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33-3・楠木くん

 皆で武藤さんの家で待っていたら、昼過ぎに楠木くんが帰ってきた。幅広のロングソードと肩当て付きの鉄の胸当てを装備している。


「・・・あれ?なんで?」


 想定していないメンバー3人もいるんだから、驚くのは当然だろう。だけど、武藤さんが頷いたら「そっか」と言って直ぐに僕等を受け入れてくれた。


「吉見、源、真田、生きていてくれたんだな。俺は嬉しいぞ」


 楠木邦彦くすのき くにひこ。出席番号8番。帰宅部。ただし、市内の相撲サークルに所属していて、全国区の実力者。学校内では穏やかだけど、怒ったら怖いらしい。・・・というか、相撲の全国大会出場者を怒らせる命知らずなんていない。クラスで1番背が高い(学年では2番目)。勉強の成績は中の下くらい。


「コイツ等から『南都市サウザンに来い』って誘われてんだ。

 楠木はどう思う?」


 早速、武藤さんが質問をする。楠木くんが「嫌だ」と言ったら、もう一回説得をしなきゃなのかな?


「任せる」

「了解!オマエは話が早くて助かる。『全員、サウザン行き』で決まりだな」

「俺は陸姫がいるところなら、どこでも構わん」


 わりと簡単に決まった。・・・てか、超アッサリ決まりすぎ。協調性が高いのはありがたいんだけど、楠木くんは、頑なだった武藤さんが「動く」と決めた経緯には興味が無いのかな?


「ねぇねぇ、凪ちゃん?」


 直ぐ隣にいた真田さんが長野さんに耳打ちをする。


「もしかして、楠木くんって武藤むとちゃんLOVE?」

「『私が一緒にいると邪魔なのかな?』って思っちゃうくらい武藤にアピってる。

 武藤は全然相手にしてないみたいだけどさ」


 武藤さんは、現実世界では、いつも藤原くん達と一緒にいたけど、素行不良タイプではなく、姐御肌でオチャメな人。少なからず男子人気はあるっぽい。


 これから南東村トンナンを発っても、暗くなるまでに(・・・というか日付が変わるまでに)南都市サウザンに到着できない。今日は村の観光で時間を潰すことにして、翌朝に旅立つことに決まった。



 日の出前に村の西側入口に集合する。武藤組は3頭の馬を所有していて、3人とも馬に跨がる。


「へぇ、みんな馬に乗れるんだ?」

「乗れて当然だろう」


 こちらは、3人いるのに馬は1頭で、乗れるのは真田さんだけ。


「尊人くん、乗る?」

「うん、ありがと」

「吉見は私の後ろに乗りなよ」

「よろしくお願いします」


 僕は真田さんの後に、吉見くんは長野さんの後ろに乗せてもらう。


「なんだ、オマエ等?格好悪っ!

 女のケツにしがみつくんじゃなくて、『自分が手綱を引く』って言えねーの?」


 案の定と言うべきか、馬に乗れない僕と吉見くんに対して、武藤さんからダメ出しが飛んで来た。


「転移して何日経ってると思ってんだよ?」


 僕が転移をしてから50日くらい経過しました。武藤さんは僕や吉見くんより10日くらい早く転移してるけど、僕等よりも転移日が遅かった真田さんが馬に乗れてる時点で、言い訳にはできません。


「面目ない」

「悠長に村の観光なんてしてねーで、馬に乗る練習してろっての。

 運動神経悪くても、馬くらい乗れるだろ?」

「申し訳ありません」


 運動神経に限定すれば、吉見くんには辛うじて勝てているかな?真ん中より下で、球技大会やクラス対抗リレーでは足を引っ張ってるって点では同レベルだけどね。



 真田さんの駆る馬(僕が相乗り)を先頭にして森の道を移動していたら、木々が倒れる轟音が聞こえてきた。馬を止めて音のする方向を眺めたら、大木が倒壊しているのが見える。


「トロールだな」

「2人いるね」


 僕等に気付いているわけではなさそう。討伐難易度の高いモンスターなので、素通りをするべきだろうか?

