34-1・呉越同舟
僕等は上府屋敷に住まわせてもらえることになった。
南東町から到着した僕等はお屋敷に残り、由井さんが、「そろそろお仕事が終わって、お宿でノンビリしてる頃かな?」と言って、上府さんの舎弟が駆る馬の後ろに乗って、我田さんと輪島さんを呼びに行く。
「おい!我田がいるのかよ!?聞いてねーぞ!」
「ごめん、なんか言いにくくて・・・」
武藤さん(藤原グループ)と我田さん(脇坂グループ)は仲が悪い。だから、「仲間に我田さんがいる」と言ったら武藤さんが仲間入りを拒む気がして、今まで言えなかった。
「もう、仲間内で意地の張り合いや小競り合いをしてられる状況じゃないから、
仲良くしてほしいんだけど・・・」
「我田と仲間になった覚えは無い!」
案の定と言うべきか、武藤さんは我田さんを受け入れる気が無い。きっと我田さんも、由井さんから「武藤さんが来た」と聞いて合流を拒むんだろうな。
「むとちゃん、呉越同舟だよ。
『オマエとの決着は現実世界に戻ってからだ!』くらいにしときなよ。
藤原にはできなかったけど、むとちゃんにはやってほしいなぁ」
「私がそう思っても、我田が輪を乱す!アイツはそういう奴だ!」
真田さんが宥めてくれるんだけど、武藤さんはそっぽを向くばかりで、「うん」と言ってくれない。
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数十分後、由井さんは輪島さんが駆る馬の後ろに乗って、我田さんは単独で馬に跨がって、それぞれがフリーの馬を1頭ずつ(計2頭)を引いて、上府屋敷にやってきた。
「おい、武藤!」
合流した途端に、我田さんが武藤さんを名指しして睨み付けた。
「なんだよっ!」
武藤さんも睨み返す。ヤバい。いきなり険悪な雰囲気だ。真田さんが武藤さんの腕に自分の腕を絡めて「まぁまぁ」と落ち着かせる。
「オマエと今すぐに仲良くできるとは思っていない。
だが、私を救って許してくれた吉見や源の面子は潰すつもりは無い。
だから、できるだけ協力をしてやるつもりだ」
「・・・なに?」
我田さんが歩み寄った。かなり予想外の展開。基本形が横柄なので遜っているようには見えないけど、多分、我田さん的には「低姿勢」のつもりなのだろう。
我田さんの後では、由井さんが笑顔でVサインをしている。
「んっへっへ、ここに来るまでに、わがたん説得したの。
アタシ、スゲーでしょ!」
理詰めや情で訴えて我田さんを説得をしたのか、いつもみたく理屈抜きで我田さんのペースを乱して対抗心を喪失させたのかは不明(多分、後者)だけど、由井さんグッジョブ!
「我田さんがこう言ってるんだから、むとちゃんも大人にならなきゃね」
戸惑っている武藤さんの背中を、真田さんが軽く押す。
「よりによって、ローティーンコンビが仲介役かよ?
ガキのクセして、私が子供みてーな言い方すんな!」
武藤さんは、深呼吸で昂ぶっていた気持ちを落ち着けてから、我田さんに向けて拳を突き出した。
「尊人がさ・・・私に『表向きのリーダーやれ』って言ってんだ。
私じゃ、クラスメイトはともかく、他のクラスの奴は掌握できない。
だけど、オマエが手伝ってくれればできると思う。
仲間達を纏めて現実世界に帰るために、手を貸してくれ」
「フン!あくまでも『表向きのリーダー』だからな」
我田さんが拳を出して、グータッチで返す。ギスギスした空気はあるけど、「問答無用で険悪」は避けることができた。
だけど、まだ再燃しそうな問題がある。上府さんからは2人部屋を3つと3人部屋を1つ宛がわれており、2人部屋の1つは、皆で集まれる打合せ室を兼ねたVIPルームになっている。さっき見に行ったけど、すごく広くて、壁の装飾だの、ベッドの造りは、他の部屋の100倍くらい豪華だった。おそらく、上府さん的には、推しの由井さん&武藤さんをVIP待遇にしているんだろうな。扱いに差がありすぎて僕等でも不満に感じているくらいだから、我田さんが知ったら怒りそう。
「よぉ~し!ムッキーとわがたんが仲良しになったお祝いっ!
超VIPは、2人に譲ってあげるよっ!」
「・・・は?」×たくさん
由井さんが、素晴らしい提案をしてくれた。手を組んだ2人のために「アタシはVIPルームぢゃなくて良い」と言っている。だけど、数秒前まで敵対意識剥き出しだった武藤さんと我田さんを同室に押し込めるつもり?それは無謀だ。
「ちょっと待て、小坊!協力は納得したけど。共同生活はちょっと・・・」
「VIPは嬉しいけど、寝室まで武藤と一緒ってのは勘弁・・・」
「しょうがないなぁ!
だったら、アタシと、さりちゃんと、なぎちゃんと、わじゅちゃんも一緒!
みんなしてVIPルームで寝よう!」
「ベッド2つしか無いのに、6人で寝るのかよ?」
「ダイジョブ!男子がベッド4個、運んでくれるもんねぇ!
部屋を4こ借りてて、男子が1人一部屋で、女子は6人一緒!
カンペキぢゃん!」
僕的には、相部屋ではなく個室をもらえればノンビリできるので嬉しい。・・・が、そんな理屈が通るわけがない。
「ちょっと待ったっっっ!!!6人部屋は窮屈すぎるっ!
せっかく、呉越同舟がクリアになったのに、今度は同床異夢になっちゃうよ!」
真田さんが真っ向から反論をする。ちなみに「呉越同舟」の意味は解るけど、「同床異夢」は知らない。
「広いお部屋だからダイジョブだよ」
「そ~ゆ~意味の『窮屈』じゃなくて・・・え~~と・・・解りやすく言うと、
凪ちゃんとむとちゃんと我田さんと輪島さんが一緒なのは我慢できたとしても、
ゆいゆいが一日中一緒だと、ものすごく窮屈なの!」
「ワガママだなぁ~。
仕方無いなぁ。なら、さりちゃんは男子と同じ部屋ね。
誰の部屋が良い?
やっぱ、ミナちゃんとラブラブ新婚バカップル部屋にしたい?」
「バカじゃねーし!あたしは6人一緒がイヤだって言ってんの!」
呉越同舟はクリアしたのに、別の火種で沈没しそうだ。ちなみに、「ミナちゃん」は女の子の名前じゃなくて、僕のことね。
「由井と同室になるくらいなら、我田と一緒の方がマシだ!」
「由井と同室になるくらいなら、武藤と2人部屋で我慢する!」
武藤さんと我田さんの解答がシンクロした。武藤さんは修学旅行で由井さんと同室になり、我田さんは、ここ数日間、由井さんと一緒で、共に「ずっと話し掛けられてペースを乱されまくり、且つ、寝かせてもらえない」を経験している。
その後、VIPルームは武藤さんと我田さんで、僕と吉見くんと楠木くんが同室になり、真田さんは友達の長野さんをパートナーに選び、貧乏クジを引くのは輪島さんに決まった。
ごめんね、輪島さん。さすがに「由井さんは僕の部屋で面倒を見るよ」とは言えないので我慢してね。
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