40-4・武皇への挑戦状
戴冠式が始まった。帝城外の西の沿道に待機をしている僕等にも届くほどの歓声が沸き上がる。
「王様になる時ってどんなことやってんだろ?
ちょっとくらい見てみたかったなぁ~」
由井さんが羨ましそうに帝城を眺めている。
ここで待機をしているのは、僕と吉見くんと由井さんの3人。真田さん&長野さんは別の場所で作戦決行を待っており、輪島さんは最終合流地点で馬を準備して待っている。
「式が行われるのは西の大庭。源君の予想、当たったね」
「皆は気付いてないんだろうけど、智人って義理堅いところあるから」
「・・・そっか、そうなんだ?」
あとどれくらいで式典が終わって、いつからパレードが始まるのかは解らない。だけど、沿道に集まっている民衆の多さや、各所で待機をしている黄親衛隊の表情から、「長時間は待たされないだろう」と一定の推測はできる。
「チート、今は、どんな気分なんだろう?」
既に西都市から手の平返しをされたことは報されているはず。怒っているのかな?「簡単に潰せる」と安易に考えてるのかな?
僕は、僕を親友扱いしてくれた智人を陥れようとしている。ずっと「そのつもり」だったけど気が重くなってきた。
「源君、なに考えてんの?チートに感情移入なんてするべきじゃないよ」
「・・・うん」
「君が迷っているなら、宣戦布告の役は真田さんに頼むけど・・・」
チートは真田さんを目の敵にしており、僕と一緒に死んだと思っている。だから、チートを驚かせて煽る役は真田さんでも可能。でも、彼女を矢面に立たせたくない。
「大丈夫。割り切る。僕がやるよ」
こんな土壇場で迷い、しかも見透かされるなんて情けなさすぎる。弱い感情を押し出す気持ちで大きく呼吸を吐き出し、帝城の西門を睨み付けた。
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帝城から大きくて長い歓声が上がった。等間隔に整列した黄親衛隊が「ここから内側には入るな」と民衆達を規制する。
「動き出したっ?」
西門から、先ずは紫親衛隊3騎が出てきた。
「えっ?」
次いで出てきたのは、白い鎧を着て紫のマントを羽織った騎兵達だ。
「西都市の白騎士団?なんで?」
紫マントのパルー騎士達が、道の中央と民衆達のいる沿道を隔てるようにして馬を駆って行進をする。
「パルー騎士が、ホーマン家ではなくチートに与した?」
動揺して身を乗り出しかけた僕の腕を、吉見くんが掴む。
「落ち着いて、源君。数的には100~200騎くらい。中隊レベルだよ。
全てのパルー騎士がホーマン家に忠誠を尽くしてるわけじゃない。
チートに心酔する人や、忠誠より出世が優先の人がいても不思議ではないよ」
「吉見くんは予想してたの?」
「もちろん、ある程度の人数がチートに流れる予想はしてたよ。
戴冠式に投入される予想はしていなかったけど、
権力を見せびらかしたいチートの性格を考えれば、当然の成り行きなのかもね」
西都市でホーマン夫人&ホワイさんと面会した時のことを思い出す。吉見くんは「7~8割を掌握することは可能か?」「ある程度は掌握できると考えて良いか?」と聞いていた。
「吉見くん・・・凄い」
これは想定の範囲内で、吉見くんは「2~3割の騎士に背かれても問題無い」を前提にして作戦を進めている。そう考えたら、少し気持ちが楽になった。
「あっ!あの人は!」
パルー騎士団で作られた左翼と右翼の中央、5騎の紫親衛隊が整然と闊歩する。その後、アジット親衛隊と同じ格好をした安藤さんが馬を駆り、更にその後では、戦場に出るには不釣り合いな煌びやかな戦車上で、金色の鎧を着た智人が民衆に向けて手を振っている。
「周りも見てみなよ。凄く嫌な布陣をしているよ」
「・・・うん」
智人が乗る戦車の右側には菅原さん、左側には和田さん、後には前田さんが、アジット親衛隊と同じ格好をして馬を駆っている。
「この状況で攻撃をすれば、チートより先に周りの女子が犠牲になる。
彼女達を盾にして、転移者による襲撃を警戒した布陣だよ」
死にたくないのは誰だって同じ。だけど、自分が死なないために仲間達を犠牲にできるチートの考えに腹が立つ。
「源君、忘れないで。
僕達はチートを攻撃するために、ここにいるわけではないんだよ」
「うん!」
「民衆に魅せるために戦車の進行速度は遅いから、徒歩でも充分に取り付ける。
さぁ、決行するよ!」
「由井さん、お願い!」
「りょーかい!」
由井さんが僕の背中にしがみついた。
「2人とも・・・特に源君は平常心を忘れないで!」
由井さんが特殊能力を発動!由井さんを背負ったまま、群衆を掻き分け、左翼を闊歩する白騎兵の間を抜け、和田さんが駆る馬の後を通過。誰からも気付かれないまま、チートが立つ戦車の上によじ登り、チートの目の前に立つ。
両翼と後のクラスメイトは作り笑いしかしていないのに、智人は凄く嬉しそうな顔をしている。智人のこんな笑顔、ゲーム中には見るけど、学校では見たことが無い。それは、僕が気付けなかったから?それとも智人が見せてくれなかったから?
智人は、この世界を満喫している。・・・でもね、
「ここは僕達がいるべき世界ではない。
自分以下ばかりの世界で凄い人になっても虚しいだけじゃないの?」
気持ちが昂ぶったので、アダプトの干渉下から外れた。声に反応したチートが、僕を見つめる。
「・・・尊人?」
僕と由井さん以外には、いきなりチートの前に僕が出現したように見えるんだろうな。群衆や衛兵達の注目を一身に浴びる。由井さんを背負ったままなので、格好良い対峙とは言えないね。
「生きて・・・いたのか?」
「僕は現実世界に帰る。
君が反対するなら倒してでも帰る。
近いうちにもう一回会いに来るから、その時に決着を付けよう」
チートの顔が、驚きから引き攣った表情を経て、怒りに変化する。
「オマエっ!!」
この間隙を突き、パレードの最前列に真田さんと長野さんが飛び込んできて、馬を驚かせて3人の紫親衛隊を落馬させた。
「チート!あたしも生きてるよっ!!
縫愛や織田や藤原を脱落させたアンタを絶対に許さないから!!
あたしが泣いた倍は泣かせてやるから覚悟してよねっ!」
「真田早璃までっ!!」
チートの注意力が真田さんに向かった隙を突いて、馬車から飛び降りた。僕等の離脱と同時に、真田さん達も逃走する手はずになっている。
戦車後方の前田さんと目が合ったので「必ず助けに来る」「菅原さん達にも伝えて」とだけ言って通過。前田さん達に僕を妨害する素振りは見られない。彼女達は、安藤さんとは違って、本心で従っているわけではなさそうだ。
「アダプトのやり直しをお願いっ!」
僕自身が由井さんの存在を感知できないんだけど、背中にシッカリと重みは感じている。
「りょーかいっ!ミナちゃん、なかなか格好良かったじゃん!」
チートや衛兵の動揺を誘って矢継ぎ早にトラブルを重ね、冷静さを取り戻して対応をされる前に去る。ちょっとセコいけど、これが僕等の宣戦布告だ。
「尊人くん!」 「真田さん!」
路地裏で、真田さん&長野さん&吉見くんと合流。嬉しそうに手を上げた真田さんに応じてハイタッチをする。
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