43-1・開戦
朝、帝都の北から黒い狼煙が上がる。
「始まった!」
北都市軍が攻撃を開始した合図だ。他の3軍はノスの攻撃をキッカケにして呼応することになっている。
数分の後、帝都の南と東、そして、我が西都市軍の本陣からも黒い狼煙が上がる。
「わぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!」
セイの兵1万5千が、一斉に気勢を上げた。多分、本陣からは「かかれ」の号令が発せられたんだろうけど、左の端にいる藤原組までは届かない。
伝令係の騎士が「進め」と叫びながら、整然と並ぶ兵の間を駆ける。
「出陣だぁっっ!!」
セイの先陣が、帝都西門に向けて進撃開始。守っているのはセイを見限ってチートに与した白鎧に紫マントの兵士達。南門は赤鎧の兵、北門は黒鎧の兵、東門は青鎧の兵、帝都の4門全てにおいて、同郷同士がぶつかる構図になっている。これは、「元仲間同士での争いでは戦意が上がりにくく、戦局が膠着をする」という敵側の魂胆。おそらく、戦局を膠着させて、智人が直々に崩して廻る作戦だろう。
「ヤバっ!緊張してきた」
「平常心でいられる方が怖いでしょ」
真田さんが僕の腕を掴んで落ち付かせてくれる。僕の全身の震えが真田さんに伝わって恥ずかしい・・・と言いたいんだけど、真田さんの震えも伝わってくる。
「ぼ、僕がシッカリしなきゃ・・・」
「ジェンダーレスだよ!」
「それでも・・・僕がシッカリしたいの」
セイの先陣の4000人が動き出す。中央の3000人と、帝軍守備兵5000人のうちの前衛がぶつかった。右翼と左翼(各500人)が壁にハシゴをかけようとするんだけど、黄鎧の兵が櫓から魔法を飛ばしたり矢を射るので取り付けない。
「・・・これが戦争」
気が逸るけど、僕等の出番はまだだ。戦争なんて初めてなので、どうなれば「膠着」なのかよく解らないんだけど、敵側が仕向けた「東西南北の全戦場で膠着させる」に引っかかったフリをするのがこちらの作戦だ。ハシゴを架けようとしているのも「本気で攻めるふり」をしているだけ。
「尊人くんっ!見てっ!」
「うん、動き出したね」
第二陣2000人が動き出した。セイ先鋒と守備軍は正面衝突をしており、第二陣が左右から攻めかかって守備兵を挟む。これで守備兵は正面の先陣、左右の二陣、背後の門に囲まれた。だけど、これでセイ軍が有利になっているわけではない。守備隊の後衛が動き出して応戦をする。
門の内側には、僕等が把握できない帝軍の本隊が控えており、やがて表に出てくるはずだ。
「予定通り・・・だよね」
守備兵が囲まれて動けなくなる。これが、僕等の出撃するタイミングになっている。
「そろそろ俺達の出番じゃないのか?」
司が同意を求めてきた。武藤さんと吉見くんが不在(南の戦場にいる)の藤原組は、バスケ部1軍の司や薙刀名人の長野さんではなく、僕と真田さんが主導権を握っている。
「うん、そろそろだよね」
「ミコト殿!藤原組のご出陣をお願いしますっ!」
ホワイさんが寄ってきて「出撃依頼」をする。この人、昨日までは上目線だったのに、「僕の檄」以降、急に敬語を使い始めた。権力に巻かれるタイプなのかな?ホワイさんに「出撃しろ」と言われると、「この人の判断力に従って大丈夫なのか?」と、ちょっと不安になってしまう。
「解ってるんだけど・・・」
壁の内側では、どのくらいの兵が待機をしている?帝兵は全部で7万人くらいだから、1万5千人くらいはいるのだろうか?
「チートなら・・・どう采配する?」
アクションゲームをしている時のチートは、強い敵との一騎打ちでも実力を魅せてくれたけど、弱い敵の群れに無双するのを楽しんでいた。
一騎打ちは北の戦場でブラークさんと、無双は「僕等がいる」と思われている南の戦場で行うつもりだろう。兵数が少ない東の戦場は放置として、この戦場では何をしようと思っている?
『モンスターが弱ると、攻撃の手を休めてフィニッシャー狙うよな』
この世界に転移をした前日、オンラインゲームで「トモロー被害の会」に誘われてたことを思い出した。当時は気持ちが悪いと思って相手にしなかったけど、チートは強敵の疲弊を待って「ハイエナ行為」をしていたらしい。
「この戦場では、それをする?」
北都市軍の中核のブラークさん、南都市軍の中核の藤原組、そして4都市決起の中核たる西都市軍。この3つを潰されたら、反チート連合軍は終わる。
「チートは、セイ軍の疲弊を待って本陣を叩くつもりだ!」
対策は簡単。作戦通り、僕等が帝都に突入すれば、チートはセイ軍を攻撃する余裕が無くなる。だけど、チートはセイ軍を疲弊させるつもりなら、壁の内側には相応の兵が待機をしている。僕等が足止めされたら、チートに余力を与えてしまう。壁内に突入して、囲まれる前に突破しないとマズい。
「どうする?どうする?どうする?
強制支配を発動して・・・
いや、僕のルーラーでは干渉領域が狭すぎる」
ブラークさんなら強行突破をできるかもしれない。藤原くんなら臨機応変に対応できるのかもしれない。吉見くんなら事前に打開策を打てるのかもしれない。
「考えろ。考えろ。考えろ。
今、この戦場では、僕が決定権を握っている。僕が皆の命を預かっている」
ブラークさんなら、藤原くんなら、吉見くんならどうする?
「ホワイさん!門の攻撃を厚くしてください!」
「攻め手を増援したら、塀の内側の兵が出て来ますよ!
もうしばらくは膠着を演出するのではなかったのですか?」
「作戦変更です!激戦を演出して、壁内の兵を引っ張り出してください!」
攻め手が有利になれば、門に取り付かれる前に内側の兵が出てきて門を守る。壁内で兵が動き出せば、全体が「待機」から「持ち場移動」に変化する。その間隙を突いて突入をする。
「承知しました!」
「それから、ホワイさんの掌握している兵を僕等と一緒に突入させてください!」
壁内に突入する兵を増やす。そうすれば、門の争奪戦は意味を為さなくなり、味方の疲弊は最小限で済む。必要なのは「チートが思考をする前に王手をかける短期決戦」だ。壁内に大量の兵が待機をしている状況で突入して、市街地戦になってしまうのは不本意だけど、背に腹は替えられない。
「承知しました!直ぐに本陣に戻って手配をします!」
「門が開いて帝兵が出てきたら僕等は動きます!
ホワイさんの兵を追随させてください!お願いします!」
権力に巻かれるタイプのYESマン・ホワイさんが急いで馬を走らせて本陣に戻っていく。
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