34-5・津田くん
我田さんが頑張ってくれたので、無事に津田くんと合流できた。武藤さんからの招集がかかり、僕等は打合せ室(兼、僕等の部屋)に集合する。
9人でも狭く感じた部屋なのに、今日は津田くんが加わって10人集合。なんかもう息苦しい。
「みんな!会えて嬉しいぞっ!」
津田くん、転移前よりも日焼けをして、ちょっと髭面で、泥だらけの格好をしていた。秘境者狩りから逃れ、農夫の家に住み込みで働いていたらしい。
津田司。出席番号18番。バスケットボール部(僕と同じ)。スターティングメンバーで、ポジションはスモールフォワード(僕は応援要員)。勉強の成績は中の中くらい。
あだ名はツカさん。僕が苗字以外で呼ぶ数少ない学友の1人。部員達がツカさんって呼んでたので、僕もそう呼ぶようになった。男バスと女バスの1軍同士は交流があるので、武藤さんとは比較的仲が良い(僕は1軍ではないので交流の輪には入っていない)。ツカさんからは何度か「女バスと飯に行くからオマエも来い」と誘われたことがあるけど、武藤さんが怖いので断っています。
「武闘派の楠木はともかく、源と吉見が生き抜いていたのは、ちょっと驚いたぞ」
吉見くんは頭脳で上手く立ち回って生き抜けるだろうけど、僕自身「未だに僕が生き残っていること」に驚いています。
「おい、津田!そんなこと言ってると、近いうちに尊人に驚かされるぞ。
まぁ、数日前までは、私が尊人を見下してたから、人のことは言えないけどな」
武藤さんが謎のフォローを入れてくれる。
「尊人くん、凄いんだからね!舐めてるとギャフンされるよ!」
「今いる10人の中で一番頑張ってるの、多分、源君だよ。
だから、何度もヤバい状況に巻き込まれてんのに生き抜けてるんだと思う」
真田さんと吉見くんに至っては、「うんうん」と頷きながら、僕のことを完全に褒めている。
「意外とは思ったけど、舐めてはいないよ。
源は部活動でも人の倍は努力して、レギュラーを支えてくれてるからな」
真田さん達の言葉を聞いたツカさんが肯定する。僕は僕にできることをやってるだけ。男バスのエリート組からそんなふうに評価されてるなんて知らなかった。
「あの・・・急になに?」
皆の前で褒められるの苦手なんだけど・・・。
「ミナちゃん凄いんだよ!
さりちゃんとラブラブなのに、西の宿場に7人も浮気相手がいるんだもん!」
由井さんも褒めてくれるんだけど、それは誤解だ。西宿場に行ったことが無い由井さんが、何故、7令嬢のことを知っている?情報源は吉見くんか?
「それは違うっ!ゆいゆいはしゃべるなっ!」
僕が訂正をする前に真田さんが訂正をしてくれた。だけど、「それは違う」の「それ」がどれなのか気になる。「7令嬢との浮気」が違うってこと?それとも「真田さんとラブラブ」を否定した?・・・まぁ、どっちも違うんだけど。
「ああっ!そう言えばっ!」
恥ずかしくなった僕は、畳んでおいた大きな布を引っ張り出して、皆の前で広げる。
それは、近藤くんが発案して、藤原くんが許可をして、吉見くんと沼田さんでデザインして発注したもの。そして、僕が焼かれた藤原屋敷に飛び込んで持ち出したもの。
いつか掲げたいと思って、大切に保管しておいたもの。
「僕達のグループの名称・・・藤原組のままで良いよね?」
皆に注目されながら、下がり藤の旗を広げた。
旧リーダーが手にすることは適わなかったけど、僕等は藤原くんの意思を継ぎ、武藤さんが新しいリーダーを引き受けてくれた。
今の僕等は、旧藤原組を越える大所帯になった。これをキッカケにして、下がり藤の旗を掲げたい。
「うん、良いんじゃない?
