36-4・同盟の青写真
「北都市に同盟を申し入れるとしても、
賛同者がボウインさんとシリーガルさんとバクニーさんとホワイさんの
4人だけでは話になりません。
直ぐに西都市軍の意見を一枚岩にするのは無理だとしても、
7~8割を掌握することは可能ですか?」
吉見くんの説明が続く。
「ホーマン夫人と御令嬢達が賛成しているのに無理なのか?」
「無理です。ノスに亡命するってなら可能ですけど・・・」
「愚かな!白騎士団の忠誠はチート様ではなくホーマン家にある!
ホーマン家が亡命なんてしたら、セイ兵の大半は、家族共々ノスに移住をして、
セイがガラ空きになってしまうではないか!」
「いや・・・僕はそれを答えてほしかったんです。
ボウインさんが、ある程度は軍を掌握できるってことで良いんですね?」
話が遠回りしすぎて全然進まない。なんかもう、僕等で勝手に決めて、「○○しろ」って言った方が早いのではないか?
「話は決まったな!あとは君達に任せれば、我がセイは良い感じになるのだな!」
「ダメでしょ。なんで僕等に任せるんですか?
セイと無関係の僕等が行ったって、ノスの偉い人は会ってすらくれませんよ」
ホワイさんって、確か初登場の時はチートの側近って感じだったよね?だんだんと隅に追いやられて、噛ませ犬とかパシリの扱いになってるような気がしてたけど、なんか解る。
「なら、俺が行けば良いのか?」
「ホワイさんでも、扱いは大して変わらないでしょうね」
「余裕があるなら、使いの者に親書を持たせて、
相手の反応を確かめても良いのですが、今は一刻を争います。
ホーマン家の誰か・・・可能ならばホーマン公の血筋を派遣して、
有無を言わさず、『相手を信頼する』というアピールをするべきでしょうね」
僕は、理路整然と説明する吉見くんを、少し怖く感じた。ボウインさん達は今の提案の真意に気付いているのだろうか?
「あの・・・吉見くん、それって・・・」
「源君。チートがこの世界を牛耳ろうとしている。もう時間が無いんだよ」
吉見くんがアイコンタクトで「それ以上は言うな」と訴える。その眼を見て僕は確信をした。
「解りました。ノスの代表に『仲良くしてください』と言えば良いのですね。
チート様から相手にしていただけなくて暇なので、私がノスに行きますわ」
バクニーさんが応じてくれた。
「妹ばかりに良い格好はさせられません。私も行きます」
シリーガルさんも受け入れてくれた。
「これで決まりですね。
御令嬢2人が行ってくれるなら、これ以上に相応しい使者はいませんよ」
確かに、吉見くんが言う通り、2人以上に相応しい使者はいない。2人でも受け入れてもらえなければ、誰が使者になってもこの同盟は成立しないだろう。
シリーガルさんとバクニーさんは「故郷の役に立てること」を喜んでいる。だけど、2人はちゃんと解っているの?吉見くんは体裁の良い言葉を選んでいるけど、シリーガルさんとバクニーさんは、人質として、敵対勢力の真っ只中に行かなければならないんだよ。ノスの人達から恨まれてたら、殺されちゃうかもしれないんだよ。
「・・・吉見くん、凄い。・・・けど、僕は吉見くんみたいにはなれそうにない」
その後、詰めの調整をして、明日の朝、僕等が使者を連れてノスに発つことが決まった。
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今日一日は移動無し。だけど、フリーの時間を、呑気に北都市の観光に使う気にはなれない。穏やかで世間知らずなホーマン姉妹を、人質として敵都市に送らなければならない。それを考えると気が重くなる。
「ねぇ、吉見くん」
ホーマン屋敷を出た直後、仲間達の一番後で、気難しい顔をして歩いていた吉見くんに寄って行って声を掛ける。
「シリーガルさんとバクニーさん・・・人質なんでしょ?」
「そうだよ。君も熟慮タイプ。やっぱり、僕の魂胆に気付いていたんだね」
「・・・うん」
僕は頻繁に悩むけど、熟慮して名案を思い付けるわけではない。それに、吉見くんの案が近道なのは解るけど、吉見くんみたく人を駒として扱うやり方は好きになれない。
「もっと他のやり方、無いのかな?」
「源君の言いたいことは解るよ。
でもさ・・・チートの行動が早すぎるんだ。
このままじゃ、僕等では討てないところに行ってしまう。
この世界のトップになるって・・・そう言うことだよね?」
僕等は、今の帝皇様を見たことすら無い。チートがその座に即く=僕等では手が届かなくなる。この世界の末端にいる僕等が、この世界のトップに会えないなんて、当たり前のことだろう。
「だからさ・・・まだ隙がある今のうちに、足元を崩さなきゃならない。
多分、ここで戸惑ったり、結論の先送りをしたら、流れを戻せなくなる。
バスケ部の君なら、試合に流れがあるのは解るよね?」
「・・・うん。解る」
僕は勝ちが決まったゲームにしか出場できない。大半のゲームは、ベンチにいて大声で応援している。でも解る。仲間達がどんなに頑張ってプレイをしても上手くいかず、空回りをしてしまう時間帯がある。神様なんていないのに「僕等のチームは神様に嫌われてる?」と感じてしまうことがある。反対に、1プレイで流れが変わって、何もかもが僕等のチームの“勝ちムード”になることもある。
「僕だって、本音では、なりふり構わずに令嬢達を利用するなんてしたくない。
だからさ、源君には、精一杯、令嬢達を守ってほしい。
彼女達が人質になるか、使者としての価値すら示せないか・・・
それともゲームチェンジャーになるか、君に任せたい」
「・・・僕が?」
「令嬢達に責任を負わせるだけじゃない。
僕等も、それなりの覚悟をしなきゃならないんだ」
僕なりに覚悟はしているつもりだった。だけど、まだ足りないみたい。
「仲間集めとノスとの同盟は君達に任せて、
僕はここで別行動を取らせてもらいたい!」
吉見くんが大きく声を張って、仲間達全員を呼び止める。吉見くんの覚悟は、僕の覚悟を大きく上廻っていた。




