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32-5・説得

「ダメ元かもしれないけど・・・ちょっと説得してみる」


 僕は口下手で人見知りな陰キャ。真田さんみたく誰とでも仲良くする才能、吉見くんみたいな口達者な説得力、由井さんのような言葉で周りのペースを狂わせるスキル、何も持っていない。

 だけど、何も無いからこそ、仲間を集めるために強い存在感が必要なことを知っている。


「武藤さん・・・開けるよ」


 家の扉を開けようとしたけど、鍵を掛けられたらしくて開かない。だけど、問題無い。大きいお屋敷ではないんだから、ボソボソと喋らなければ、中にいる武藤さんに声は届くはず。


「ねぇ、武藤さん。そのままで良いから聞いて欲しい。

 藤原くんと近藤くん・・・智人チートに負けて脱落しちゃった。

 安藤さんはチートの仲間をやってる」


 最初に藤原くん達の話題を出したのは、武藤さんに聞く耳を持ってもらうため。反応は無いけど、聞いてくれていると信じて説明を続ける。

 安藤さんの裏切りで藤原組が総崩れになったことや、目黒くんに殺されそうになったことや、友達だったはずの智人トモが僕の知らないチートに変わってしまったことなど、人間性を疑いたくなる説明はできる限り誤魔化して、僕が今までに経験してきたことを、家の中の武藤さんに伝わるような大きな声で話す。


「僕、悔しい!脱落したみんなとお別れなんてイヤだよ!

 現実世界に戻って、大切な仲間達と再会したいの!」

〈だから、なんだんだよ!?

 ヘタレが、できもしねービッグマウスを並べてんじゃねーよ!〉


 扉の向こうから、武藤さんの声が聞こえる。


「僕は、試す前から『できない』なんて考えたくないよ!」

〈なら勝手にやれよ!私以外の全員が集まったら呼びに来い!

 そうしたら、オマエ等に賛成くらいはしてやるよ!〉


 辛辣だけど、やっと反応が返ってきた。


「情けないけどさ・・・僕達だけじゃダメなの。

 武藤さんに助けて欲しいの」

〈私にできることなんて無ー!〉


 藤原くんはもういないけど、僕は通り名を「藤原組」のままで通したいと思っている。


「あるよ!僕等の・・・藤原組の顔になってほしい!」

〈はぁ!?なんだそりゃ!?

 ふざけんな、ヘタレっ!私に責任を押し付ける気か!?〉

「違うよ・・・ちゃんと説明するから聞いてほしい!」


 以前、僕は藤原くんにも「代表をして欲しい」とお願いして、「性根が据わっていない」と怒られた。でも、他人任せを前提にしていたあの時とは違う。

 僕は僕なりに仲間達の期待に応えられるように頑張ったつもりだったけど、全然足りてなかった。精神的支柱は藤原くんで、攻撃の要も藤原くん。藤原くんの存在感が大きすぎたために、藤原くんが倒れた直後に指揮系統が崩壊した。


「リーダーを頂点にして下から支えるんじゃなくて、

 リーダーを中心にして、役割分担をして並ばなきゃダメだったのにさ、

 僕は、藤原くんを失うまで気付けなかった」


 クラス内での藤原グループのリーダーは藤原くんだけど、近藤くんと武藤さんはほぼ同格。喧嘩は近藤くんの方が強いし、女子の掌握なら武藤さんが優れている。3人は上下ではなく同列で繋がっていて、今の僕が思い描いている理想のグループなのだ。


「武藤さんはトップに座ってるだけでいいから・・・」


 武藤さんは藤原グループの中で、一番話しかけやすい雰囲気の人。今の僕が欲するリーダーにピッタリだ。


「面倒なことを押し付けたりしないから・・・

 ミスった時の責任は僕が持つから・・・」


 現実世界で人付き合いをサボった僕では、中心にはなれない。僕が仲間集めをしても、説得力が無い。だから、仲間達が納得をしてくれる冠が欲しい。


〈バカかオマエ!

 フミヤとコウジにできなかったことを、ヘタレのオマエがやるってのか!?〉

「僕がヘタレっての・・・否定する気は無いけど・・・

 藤原くんみたく上手にできないのは解ってるけど・・・

 僕は、藤原くんから大切なものを託されているよ!」


 深呼吸で気持ちを整えて、精神を集中させる。


「富醒・レンタル!・・・ルーラー発動!

 武藤さん、僕の言葉を受け入れて」


 扉を隔てているので、武藤さんの様子がどう変化したか解らない。だけど、「ルーラーの干渉を受けている」を前提にする。


「どう、武藤さんの心境や行動・・・なんか変化した?

 これね、僕じゃなくて藤原くんの特殊能力なんだよ。

 藤原くん、倒れる直前に、この能力を僕に託して『任せた』って言ってくれた。

 だから僕は、藤原くんの意思を継ぎたいの」 


 ルーラーの干渉下に入れたまま「はい」の返事をもらうのは狡いと感じるので、解除をしてから会話を続ける。


「僕もやるけど、僕だけじゃない!

 真田さんや吉見くん・・・皆でやりたいんだ!」

〈ふざけんな、ヘタレっ!〉


 武藤さんは納得をしてくれない。でも、解錠の音がして扉が開く。顔を覗かせた武藤さんは、まだ、目を三角に吊り上げていた。


「武藤さん・・・僕の説明じゃ納得してもらえないかな?」

「納得できない!すっげー不満!

 皆でやるのに、私はリーダー面して座ってるだけかよ!?」 

「・・・え?」


「むっふっふっふっふ!武藤むとちゃんも、なんか役割が欲しいの?

 仕方無いなぁ~!だったら、仲間になってくれれば考えてあげるよっ!」


 離れて成り行きを見守っていた真田さんが寄って来た。


「地味なのと面倒クセーのはイヤだからな!」


 真田さんが顔の上に手の平を翳して、武藤さんがハイタッチで返す。


「・・・ん?」


 僕、結構頑張って説得したのに、最後にちょっとだけ参加した真田さんの説得で武藤さんが落ちた?


「・・・マジか?」


 藤原くんがルーラーの能力と共に託してくれた、最も重要なもの。真田さんには適わないや。

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