智人-15・真王となる
「俺は申し開きと謝罪をするために来たわけではない!
オタクがトップに相応しいかどうかを試すために来たんだ!」
大型の台車に乗せ檻に被せていた布を取り払ってミノタウロスを晒す。
「な、なんだ、その怪物は!?」
帝皇がようやく声を聞かせてくれた。
「はははっ!初めて聞く声が”驚嘆”とは、小物感丸出しだな」
予てからの打合せ通り、愛美&涼華&愛央&和果恵&紫親衛隊達を後退させる。
「安全地帯のど真ん中で引き籠もったままの温室育ちな帝皇さんは、
外地のモンスターなんて見たこと無いんだろうな!」
檻を開け、眠っているミノタウロスに向けて掌を翳して軽い電流を浴びせる。驚いたミノタウロスが目を覚ました。
「ブモォォォォッッッッ!!!」
檻の中に入れておいた両刃巨大斧を握り締めて檻から飛び出し、雄叫びを上げてから周囲を睨み付ける。
「コイツは調教済みで温和しくしているわけじゃない!薬で眠っていただけだ!
さぁ、帝皇さん!オタクに献上する!
モーソーワールドのトップに相応しい対応をしてくれよな!」
初見の牛頭人身の怪物に対して、番兵を務めた金色の勇士と、周りにいた黄親衛隊数人が取り囲んで剣を構えた!
その行動がミノタウロスの攻撃性を刺激する!
「ブモォォォォッッッッ!!!」
トーバス親衛隊達が魔法を唱えようとするが、危機を察知したミノタウロスが突進!身長3mを越える筋肉質なモンスターが振るうバトルアックスが、トーバス親衛隊達を弾き飛ばす!
「張り子の虎。帝都の親衛隊では、この程度か?」
強力な魔法を詠唱するには、ミノタウロスに対して距離が足りない。それなりに広い中庭だが、ミノタウロスを放し飼いにするには狭すぎるのだ。
「さて、ゴルドンの勇士様はどうかな?」
ゴルドン勇士はミノタウロスの振るう大斧を受け流しながら、攻撃タイミングを図っている。その間にバルコニーのゴルドン勇士2人とトーバス親衛隊10人が魔法を発動させてミノタウロスを狙い撃った!
「ほぉ、少しはやるじゃないか」
ミノタウロスは一定のダメージを受けたものの、これで倒れるほどヤワではない。相応に耐久力のある逸品を献上したつもりだ。
「ブモォォォォッッッッ!!!」
煽られたミノタウロスは、自分が閉じ込められていた檻を持ち上げて、バルコニー目掛けて放り投げた!
慌てて帝皇を庇うゴルドン勇士!トーバス親衛隊2人が檻に押し潰され、砕けたバルコニーの破片が側近の1人を直撃する!崩落したバルコニーと共に、3人のトーバス親衛隊が中庭に落下する!
「帝皇様は中にお逃げください!」
「ひぃぃっっっ!」
ゴルドン勇士に付き添われ、帝皇は怯えながら宮殿内に退避をする。
「おいおい、情けない奴だな。主役が早々に退場する気か?
ちと早いが、ショータイムは終わりってことか」
目的は帝城の崩壊ではなく、帝皇様に余興を楽しんでいただき、且つ、この国のど真ん中に座っている連中の器を確かめることだ。
「だいたい解った」
ゴルドン勇士と対峙中のミノタウロスの頭上に掌を翳す。
「巻き添えを喰らって死にたくなければ離れてろ!
富醒・イメージ!ヘパイストス!!」
ミノタウロスの頭上に数本の剣が出現!真っ直ぐに落ちて、ミノタウロスを串刺しにする!
「くっ!」
ゴルドン勇士はバックステップで回避した。奴を狙ったわけではないのだから、この程度は回避してもらわねば困る。
「それなりに使えそうな金色の勇士。
弱いが勇敢で忠実な黄親衛隊。・・・そして」
バルコニーでゴルドン勇士2人の背に隠れながら様子を見ていた帝皇を睨み付ける。
「今、この場にて、有事に対して最も使い物にならない無能がハッキリしたな。
帝皇さんよ、オタクはモーソーワールドに必要無い」
帝皇が有能なら、ホーマン公とゴククア公の政権争いや、ホーマン公の増長は無かった。
「秘境者が何を言うか!?帝皇様は由緒ある・・・・・」
側近が口を挟んで帝皇の正統性を説明しようとしたが、俺が掌を向けた途端に怯えて黙る。
「血統じゃ、この国は治められないって言ってんだよ!
俺が一言発しただけで、その側近は死ぬ!
さぁ、帝皇さんよぉ!大切な部下を庇ってみろよ!」
帝都の中枢で、俺の手を血で染める気は無い。帝皇の小者ぶりを晒すために、威嚇をしているだけ。
「この場にいる者達に問おう!
諸公達も満足に纏められず、自分の身すら守れない帝皇!
そいつが今までに為した功績はなんだ!?」
事前に調べて、現在の帝皇・カイーライ・アングが何もしていないことを知っている。案の定、側近や親衛隊達は何も答えられない。
「無能が頂点にいて、オタク等は納得をしているのか!?」
魔法が発達したモーソーワールドにおいて、「謁見前に武器を外して丸腰になる」という行動は全く意味が無い。魔法が使える者なら、素手で要人を殺害できる。現に、北都市のゴククア公は、脇坂が素手(富醒使用)で暗殺した。
この場にいる俺以外の全員が、その程度の簡単すぎる事実すら気付いていない愚か者だ。
「よく考えて答えを出せ!」
ホーマン程度でも「モーソーワールドのトップになる」という野心を持ったくらいなのだから、最強の俺にならば、ホーマン以上にできるはずだ。
「国の乱れに対して何もせず、いつ暗殺されても不思議ではない無能と、
転移をして僅か数十日にもかかわらず軍を統率して諸公を黙らせ、
且つ、天に与えられた才能で自衛をできる俺。
どちらが、この国の頂点に相応しい?」
この場で帝皇を殺害するのは簡単だ。力を行使すれば、この場にいる者達を恐怖で制圧することは可能だ。だか、それではモーソーワールドの民達の心を掌握できない。
「帝皇よ、安心しろ!
俺は器が大きい。役割を終えたアンタを放逐するようなことはしない。
身の程知らずの重荷を降ろせば良いだけだ。
新たなる王政には相談役の役職を設け、アンタを、その座に就け、
何もせずとも、今まで通りの贅沢三昧を黙認してやる」
「本当か?」
「ああ、反故にはしない!」
「・・・わ、わかった。応じよう」
帝皇が権力の譲渡を約束してくれた。この場にいる皆が「帝皇の無能」を感じていたため、誰も帝皇の決断に反論をしない。
「・・・智人、いや真王!私達に新たな指示を!」
愛美が寄って来て、俺の前で跪く。これも、予てからの計画通りだ。愛美が俺を「新たなる統率者」と認めたことで、涼華&愛央&和果恵&紫騎士達が倣って跪く。
続けて、帝皇が、側近とトーバス親衛隊が、最後にゴルドン勇士達が跪いて頭を垂れる。
「真の王で『真王』か。しばらくは、その名でも悪くないな。
だが戴冠式のあかつきには、俺は、『最強の武を持って世界を治める皇』・・・
武皇と名乗るつもりだ!」
「おお!武皇!!」 「むのう様っ!」 「相応しい名だ!」
天は俺を選び、俺は与えられたチャンスを最大限に活かして、頂点まで登り詰めた。モーソーワールドに新たなる歴史、武皇時代が始まる!




