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41-4・吉見くんの覚悟

「帝都に撤退するチート軍を追撃すれば、こっちが有利だよな?

 籠城される前に決着を付けちまおうぜ」


 楠木くんが至極真っ当な提案をしたんだけど、吉見くんは首を横に振る。


「源君、真田さん、我田さん、それから輪島さんも・・・かな?

 チートの戦い方を見た人なら、広い戦場はチートの独壇場って解るよね。

 彼は、味方がいてもお構い無しに、広範囲で殺傷力の高い攻撃をする。

 彼の優位性を少しでも潰すなら、町中や建物の中・・・

 狭くて遮蔽物がある戦場を選ぶべきだろうね」


 以前、ブラークさんが「トロールのねぐらを奇襲する」作戦を立ててくれたことを思い出す。戦場の狭さを地の利にする。あの時と同じ状況だ。


「あれ?ちょっと待ってよ」


 納得をできた途端に、僕には新しい疑問が湧いた。


「決起は2日後なんだよね?」


 早馬が西都市セイ東都市アーズマに到着するのは明日になる。いくら軍事侵攻の準備が整っていても、整列して待機しているわけではないんだから、軍の編成に最低でも1日は必要。どんなに早くても2日後。ここまでは良い。


「でも、直ぐにチートが把握できるわけじゃないよね。

 スパイや斥候が把握して、急いでチートに伝えるとしても、

 チートは帝都から離れて南に向かってるんだから、1~2日はかかっちゃうよ」

「もちろんだよ。

 チートに反乱の情報が伝わる前に、南都市サウザン攻撃は始まってしまう」

「野戦ってことでしょ?モロにチートが有利な戦場になっちゃう。

 それとも、サウザンの町中に誘い込んで戦うつもり?」

「そんなことしたら、サウザンは焼け野原にされてしまうだろうね。

 防壁を簡単に壊せるチートに対して防衛戦をするってことは、

 防壁に近付けないように、野戦をするしかない。

 1~2日はチートに有利な状況でチートの軍と戦わなければならない。

 残酷な言い方になるけど、仲間の何人かが犠牲になる覚悟をするしかないよ」


 無傷のままチートを討伐できるとは思っていない。誰かが犠牲になっても、「勝てば元通り」とは思っている。だけど、それはもう少し先のことだと思っていた。仲間を失う戦いが3日後に迫っていることを想像すると体が震える。


「その現実を前提にした上で、源君に聞きたい。

 君は本当にチートを討てるの?」

「・・・え?」

「宣戦布告の前日と直前、君は自分が背負った重荷に困惑していたよね?

 チートの思考を読んで帝都脱出を成功させた時、罪悪の表情をしていたよね?」


 指摘通りだ。吉見くんに気付かれていたことに困惑をして言葉を失う。


「尊人くんとチートは仲良しだったんだから、仕方無いじゃん」

「真田さん、もう『仕方無い』じゃ済まない段階なんだよ」


 真田さんが庇ってくれるけど、吉見くんは即座に却下をした。


「決起をすれば、もう『待った無し』になる。

 チート討伐なんて『薄氷の上を歩く』の連続になる。

 土壇場で迷われたら、君を信じて託した全員に迷惑が及ぶんだ。

 『できない』なら、君は外して、フィニッシャーは他の誰かにしてもらう。

 『やる』か『やらない』か、今、皆の前でハッキリと意思表示してほしい」


 吉見くんが冷静な顔をして僕を見つめる。藤原くん達と一緒に生活していた頃の吉見くんは、よく笑っていた。でも、チートに敗北して以降は笑顔が少なくなった。そして、北と西の同盟を提案して以降は、キツい顔をすることが増えた。

 理由は解っている。好きな人を見殺しにしてしまったことを悔い、「勝って取り戻す」ため。

 僕だって目の前で櫻花おーちゃんを失って、チートを憎んでいる。「勝って取り戻す」気持ちは同じだ。


「迷って見えたならごめん。

 『やる』に決まってるよ。『やる』しかないんだ」


 ありがとう吉見くん。迷ってる場合ではない。迷いは吹っ切れた。


「信用していいね、源君」

「うん!」

「武藤さんも、『安藤さんは倒す』を任せていいね」

「誰に物を聞いているんだよ?

 私が『やる』って言ったら『やる』に決まってんだろ」

「なら2人は、本戦までは温存する。前線に出るの禁止」

「誰かがピンチになっても見捨てろってこと?」

「極論はそうなるね。僕や真田さんが瀕死になっても、源君は動いちゃダメ。

 援護をするなら、死なせたくない人に、事前にヒールを使っておくだけにして」


 迷いを吹っ切った途端に、次の難題が飛んできた。吉見くんの提案は理解できるけど、僕に「死に瀕した仲間を見捨てる」なんてできない。


「申し訳ないけど、源君と武藤さんには、もう一つ厳しい要求をする。

 チートと安藤さんは命を奪うのが絶対条件。

 降参をしても絶対に受け入れないで」


 2人の特殊能力は驚異だ。例え降伏をしても、隙を突いて手に平返しをされたら、確実に形勢が逆転をする。


「菅原さん達3人は、救出しても『敵か味方か解らない』を前提にして、

 絶対にフリーにはしないこと。

 特殊能力を使おうとしたら、どんな状況下でも例外無く、即座に倒してほしい。

 誰に誰を監視してもらうかは決起日までに決めておくね」


 聞いていた全員がドン引きをするんだけど、吉見くんはお構い無しに説明を続ける。


「僕の特殊能力ストラテジーで弾いた勝率は、

 サウザンの防衛戦で誰も失わず、且つ、ここまで徹底しても五分五分。

 かなり厳しいと思ってもらって良いよ」


 菅原さん達がチートを嫌っているのか与したのか解らない現状では、彼女達が藤原組に都合良く動いてくれるメリットよりも、想定外の動きをされるデメリットの方が比較にならないほど大きい。それならば、彼女達の存在はゼロと判断した方が良い。


「さっきも言ったけど、チート討伐は『薄氷の上を歩く』の連続だからね。

 敵側の想定外の一手が、戦況を覆すことになってしまう。

 前回の戦いで、安藤さんが裏切った途端に戦線が崩壊したようにね」


 あまりにも残酷すぎる提案だ。吉見くんの言ってる意味は解るけど、菅原さん達3人に対して、そこまで厳しく対応しなければならないのだろうか?


「僕の所為にしてもらって良い。

 現実世界に戻ったあと、菅原さん達からどんなに恨まれても構わない。

 これが僕の勝つための覚悟だ。

 源君と武藤さんにだけ、辛い決断を背負わせるつもりは無いからね」


 その言葉を聞いて、誰も文句を言えなくなった。吉見くんは、憎まれ役を全て被るつもりなのだ。


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