智人-14・帝皇との対峙
下中庭を通って、城門棟へ。その先に在る縦壁を通過すれば、あとは中庭と主館。つまり、帝皇が目と鼻の先になるのだが、金色に輝く鎧を装備して、金のマントを羽織った番兵が立ち塞がっている。
「金色の勇士・・・か」
帝皇の護衛をするモーソーワールドで最強の戦士5人だけが、金の鎧を装備してゴルドンの称号を名乗ることが許されている。つまり、最強の俺に最も相応しい輝きだ。
「武器は預かるぞ」
「無論、王の眼前まで持ち込むつもりなど無い」
先ほどの一兵卒ならともかく、将軍と同等の権限を持つゴルドンの勇士を粗略に扱うわけにはいかないので素直に従った。俺に倣い、部下達も剣やナイフを番兵に預ける。
「積み荷を確認させてもらう」
「疚しい物では無い。どうぞ、ご自由に」
さて、ここからは、ゴルドン勇士の胆力を試させてもらおう。
「ぬぅぅ・・・これは?」
ゴルドンの勇士が、大型の台車に乗せられた大きな箱を覆っている布を取り払って、驚きの表情を見せた。
「おや?内地の見聞しか持たぬ勇士殿は初見かな?」
檻の中では、茶色い肌に褐色の体毛、黒い胸当てを装備した牛頭人身のモンスターが眠っている。
「ミノタウロスと呼んでやってくれ。
西都市では外地で捕獲したモンスターを見世物にする興業が盛んでね、
そのうちの希少性が高い一匹を、帝皇様に献上する為に運んできた」
「安全なのか?」
「気性は少しばかり荒い。だが、俺ならば瞬殺できる。
俺ごときが倒せるモンスターを、ゴルドンの勇士殿ともあろう者が、
苦戦するわけがあるまい?」
「・・・ぬぅぅ」
「オタクの戦闘能力が俺には遠く及ばないから持て余すと言うのなら、
帝皇様への献上は見送るがどうする?」
「い、いいだろう・・・通れ。
ただし、万が一にも帝皇様に何かがあっては困る。謁見は中庭でしてもらうぞ」
「承知した」
ゴルドンの勇士とは、見た目は立派だが、脳みその出来は悪い連中のようだ。俺は、身長が3m以上もあるミノタウロスを、宮殿内に入れるつもりなどハナっから無い。
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しばらく中庭で待機をしていたら、やがて宮殿の2階バルコニーの窓が開き、数人が出てきた。金色の勇士が2人と黄親衛隊が10人。煌びやかな刺繍が施された服(ウエストコート+コート+ゆったりとした半ズボン+タイツ)を着た気難しそうな男が2人。
「あれが帝皇か」
集団の中央には、冠を被って口髭と顎髭を蓄え、ゲームやアニメで見る‘典型的な王’の格好をした中年の男が立つ。
「帝皇・カイーライ・アング様である!」
気難しそうな男の片方が中庭に響き渡る大声を上げた。俺は部下達と共に、作法に従って片膝を立てて頭を低くする。
「先頭の者、面を上げよ!そなたが西の英雄と噂のチートか!?」
今の俺は英雄ではなく勇者を名乗っている。些か腹が立ったが、「大事の前の小事」と考えて聞き流し、「はい」と答えた。
「北都市への軍事侵攻、
東都市軍と南都市軍の武力衝突に奇襲をしたのは、
そなたで間違いないか!?」
俺の主だったホーマン公は、俺が与したことで気が大きくなり、帝皇を失脚させて自分がモーソーワールドのトップになるつもりだったが、暗殺をされた。報復の大義名分を得た俺は、北都市に軍事侵攻をして戦力を削ぎ、且つ、部下を差し向けてノスの領主・ゴククア公の暗殺を謀った。
ホーマン公とゴククア公の死により、帝皇の信任の座が空いた為、南都市のヒョリミー公とと東都市のクレジー公の権力闘争が始まり、アーズマ軍とサウザン軍の武力衝突に発展をした。俺が両軍に大打撃を与えて退却させ、今に至る。
ホーマンが好待遇で俺を招いたのは、俺を利用する為だった。ホーマンに「怒りが無い」と言えば嘘になる。だが、ヤツにはその器が無かったので野心を抱いた途端に天から見放された。俺が飛翔する為の礎と考えれば、怒りは和らぐ。
「聞けば秘境者とのことだが、帝皇様の許可無く諸公が争ってはならぬことを、
そなたは知らぬのか?」
相変わらず喋っているのは、帝皇の隣にいる男だ。腹が立ってきた。随分と舐められたもんだ。帝皇は喋る気が無いのだろうか?
「それが何か?」
俺は立ち上がって帝皇を睨み付けた。
「控えよ無礼者!問いに答えぬか!?」
「全てが事実だったとして、それの『何が悪いのか?』って聞いてんだよ!」
「罪を認めるのか!?」
「罪とは思っていない!
主が暗殺されたから報復をした!報復の連鎖を断ち切る為にノス公を排除した!
南都市と東都市が争ったから力業で仲裁した!」
「大罪を犯して開き直るつもりか!?」
「真の大罪は誰だよ!?
俺が的確に動いてやったおかげで、軍事衝突は最低限で抑えられた!
そして今は、各都市が俺を恐れて、次の軍事行動には至っていない!
俺が平定の努力をしている間、オタクは何をやってたんだよ、帝皇さんっ!?」
帝皇は何もしていない。最低限「北都市の領主・ゴククア公の暗殺」を予測して保護くらいはしていれば、俺が付け入る隙は失われたかもしれない。そうなれば、俺は西都市の代表代理の上には進めなかったのかもしれない。
だが、帝皇が無能なおかげで、俺は「俺が飛躍する計画」を大幅に進めることができた。
これは、天が「俺に頂点を掴め」と啓示をしているのだ。