あたし的には『源組』でも良いけど、尊人くん、そーゆーの嫌がりそうだし」
「旗も名称も、源君がそれにしたいなら、文句は無いよ」
先ずは、旧藤原組のメンバーだった真田さんと吉見くんが同意をする。
続けて、我田さん、由井さん、輪島さん、長野さん、楠木くん、司が「異論無し」と頷いてくれた。
だけど、新リーダーの武藤さんだけが、少し不満そうな表情で僕を見詰めている。
「あの・・・ダメ・・・かな?」
威勢良く大風呂敷(旗だけど)を広げてリーダーから却下されるって、すっげー恥ずかしいんだけど。
「話が違うぞ、尊人」
「・・・ん?」
「私が引き受けたのは、私の名前で仲間達を集めるための、表向きのリーダーだ。
集まった奴等を束ねる本物のリーダーはオマエだぞ」
「・・・へ?」
武藤さん、何を言ってるの?僕を茶化している?僕がリーダーなんて大役をできるわけがないじゃん。
「源君がリーダーだと思ったから、旗と名称の発案に納得したんだけど・・・」
「ヘタレとしか思ってなかったオマエが頑張って頭張ってるから、従ってんだぞ」
「今更なんだけど、違ったの?」
「いや・・・あの・・・」
吉見くんと我田さんと輪島さんが追い撃ちを掛けてきやがった。冗談のつもり?冗談だとしたら笑えない。
「アタシ、ず~っと、ミナちゃんがリーダーだと思ってたよ」
「俺もそう思ってた」
「久しぶりに会って、逞しくなったな~って思ったぞ」
「早璃、男を見る目あるって思っちゃった」
「ちょっと待って・・・急に・・・そんな・・・」
由井さん、楠木くん、司、長野さんが同意をしやがった。これは虐め?僕がその気になった途端に「そんなわけ無ーだろ」と皆で爆笑するパターン?
「もうっ!じれったいなぁ!尊人くんが一番リーダーに相応しいの!
皆がそう思ってんだから、ゴチャゴチャ言ってないで、
サッサと引き受けちゃいなよ!」
真田さんからのトドメが飛んで来た。
「で、でも・・・僕なんかが・・・」
「ふーみんのやろうとしてたこと、正面から引き継いでんの、尊人くんじゃん!
ふーみんから『任せる』って名指しされて、縫愛達の特殊能力まで託されて、
期待に応えるために誰よりも頑張ってんの、尊人くんじゃん!」
「そ、それは・・・」
「わかんないかなぁ~!
みんな、そんな尊人くんを見て、尊人くんを認めて、集まってんだよ!
あたしの知ってる尊人くんは、チョット間抜けだけど頼りがいがあるんだよ!」
「・・・真田さん」
いつも、真田さんが背中を押してくれる。真田さんに言われると「頑張りたい」って思えてくる。
真田さんの目を見て頷き、深呼吸で気持ちを落ち着ける。ここまで言われて逃げるような、情けない奴にはなりたくない。
「わかった。・・・僕がリーダーを・・・・・・・・・・」
決意を秘めた目をして、仲間達に視線を向ける。さっきまで僕を熱望していた仲間達は・・・ドン引きした目で僕と真田さんを眺めていた。
「付き合ってもいないのに主導権を握られていたら、先が思いやられるね」
「そ~いえばミナちゃんって、さりちゃんの要望はだいたい受け入れてるよね」
「・・・前言撤回。尊人はヘタレのままだ」
「真のリーダーは、源君を尻に敷いている真田さんだね」
状況を理解できない僕と真田さんは、目を合わせてパチクリしてから首を傾げた。
「・・・・・・・・・・・ん?」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
藤原組のリーダーになる決意をしてから2秒。僕は「真田さんのバーター」に降格して、新リーダーは真田さんに決まった。
早璃がリーダーに就任するんだけど、実際のチームの支柱は尊人。ただし、尊人の場合は頂点に立つより、早璃を支える大義名分が有った方が才能を発揮できる。
藤原が力強く周りを引っ張るワンマンリーダーなのに対して、尊人は皆から支えられるリーダー。旧藤原組は藤原の存在感が大きすぎたので、藤原の脱落で指揮系統が崩壊して壊滅したけど、新生藤原組は役割が分業をされている。
チーム壊滅から再生をして下がり藤の旗揚げをするまでで第5部終了。




