28-4・喪失の実感
僕は・・・多分、吉見くんも、あえて「寂しい」って言葉を使わない。使ってしまったら、「もう仲間達が帰ってこないこと」を認めたことになる気がして使えない。もう「4日前と同じ騒がしさは戻って来ない」って解っているのに認めたくない。
それが、僕等がお屋敷に帰りたくなかった理由。「帰って来られなかった仲間達」のことをハッキリと感じてしまうのが怖かった。
「尊人くん、ちょっといいかな?」
扉がノックされて、真田さんが顔を覗かせる。
「どうしたの?我田さんは?」
「寝ちゃった。まだ体力が回復してないからね」
「そっか・・・そうだね。真田さんは寝ないの?」
「まだ寝るにはちょっと早いんだけど、我田さん寝てるから、
静かにしてあげなきゃな~って思って、部屋から出て来たの」
「・・・ん?ど~ゆ~こと?」
2人部屋で、1人が既に寝ているのに「真田さん1人で騒がしくする状況」が想像できない。
「こっちの部屋で一緒に話を・・・」
「僕、もう眠いからさ。話するなら、広間で話しなよ」
真田さんを部屋に招き入れようとしたら、数秒前までは全く眠そうじゃなかった吉見くんが急に「眠いアピール」をしてベッドに寝転がり、「部屋から出て行け」と言い出した。
もしかして、お屋敷の静けさを受け入れられてないのは僕だけ?吉見くんはサッサと割り切って、早く寝たかったのに僕の感傷に付き合ってくれてた?
「ああ・・・うん・・・ごめん」
吉見くんに追い出され、且つ、真田さんに手招きされて広間へ。
「なんか相談あるの?」
「・・・うん、ちょっとね」
椅子を引いてテーブル席に座ろうとしたんだけど、真田さんが壁際の長椅子に腰を降ろしたので隣に座る。真田さんは、無言のままボケッとした表情でテーブルを眺め、やがて口を開いた。
「なんか、静かすぎて落ち着かない」
僕と同じ感情だ。
「このおうちって、こんなに広かったっけ?」
僕と同じ感情だ。
「何日か前までは、騒がしかったんだよね」
「・・・うん」
「一番騒がしかったのは鷲尾くんだよね」
「・・・真田さんでしょ」
「一番笑い声がうるさかったのは、ひとみんだよね」
「土方さん、高音で笑うからね」
「こーちゃんの作ったご飯、超不味かったよね」
「肉は黒焦げで、野菜はほぼ丸ごとで、
『どんな調味料を使えばこんなに不味くなるの?』ってくらい不味かったね」
「ふーみん、ズルいよね。
あたし達は団体部屋に押し込んで、自分達ばっかり個室だし・・・
自分だって夜遅くまで騒ぐクセして、あたし達が騒いでると文句言うし・・・」
「藤原くんに怒られなかったのって、多分、吉見くんと沼田さんだけだよね」
「・・・うん。縫愛、超イイ子だから」
「うん、沼田さん優しいよね」
「縫愛・・・イイ子すぎてバカだよ」
沼田さんは良い子すぎる。自分が助かる選択をできたはずなのに、無茶をしなければ生き残れたはずなのに、僕と真田さんを助ける為に犠牲になった。
「うっ・・・うっ・・・寂しいよぉ」
真田さん声を殺して泣いてる。
櫻花ちゃんを失って悲しい。仲間達を失って寂しい。でも、悲しいのは僕だけじゃない。みんな同じ。
僕は西の宿場町で、真田さんに抱きしめられながら号泣をして、無理をして堪えてた気持ちが少しは楽になった。
『早璃はまだガキだ。あまり気を使わすな』
北都市のブラークさんの家に泊まった時に、藤原くんに言われた言葉を思い出す。
ごめん、藤原くん。また、真田さんに無理をさせていた。目を離すべきじゃなかった。一緒にいるべきだった。
「うっ・・・うっ・・・縫愛に会いたいよぉ」
真田さんは親友を失った。同じ部屋で当たり前のように共同生活をしていた沼田さんがいない。いつも悪態をついてたけど、藤原くんは真田さんの幼なじみ。この家にいたはずの仲間がいなくなって、僕が感じてる以上の喪失感を、真田さんは感じている。
「いっぱい泣いて良いんだよ、真田さん」
こんな時、イケてる男子なら、抱きしめてあげたりすんのかな?僕には、傍にいることしかできない。真田さんは僕の肩に凭れかかってきて、大声で泣き出した。
『私の親友を泣かせたら・・・化けて出るからね』
沼田さんの言葉が脳内で何度もリピートされる。
ごめん。沼田さんの親友を泣かせちゃった。僕、約束守れていない。こんなこと言ったら「情けない」って呆れられそうだけど、約束通り化けて出て、真田さんを慰めてあげてほしい。
でも、沼田さんは化けて出てくれない。
『任せたぞ・・・尊人・・・』
藤原くんの心からの叫びが頭から離れない。
気持ちばかりが焦っても空回りするだけ。何もできていない僕に何ができるの?
肩に凭れ掛かっている真田さんの温もりを感じながら、「真田さんを泣かせずに済む方法」を考える。
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