸命に脳ミソを回転させる。
「ダメだ。僕では鷲尾くんほど上手にアジリティを使えない。
あっという間に狙い撃ちされちゃう」
チートは、相変わらず黒い目をして、僕達を「いつでも潰せる」と言いたげに見下している。
「もう、僕の知っている智人じゃない」
「なに?」
「・・・変わってしまったね」
剣を下げ、チートを見つめる。
「今更、何を言い出すかと思えば・・・
俺には背負うべき大きな宿命がある。
いつまでも“優しいだけの俺”ではいられない。変化をして当然だろ」
「宿命なんて・・・無いよ」
時間を稼ぐ手段は交戦以外でも可能。藤原くんがチートとの交戦前に、息を整えるために弁舌で時間を稼いだことを思い出していた。
「負け惜しみか?それは、高い志を選ばなかった君の視野だ」
「宿命なんて無い。僕は、君の志が高いようには見えない。
承認欲求に正当性を持たせようとしているだけにしか思えない」
「あっそう。
変わったのは俺だけじゃない。
君も変わったってことだ。面白味の無いクズ側にな」
チートが掌を翳す。
「もうイイ。消えろ。
俺の知っている源尊人は、真田にそそのかされて死んだ。
俺の目の前にいるのは、尊人の形をした別の物」
「・・・くっ!」
ダメだ。神経を逆撫でしただけで、全く時間稼ぎになっていない。
チートが特殊能力を発しようとしたその時・・・
「尊人が変わったってのは認めよう」
対峙中の僕等と智人の間に剣が投げ込まれた。
その剣を見たチートが首を傾げる。
「これは、愛美の剣?」
飛んで来た方向に視線を向けると、武藤さんが立っている。
「だがな、チートはなんも変わってない。
相変わらず俺様万歳のまま、腐った性根が全面に発揮されてるだけだ」
武藤さんが足早に寄って来て、僕の隣に立つ。
「安藤さんは?」
「倒したに決まってんだろ!決めたことは守る!」
武藤さんは、いつもの調子で強気な発言をしている。だけど、泣き腫らした目をしていた。
「菅原ちゃん、前田ちゃん、和田さん、救出!
・・・ぢゃなかった!拘束完了っ!」
続けて、元気な声が聞こえて、由井さんが姿を見せた。後には吉見くんと、後ろ手に拘束されて布で口枷をされた菅原さん&前田さん&和田さんがいる。
「由井さん、我田さん、上杉さん、1人ずつ監視を頼めるかな?」
吉見くんの指示で、上杉さんが菅原さんを、由井さんが前田さんを、我田さんが和田さんを預かった。「女子3人にそこまでする?」と言いたくなるが、「想定外を徹底排除」しなければならない現状では仕方が無い。女子に任せるあたりが、吉見くんなりの「女子への礼儀」と解釈するべきなんだろうな。
「武藤さん、吉見くん、お疲れ様っ!」
2人が完遂をした。これで想定外による戦線崩壊の芽は摘まれ、チート討伐の最低条件が整った。これは、我慢のターンは終了したことを意味している。
「智人・・・もう味方はいないよ」
驚いた表情の智人を見つめる。
「降参をする気は?」
智人はプライドが高い。見下している僕の勧告に応じてくれないのは解っている。でも、一縷の望みをかけて問うてみた。




