早璃②
願をかけて木に登った。ここで尊人くんに会えたら、なんか「良いこと」がある。勝利・現実への帰還・恋愛成就・・・どんな「良いこと」かは、尊人くんに会えなかったら困るので決めない。
「とにかく、なんか良いことっ!」
木の枝に座って、星空や月明かりに照らされた平原、キャンプをするセイ軍、明かりが灯った帝都を眺める。
この世界のせいで悲しいことがいっぱい起きたけど、現実世界では有り得ない楽しい経験もできた。
「色々あったけど、もう、終わるんだよね」
負けて死んで終わっちゃうのか、勝って現実世界に戻って終わらせるのか解らないけど、この世界で平穏な気持ちでいられるのは、きっと今が最後だろうな。
「そんなところで何やってんの?」
尊人くんがあたしを発見して寄って来てくれた。しまった、こんなことなら漠然とした「良いこと」じゃなくて、ちゃんと願掛けをしとくべきだったな。
「お願いごと・・・決めた?」
あたし達のリーダーとして願い事を叶える権利を持つのは尊人くん。もちろん異論は無いよ。
でも、どんなお願いをするのかは、メッチャ興味がある。尊人くんがお金や権力に執着する姿は想像できない。急に頭が良くなったり、スポーツが超万能になったり、アイドル並のイケメンになったら、もうそれは「尊人くん」ではないので幻滅する。
櫻花が絡むお願い・・・かな?おうかっちの心を操るみたいなお願いをしたら尊人くんを嫌いになるけど、おうかっちを幸せにするお願いだったら、認めるしかないよね。
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最初は「何となく気になる」「放っておけない」「ちょっと好き」みたいな気持ちで、尊人くんが北東村を出発する時に付いていくことにした(第6話)。前からイイヤツってゆーのは解ってたけど、道中ではジックリとお話しをすることができて、気が合うってゆーか、話してて面白いってゆーか、想像通りの人ってゆーのが解った。思ってたより勇敢だったり、イザってなると頼れるのも解った。
曖昧だった気持ちが「好き」になったって自覚をしたのは、西都市の宿で、隣の部屋の尊人くんとチートの会話を盗み聞きした時だと思う。
「なんで真田と組んでいる!?いつ乗り換えた!?
真田にそそのかされたのか!
アイツの所為でオマエがおかしくなっている!
真田の部屋はどこだ?隣か?」
「真田さんに何をする気?」
「安心しろ。別に、取って食いはしない。
君の為にならないから、この町から出て行ってもらう。それだけだ」
あたしの話題になってて、チートが「あたしを追い出す」って言ってる。これって異世界ストーリーのあるある(追放物)パターン?嘘でしょ?ヤバいって。あたし、「追放された途端に能力が開花する」予定なんて全然無いよ。どうしよう?
「ふざけるなぁっっっっ!!!
真田さんを追い出すなら、僕もこの町から出て行くっ!」
尊人くんが、すっごい怒鳴り声を上げたので驚いちゃった。
「僕・・・この町から出て行く」
「後悔しても助けねーからな」
「僕、後悔しないように頑張るから」
チートが尊人くんの説得を諦めて、1人で部屋を出て行く音が聞こえる。
ドゴォン!
あたしの部屋の場所、知ってるのかな?廊下側から思いっ切り壁を叩かれた。普段なら、イラッとしてドアを開けて怒鳴り付けるんだけど、会ったら勢いで殺されちゃうような気がして、部屋の中で小さくなってることしかできなかった。
「尊人くん・・・友達よりも、あたしを選んでくれた」
チートは怖かったけど、尊人くんがあたしを守ってくれたのが嬉しかった。もしかして、あたしのこと好き?両想い?
追放されてぼっちにならずに済んだ安堵より、尊人くんと一緒にいられる安心感が勝っていた。ハッキリと「尊人くんが好き」って解った。
それなのにさ・・・両想いかもしれないって期待しちゃったのにさ・・・
尊人くんってば、西都市を出た直後の西宿場で、7人の令嬢にチヤホヤされて舞い上がっちゃってるの。みんな、可愛いとは思うけどさ、あたしだって負けてないんじゃね?男の子の格好してるからダメなのかな?
男子に媚びるために主義を変えるってゆーのは、あたしらしくない。でも超頭に来ちゃったから、銀の胸当てを質草にして、7人の令嬢みたいなドレスを借りて、お化粧もちゃんとして、尊人くんに見せてあげた。
やっぱり、あたしらしくなかったかな?尊人くん、メッチャ驚いてたよ。でも、7人の令嬢が悔しがってたから、一定の報復は成功したと思うよ。
もちろん、借り賃を払ってドレスは直ぐに返却して、胸当ては返してもらいました。
藤原と合流して尊人くんだけ追放されそうになったけど、ふーみんをギャフンして認めてもらった時は嬉しかったな~。それまでのふーみんは、ずっと尊人くんのことを格下扱いしてたけどさ、やっと尊人くんの凄さが解ったみたい。
あたし、ドンドンと尊人くんを好きになっていくのが解る。だけど、踏み込めば踏み込むほど、尊人くんの心のど真ん中には「織田櫻花」っていうラスボスレベルの強敵がいるのが解っちゃう。
悔しいけど、おうかっちは超可愛くて、超性格が良くて、何でもできて・・・しかも、尊人くんとは幼稚園からの幼馴染みらしくて・・・彼女の存在感の大きさを認めるしかない。
もうさ、ちょっと地味な男子が、アイドル並に可愛い幼馴染みとくっつくって・・・超「あるある」パターンじゃん。
でもね、あたしは諦めないの。恋愛って「振り向いてくれる人だけ」しか好きにならないわけじゃないよね。
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それなのにさ・・・おうかっち、尊人くんを助けて犠牲になった。
ズルいよ。そんなことしちゃったら、絶対に勝てないじゃん。
尊人くん、イイヤツすぎるから「おうかっちを助けられなかったこと」をずっと後悔してるのが解る。前の尊人くんは、おうかっちの話題になると妄想気味なフリーズをしてたけど、今の尊人くんは辛そうな顔をする。こんなんじゃ、あたし、入り込む場所が無い。
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「尊人くんっ!飛び降りるから受け止めてねっ!」
「はぁ?」
「降り方が解んないの。
尊人くんなら、下で受け止めるの拒否らないでしょ」
「うん・・・まぁ・・・」
木の枝から飛び降りる格好をしたら、尊人くんが立ち上がって、「僕の胸に飛び込んでこい」みたいな感じに両手を広げてくれた。
「いいよぉ~!」
「いくよっ!それっ!」
脳天にニードロップを叩き付けてしまった前回とは違う。今度は、ちゃんと受け止めてもらった。
しばらく、尊人くんの腕と胸の中にいたかった。そのままの雰囲気でギューやチューでも良いと思ってた。それなのに、あたしが地面にちゃんと立ったのを確認した途端に、尊人くんは「どこもぶつけてないよね?」なんて言いながら離れちゃった。
意気地無しっ!「据え膳食わぬは男の恥」って言葉を知らないの?
もし・・・だけどさ、明日の戦いで、あたしが尊人くんを守って犠牲になったらさ、あたしは尊人くんの中で、おうかっちと並べるのかな?
聞いてみたいけど、尊人くんにも、おうかっちにも失礼だよね。あたし、バカみたい。




