40-3・戴冠式前夜
「さて、どこで宣戦布告する?」
吉見くんに問われて地図を眺める。一番赤恥をかかせられるのは、言うまでも無く智人一点に会場全体の注目が集まる戴冠式の真っ最中。つまり、帝城の中だろう。だけど、チートを笑いものにするのが目的ではない。事実の隠蔽ができない公衆の面前で宣戦布告をして、僕に敵意を向けてもらうのが目的だ。
「パレードの最中・・・できるだけ早いタイミングで宣戦布告をしたいな」
「確かに、パレードの前半なら、これから廻る場所にも警備兵はいるけど、
パレードの後半になって、廻り終えた場所を守るバカはいない。
早いタイミングほど警備は分散しているだろうね」
「・・・うん」
「由井さんの特殊能力があれば、警備の厚さに関係無くチートに接近できるけど、
念には念を入れるってことかな?」
「・・・うん」
同意はしたけど、僕が「早いタイミング」を選んだのは、他の理由がある。だけど、「絶対」と断言するほどの自信が無いので説明はしない。
「宣戦布告をする源君が『早いタイミングが良い』なら反論は無いけどさ、
帝城は東西南北の4方向全てが正面だから、どの方向を最初に廻るかは、
パレードが始まらないと解らないよ」
「それは多分・・・」
西側の中央街路を指で示す。
「西に正面を向けて戴冠式をして、
そのまま西に出てパレードする・・・ような気がする」
「西方向が正面・・・西都市を意識して戴冠式・・・
なるほど、それは理に適っている」
「智人なりに、セイには恩を感じているだろうからね」
僕は「チートはセイに恩を感じている」と予想しておきながら、セイを反チートの中核に担ぎ上げた。「セイに裏切られた」と知ったチートはショックを受けてるんだろうな。「僕は腐っている」「僕は性格が悪い」と感じてしまう。
「西側の中央街路からパレードを開始すると想定して、帝城の西で待機する。
順序が違ったとしても、予定は変えずに西側のパレードを待って決行する。
これで良いかな、源君」
「うん、それで良いよ」
「なら、西側で重点警備が入りそうな場所、もう一回説明しとくよ」
皆で警備が厚そうな位置と薄そうな位置を再確認する。作戦が決行されれば、僕は由井さんの特殊能力で隠してもらえる。だけど、待機中に警備兵から「怪しいんじゃね?」と職質されたら、決行タイミングが狂わされてしまうのだ。
夕方に帝城の西側を歩き、逃走経路と集合場所のプランAとBを決める。
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夕食後は、由井さんの特殊能力の再確認をする。
由井さんの特殊能力は、由井さん本人、及び、由井さんから半径1mくらいの範囲を、周りから認識させなくする“かくれんぼ”の能力。発動中は気配を殺す必要があり、大声出したり殺気を放つなどの強烈な気配を発すると、認識されやすくなってしまう。
「源君、そこにいたんだ?」
僕が真横に立った状態で由井さんが特殊能力を発動させると、仲間達からは僕と由井さんの存在が認識できなくなる。
「由井さんがどこにいるか解らなくなっちゃった」
僕が由井さんから離れると、さっきまで真横にいたはずの由井さんを認識できなくなる。
「これってマズくない?」
明日はパレードに集まる民衆や、パレードの護衛をする騎士達の中に突入して、チートに接触しなければならない。僕と由井さんを認識できない=僕等の動きを気にせずに動く大衆の中で分断されてしまったら、僕の姿は丸出しになり、且つ、僕からは由井さんに合流できない。
「ダイジョーブ!アタシに任せてっ!」
アダプトを解除して認識可能になった由井さんが、僕の前で背を向けてしゃがんだ。
「・・・ん?」
「オンブしてあげる!そーすれば絶対にはぐれないでしょ」
「ああ・・・なるほど」
女子に背負われるなんて恥ずかしいんだけど、理には適っている。
「じゃ、お願いします」
お言葉に甘えて、由井さんの背にしがみついて体重を乗せる。
「んわぁ~~~~~!!・・・・ぐぇぇぇっっ」
由井さんが非力すぎて、僕を背負って立つどころか、前のめりに倒れてしまう。
「ミナちゃ~ん・・・重いよ~!明日までにもう少し軽くなって~~~」
「明日の朝までに減量?そりゃ無茶だよ」
「なんか、自分より力が弱い小学生女児に力尽くで覆い被さって、
腰をお尻に擦りつけている貧弱な男子高校生って構図にしか見えないね」
「そ・・・それは画的にマズいね」
輪島さんに冷ややかな指摘をされて、慌てて由井さんから離れる。
「オンブ作戦 ダメかぁ~。名案だと思ったのになぁ~」
「いやいや、ダメじゃないでしょ」
由井さんに背を向けてしゃがむ。
「僕が由井さんを背負えば良いんでしょ」
「あっ!そっか!そだねっ!」
僕は「逞しい」と言われるほど体格が良いわけじゃないけど、小学生扱いされるほど小柄な由井さんを背負って潰れるほど貧弱でもありません。
「・・・ん?」
由井さんを背負うつもりだったんだけど、僕の背と由井さんの間に真田さんが割り込んで来た。
「なんか、尊人くんとゆいゆいで行動するみたいな空気になってるけどさ、
あたしも宣戦布告要員ってこと忘れてない?」
文句を言いながら僕の背にしがみつく。
「んぇぇっ!?アタシはどうすんの?」
「ゆいゆいは私の背中にしがみついてよ。
尊人くん、軽量の女子2人ならオンブできるでしょ?」
「マジで?・・・できるとは思うけど・・・」
真田さんが僕の背にしがみつき、由井さんが真田さんの背にしがみついた状態・・・つまり、2人を背負った状態で立ち上がる。もの凄く前屈みで、軽快に駆けることはできないけど、まぁ、一応、この状態でも歩くことはできそうだ。でも、問題はそこではない。
「ゆいゆい、特殊能力発動してみて。
半径1m以内は干渉するなら、3人分の存在を消せるよね?」
「うん!大丈夫!・・・富醒・アダプト!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつも通りならば、由井さんがアダプトを発動した時点で、吉見くん達は僕と真田さんと由井さんを探せなくなって視線が動く。だけど、今は、僕をジッと見つめている。
「由井さんは解らなくなったけど、源君と真田さん、いるね」
「早璃、変な対抗意識で気が立っちゃって、気配消せてないんじゃね?」
「でもなんで、源君まで丸見え?
真田さんが挟まって、由井ちゃんの特殊能力が妨害されてる?」
由井さんのアダプトの干渉下に入るためには、気配を殺す必要があり、大声出したり殺気を発するなどの強烈な気配を発すると、認識されやすくなってしまう。
「さ、真田さんの胸が背中に・・・」
真田さんは無自覚なんだろうけど、今の僕は真田さんから凄まじい凶器で攻撃をされている。
「こ、このフォーメーションはダメだ」
これは、何かの試練、もしくは御褒美?真田さんがサンドイッチ状態になってベッタリと密着しているせいで、胸の感触がモロに伝わっている。嬉し恥ずかし&超動揺をして、軽い(もしくは極度の)興奮状態に陥ってしまい、気配を消している余裕が無い。
僕か真田さんが鎧を装着すれば背中への感触は伝わらなくなるだろうけど、今度はかさばりすぎて2人もオンブをできなくなるだろうな。
明日の朝までに「胸に対して一切の感情を捨てる」なんて、減量しておくより難しい・・・と言うか不可能です。
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