38-2・同盟成立
しばらく待っていたら、中央に建つお屋敷の2階バルコニーに、ゴククア公の御子息・バウラー様とロズ様が姿を現した。その傍らには、シリーガルさんとバクニーさんが立っている。ちなみに、金髪と銀髪のどっちがバウラー様でロズ様なのか、未だに解らない。
「良かった~!シリーガルさんとバクニーさん、元気そうじゃん!」
シリーガルさんとバクニーさんの肌は潤っており、その表情は幸せに満ちているようだ。
「今から重大な発表をする!!」
どっちがバウラー様で、どっちがロズ様か解らないんだけど、金髪がバクニーさんの手を握りつつ、第一声を上げた。でも、僕はお屋敷の近くにいるから聞こえるけど、庭が大きすぎて後の方にいる人には聞こえないんじゃね?
「俺は西都市のホーマン公の次女・バクニー嬢を妻に娶ることに決めた!」
次いで、銀髪がシリーガルさんの肩を抱きつつ、大声を上げた。
「そして俺は、亡きホーマン公のあとを継いで、
御長女・シリーガル嬢と共に西都市を治めることを決めた!」
「私達は北都市の御子息と共に生きます!」
「西都市の私達が、両都市の架け橋となることを光栄に感じています!」
シリーガルさんとバクニーさんも声を上げる。「もしかしたら発言を強要されている?」と心配をしたけど、御令嬢達の幸せそうな笑顔は本物に見える。
「皆の者っ!我らを祝ってくれ!」
「都市間の諍いは父の世代で終わり、これからは手を携える時代になるのだ!」
バウラー様とロズ様の発表を聞いた黒騎士や官僚達が、大きな歓声を上げて祝福をする。離れたところにいる人達には聞こえていないんだろうけど、屋敷周りの大歓声に煽られて、ワケが解らないまま歓喜の声をあげているっぽい。
「事態が飛躍しすぎ・・・じゃね?」
金髪が妹のバクニーさんを妻としてノスに迎え入れ、銀髪は姉のシリーガルさんの婿としてセイに入るのだ。これで、セイとノスの諍いは止まる。争いよりも平和が良い。この婚礼に一定数の不満はあるだろうけど、大半がバウラー様とロズ様の英断を喜んでいる。
「まぁ・・・喜ばしいことなんだろうけど」
人質同然のホーマン姉妹を同盟交渉の糸口にして、北都市の偉い人に面会して駆け引きをしなきゃならないと思っていたのに、何にもしていない。牛のお面を被って暴れただけで僕の役割は終わって、同盟をスッ飛ばして、西都市と北都市が姉妹(兄弟?)都市になっちゃったよ。
同盟と結婚の一番の功労者って、ブラークさんなんだろうな。さっき、男色の中年騎士が「ブラークさんを特別扱いしたゴヨク様はもういない」なんて捨て台詞を言ってたけど、新しい体制になっても、ブラークさんなら特別扱いしてもらえるよね。
「・・・ブラークさん?」
ブラークさんは満足そうな表情で、バルコニーを見上げている。でもなんでだろう?その笑顔は少し寂しそうに見える。
「あれ?尊人くんは祝ってあげないの?
また、なんか、小難しく考えちゃってる?」
真田さんは、シリーガルさんとバクニーさんを羨ましそうに見詰め、拍手をして祝っている。
「真田さんって“異世界あるある作戦”のこと、
すっごいバカにしてなかったっけ?」
「あの時はゴメン。
尊人くんがあの作戦を考えた時は、酷いって思って言い過ぎちゃった。
だけど、結果オーライというか、
この世界の人には丁度良い作戦だったんだな~っていうか、
尊人くんは、この世界の人のために解りやすい作戦を立てたって思ってるよ」
かいかぶりすぎ。この世界の人は単純なので、襲われる→助けるで、一定の信頼関係は構築されると思っていたけど、こんなに上手くハマるとは思ってなかった。
「現実世界で、あんな雑な出会いに引っ掛かる人がいたら相当痛いってのは、
今でも思っているけどね」
はい、解りました。現実世界であんな雑な出会いに引っ掛かって真田さんにバカにされないように気を付けます。
「なんか不満なの?」
「不満ではないけど・・・チートに未練があった2人が急に態度を変えたからさ。
無理をしてるんじゃないかって心配になっちゃって・・・」
「バウラーさんとロズさん、ちょっとバカっぽいけど良い人っぽいよね」
「・・・うん」
「シリーガルさんとバクニーちゃん、ちょっとおバカさんだけど、
隠しごとのできない素直な人達だよね」
「・・・うん」
「2人の笑顔を見てれば解るよね?
2人はきっと、本当に好きになれる人・・・
自分を愛してくれる人と出会ったの。
自己主張ばっかり押し付けるチートと違って、
ちゃんと向き合ってくれる人にね」
「そっか、『向き合える人』・・・ね」
付き合いが長くはないけど向き合える人。
多分、吉見くんとは向き合えている。藤原くんとは、まだちょっと微妙かな?解り合えるような気がした矢先にいなくなってしまった。櫻花ちゃんのことは、遠くから眺めてただけ。僕自身が眼を逸らして向き合えていなかったように思える。智人とはどうなんだろう?仲良くしてたつもりだけど、よく解らない。
そして・・・多分、誰よりもキチンと向き合えてる人は・・・。
「シリーガルさんとバクニーちゃん、羨ましいなぁ~」
直ぐ隣でシリーガルさんとバクニーさんを祝福している真田さんに視線を向ける。笑った顔、怒った顔、泣いた顔、逞しい姿、可愛らしい表情、色んな真田さんを見たけど、今の真田さんは、どの真田さんとも違う。夢見る少女のような顔をして、幸せいっぱいのシリーガルさんとバクニーさんを見詰めている。
真田さんに対する感情が、一過性なのか、本物なのか、僕にも良く解らない。
現実世界に戻ったら、僕は、心に傷を負ってしまった櫻花ちゃんを支えたい。 おーちゃんを助けられなかった罪悪感は、ずっと持っている。目を背けたら、今以上の罪悪感に押し潰されそうになるのが、自分でも解っている。
だから、今の気持ちを真田さんに伝えるつもりは無い。
だけど、僕は、今度こそおーちゃんと向き合えるのかな?
冷淡な人間にはなりたくないのに、真田さんの顔を見ていると、決心が揺らぎそうになる。
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☆バクニー・ホーマン☆
脱落エンドのキャラを除けば、レギュラー&準レギュラーキャラで最初にゴールをするのがシリーガル&バクニーになる。
バクニーは最初期の段階で、反チートのシンボルになる役割を背負っていたキャラ。シリーガル&バウラー&ロズは、バクニーのセットになるキャラとして、第6話以降に設定された。バウラー&ロズはもっと早い段階で存在くらいは匂わせておくべきだったかも。




