37-3・上杉さん
「愚かな!君達は、俺がそんな男だと思っているのか?」
ブラークさんを「そんな男」だと思っていなかったから、勝手な想像をしてドン引きをしていたんです。でも、「好色」を即座に否定してくれたので安心をしました。
上杉詩。出席番号3番。音楽部(沼田さん&由井さんと同じ)。勉強の成績は上の中くらい。
真田さん&沼田さん&長野さんと同一グループで、沼田さんとは特に仲が良い。
「でも、だったらなんで?」
「ブラークさんは私を匿ってくれていたの」
「いや、ウタが俺を救ってくれたのだ」
2人はお互いに恩を感じ、お互いを尊重をしているように感じる。
「もう少し詳しく教えて」
上杉さんは、転移をして直ぐに北宿場に辿り着き、酒場に住み込みで給仕をして生計を立てていた。
「ありゃ、ミドセプテに行ったこと有るけど会えなかったんだね」
帝都と北都市を行き来する黒騎士団がミドセプテに立ち寄り、宿泊をして酒場で飲み食いをする。その騎士団の中にブラークさんがいた。
「他の騎士さん達がお酒を飲んで楽しく騒いでいるのに、
ブラークさんは1人で寡黙にしてたの」
上杉さんは、ブラークさんのことを、仲間の輪には入れない根暗だと思っていた。だけど、他の騎士達の会話を聞いて考えを改める。
「騎士さん達、下ネタと、手遊びで爆笑してたの」
「手遊びって、両手でカニの形とか、キツネの形を作るやつ?」
「うん、それ。イヌの顔の形を作って『コボルト』って言って爆笑してた。
あまりにも低レベルすぎて驚いちゃったよ」
その後、ブラークさんと会話をした上杉さんは、ブラークさんが根暗だから輪には入れないのではなく、低レベルな仲間を相手にしていなかったと知る。しかも、酔って上杉さんに絡んだ黒騎士をブラークさんが諫めてくれた。
「その時は、この世界には珍しい“知的な人”くらいにしか思わなかったけどね」
西都市平原の戦いでチートに敗れたブラークさんは、傷が癒えないまま、無理を押して北都市に帰ったのだが、心労がたたって北宿場で倒れてしまう。
「そこで、ウタに助けられ、看病をされたんだ」
故郷を焼かれ、主君を失い、仇敵に敗北をしたブラークさんは、焦燥と無力な自分への怒りで自分を見失いそうだった。それを癒やし、心を落ち着けてくれたのが、上杉さんの歌声だった。
「歌で?」
「私の富醒はバルドっていうの」
「ばるど?」
「バードって言った方が解りやすいかな?
歌声で感情を和らげたり、反対に昂ぶらせる効果があるの」
ブラークさんは上杉さんが転移者と知って、自分が持っている情報を提供する。
「その時に、転移者数人が西の英雄に挑んで倒されたことと、
『ミコト』と『サリ』を含めた数人が逃げ延びたことを聞いたの。
やっぱり、早璃ちゃんと源君のことだったんだね」
話を聞いた上杉さんは、「いつかは自分も秘境狩りに合うか、チートに捕らわれるのではないか」と単身でいることに不安を感じた。それを察したブラークさんは、「機会が来たらミコト達のところに導く」と言って、上杉さんを連れ帰り、屋敷に匿った。
「これで俺が女性にだらしない男ではないことが理解してもらえたか?」
「ブラークさんのことは信用しています。
はじめから、そんなふうには思ってませんよ」
チョッピリ疑いそうになったけど・・・と言うか、「女性にだらしない」とは思っていないけど、ブラークさんと上杉さんの間に、信頼関係みたいなものは感じた。
「詩ちゃん、念のために確認するけど『現実に帰りたい』で良いんだよね?
もし『残りたい』って言っても、無理矢理に連れ帰るよ」
真田さんも、2人から何かを感じたらしい。語気を強めて意思表示をする。
「わ、解ってるよ」
「ブラークさん・・・詩ちゃんを守ってくれたのは感謝しますけど、
現実世界に連れ帰りますからね」
「当然だ。その為に匿っていたのだからな。
ところで、君等が訪ねてきたのは、ウタを連れに来たと言うことで良いのか?
ウタのことは秘匿しておいたのに、ここにいることをどうやって知ったのだ?」
「どうやって知ったったって・・・
上杉さんがいることを知らずにブラークさんを訪ねて・・・あっ!」
上杉さんとの合流で「仕事が終わった」つもりになってたけど違う!まだ一言も「大事な要件」を説明していなかった。え~っと、だからって上杉さんが大事じゃないわけじゃなくて、大事な上杉さんの所為で、大事な要件を忘れていて、上杉さんのことを大事と連呼すると「上杉さんが好き」みたいに聞こえちゃいそうだけど、別に好きってわけじゃなくて・・・なんだか、何が言いたいのか解らなくなってきた。
「あ、あのっ!実は、西都市と北都市に同盟を結んでほしくて、
ホーマン公の令嬢2人を使者として連れてきました!」
「・・・なんだと?」
ブラークさん、メッチャ驚いた顔してる。そりゃそうだよね。上杉さんの件と、同盟の提案、どう考えても順序が逆だよ。この世界のことなんてどうでも良くて、仲間集めが優先の僕でも、それくらいは解る。
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バルド
使用者:上杉詩
歌声で感情を和らげたり昂ぶらせる。