 判断に迷っていたら、楠木くんが馬から下りた。


「放置はできないよな。俺等のあとから来る旅人が襲われるかもしれない。

 俺に任せて、オマエ等は下がってろ」

「えっ?楠木くん1人で、2人ともやっつけるの?」

「飛び道具を使う奴じゃなければ楽勝だ」


 楠木くんは単身で森の中に踏み込んで行き、武藤さんと長野さんが馬を後退させて距離を開けたので、僕達も行動を合わせる。


「楠木くんって、そんなに強いの?」

「私等は、楠木のおかげで今まで生き残れたんだ」


 武藤さんが僕の質問に答えてくれる。


「近くにいたら、私達も巻き添えになって即死しちゃうレベルだよ。

 破壊力がエグすぎて、並んで共闘できないのが唯一の欠点みたいな感じだね」


 長野さんが補足をする。「破壊力がエグい」ってどんな状況だろうか?生唾を飲んで楠木くんを見守る。

 楠木くんはトロール2匹の攻撃範囲から、2~3m離れた位置で剣を構えた。


「富醒発動!アースクエイクスタンプ!!」


 剣を構えたまま片足を高く掲げて、強く地面に踏み下ろした!途端に一定の範囲に地震が発生してトロールが倒した以上の木々が倒れ、2匹のトロールを下敷きにする!


「わっ!揺れるっ!」


 僕達の待機をしている場所も軽く揺れる。震度2くらいかな?


「すごい・・・近くにいたら、僕等も大木の下敷きになってたね」

「いや、今のはモンスターの動きを止めるための牽制。エグいのはこれからだ」

「・・・へ?」


 楠木くんは、「トロールは動けなくなった」と判断すると、剣を地面に刺して、足を大きく開き、手を腿の上に置き、膝が90°になるくらいまで腰を下げた。深呼吸をしてから、体重を左足に移動させ、右足を横に向けて高く上げて伸ばす。


「楠木くん、何やってるの?お相撲さんの“四股を踏む”ってやつ?」

「黙って見てろ。喋ると舌を噛むぞ」

「馬がビックリすると思うから、逃げ出さないように手綱を握っててね」


 楠木くんが“気合いを込めた四股”を踏んだ途端に、先ほど以上の地震が発生!楠木くんを中心に、有効射程圏の地面が液状化をして、トロール達が沈んでいく!


「わっ!わっ!」


 僕達の待機をしている場所がさっきよりも揺れる。真田さんは僕にしがみつき、僕は足を踏ん張らせて転倒を防いで真田さんを支えながら、嘶いて暴れる馬の手綱を引いて落ち着かせた。


「す・・・すごすぎ」


 地震がおさまった時、トロール2人の姿は消えていた。


「四股を踏んだだけで、トロールが土葬されちゃった」

「近くにいたら私等まで生き埋めになる・・・

 楠木の富醒はスゲーんだけど、使いどころが難しいってことだ」

「今まで、よく、巻き添えの生き埋めにならずに済んだね?」


 今みたく、「戦闘時なのに楠木くん以外はフリーでいられる」なんて状況は滅多に無い。モンスターや秘境者狩りに囲まれた時、武藤さんと長野さんは、どうやって凌いだのだろうか?


「私は、事前に楠木の特殊能力のヤバさを教えてもらってたし、

 自己防衛をする戦闘力はあったから、楠木から距離を開けていた」


 確かに、長野さんみたく戦闘能力があれば、楠木くんの射程圏から離れても問題は無い。だけど、武藤さんの特殊能力は非戦闘系だ。長野さんが合流して以降なら、長野さんに守ってもらえるだろうけど、その前はどうしていたんだろう?満足に戦えない武藤さんが楠木くんから離れていたら、真っ先に倒されてしまうはずだ。


「楠木にしがみつくか抱きかかえられてれば、地震の干渉を受けずに済むんだ」

「・・・ああ、なるほど」


 頻繁に抱き付かれていたから、楠木くんは武藤さんを好きになっちゃったかな?気持ちは解る。だって、今の僕は、真田さんに抱き付かれて支えながら、超ドキドキしているからね。



アースクエイクスタンプ

使用者:楠木邦彦

 四股を踏んで地震を起こし、対象を地割れで飲み込む。破壊力が広範囲なので、近くで共闘をする仲間の巻き添えを食らってしまう。術者に抱きかかえられるか背負われていれば地震の干渉を受けずに済む。

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