28-2・商人との道中
「わぁっっっ!」
ボブゴブリンに飛び掛かって叩き切る!
「真田さんっ!そっちはっ!」
「やぁぁっっ!」
「グギャァァ!」
真田さんにゴブリン3匹を任せているので援護に向かおうとしたんだけど、真田さんはラス1を電流爆破させたところだった。真田さんの周りには、頭とか上半身が吹っ飛ばされたゴブリンの残骸が3つ転がっている。
特殊能力の精度が上がっているのか、魔法を使い熟せるようになってきたのか、魔力補助アイテムのおかげなのかは解らないけど、真田さんの攻撃力がエグい。
「感電で麻痺させるつもりだったのに、爆死しちゃった。
魔法の調整って難しいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・こわっ!」
真田さんを怒らせたら、爆死させられそう。
ゴブリン達が装備していた革の胸当ては爆破に巻き込まれて回収不可能。ホブゴブリンの革の胸当てと武器と盾、ゴブリンの武器を回収する。
「この革の胸当て・・・サイズ的に、尊人くんに丁度良いんじゃない?」
「うん、装備できそう。でも、可能ならもう少し頑丈な鎧が欲しいな」
愛用していた革の鎧は壊れちゃったので、新しい鎧が欲しい。革の装備品では、モンスターとの戦いから身を守ることはできそうだけど、「今後の戦い」には使えない。最低でも鉄製の装備品が欲しい。
「馬も欲しいよね」
「うん、欲しい。可能なら、普通の馬じゃなくて、体力があって足が速い軍馬ね」
逃げてしまったのか、灼熱の光に巻き込まれて消滅したのかは解らないけど、藤原組で所持していた5頭は戦いが終わった時点で全て失ってしまった。
「藤原達みたく、騎士団から奪っちゃおうか!
ついでに、尊人くん用の鎧も!
あ~あ~・・・あたしたちを襲う騎士団に出会わないかな~」
「真田さん・・・発想が逞しすぎるよ」
罪の無い商人さんや旅人、僕等に危害を加える気の無い騎士さんから馬を強奪するのは、さすがに拙い。そ~ゆ~意味では、真田さんが言うように、敵対勢力から奪うのが一番手っ取り早い。無駄な争いは避けるつもりだけど、「イイ子ちゃん」のままでは、この世界の犠牲者にしかならない。だから、真田さんの意見を否定する気も無い。
「助かったよ。君達、強いねぇ」
離れたところで待機をしていた商人さんが「戦闘終了」を把握して馬車を走らせたので、その周りを歩く。
「こりゃ、用心棒代を払わなきゃだな」
「いえいえ、相乗りさせてもらえるだけで充分にありがたいです」
用心棒代は欲しい。でも、商人さんは「ご厚意」で我田さんを乗せてくれてるんだから、僕等も厚意で返さなきゃね。
「そりゃスマナイね。じゃあも言葉に甘えさせてもらうよ。
帰るついでに相乗りを請け負っただけで護衛代が浮くなんてありがたい」
「僕等としては、仲間を運んでもらえる方が価値が有るってことです」
会話の取っ掛かりができたところで、早速、真田さんが話題を繋ぐ。
「商人さんは、何を売っているんですか?」
普通ならば、運んだ荷を都市に降ろして、代わりに別の品物を積んで帰るんだろうけど、荷台には積荷の類いが殆ど無い。まぁ、そのおかげで我田さんが横になれるスペースがあるんだけどね。
「西都市で物価が高騰しているからな。
仕入れても、高値になりすぎて他の都市では殆ど売れん。
だが、代わりに西都市に物資を運べば割増料金で買い取ってくれるから、
復路が空荷でも稼げるんだ。
特に武器の類いは、かなりの高額で引き取ってくれるぞ」
「・・・へぇ」
聞きたくなかったけど、知っておかなければならない情報。智人率いる白騎士団が武装化を進めてるってことだ。
「北都市ではセイ以上に物価が上がっているが、そっちは治安が悪い。
屈強な冒険者を護衛に雇わなければ追い剥ぎに遭う可能性があるから、
俺はリスクを避けてセイと行商をしているんだ」
作物関係の産業に強い西都市と、武器や外地品の産業に強い北都市が断絶状態になったので、両都市で品物が不足している。特に、敗戦で難民が出ているノスは大変だろう。
ブラークさん、もう、帝都経由でノスに発ったかな?まだ傷が回復していないんだから、あんまり無理をしないでほしい。
「尊人くん、ブラークさんのこと心配なんでしょ?」
「なんで解った?」
「そ~ゆ~顔してた」
「どんな顔?」
「『ブラークさんを心配してます』って顔」
「・・・どんな顔?」
僕はどんな顔をしてたんだろ?そう言えば前にも、櫻花ちゃんのことを考えていたら、ピンポイントで言い当てられたことがあったっけ。特殊能力で直感力が活性化して解っちゃうとか?でも、真田さんって特殊能力の発動してる時は、目付きが少しキツくなる。だから、今は発動しているようには思えない。
「気持ちは解るけど、今は他人の心配より、自分の心配してよね」
「・・・うん」
仰る通りです。リーダーを含めた5人の仲間と櫻花ちゃん達を失った僕等が、これから、どうチートに対抗をするべきなのか?「仲間集めが必須」なのは解っているけど、我田さんを含めてもたった4人しかいない状況で、どうアプローチをして行けば良いのか?その答えは、何も見付かっていない。
『これで貸し一つね』
『任せたぞ・・・尊人・・・』
櫻花ちゃんと藤原くんの言葉が、何度も脳内でリピートされる。
「織田のこと考えてたでしょ?」
また言い当てられてしまった。今の僕は「櫻花ちゃんとの思い出に浸ってますよ」の顔をしてたんだろうか?
「うん・・・考えてた。
でも、おーちゃんだけじゃなくて、藤原くんや皆のこと」
一昨日は、真田さんの所為で、格好悪すぎで顔向けできなくなるくらい号泣してしまった。でも、きっと真田さんがいなかったら、号泣はしていない代わりに、今でもウジウジと泣いていたと思う。失った物の大きさに押し潰されて、動けなくなっていたかもしれない。
「いてくれてありがとう」
「ん?今、なんか言った?」
「なんにも言ってないっ!」
無意識の言葉が出てしまった。僕らしくない失言だ。恥ずかしいので、何度も「独り言」を繰り返しながら足早に歩く。
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