32-4・武藤さん
ご飯屋さんから10分くらい北に歩いたところで、長野さんが「あれが私の隠れ家」と指で示した。
「ん?長野さんの家?」
調合師の家に行くんじゃなかったっけ?僕の脳内は「?」だらけになるんだけど、長野さんはお構い無しに自宅の扉を開けた。家の中には、入り口に背を向けて本を読んでいる人がいる
「ただいま~!」
「おうっ!自衛団の仕事は上手くいったか?」
「楽勝だよ!」
振り返ったその人は、クラスメイトの武藤睦姫さんだ。
「・・・ん?」
武藤さんは、家に入ろうとした僕等を見た途端に目を三角に吊り上げる。
「長野っ!約束破りやがったのか!?」
「ごめんっ!でも話を聞いて欲しくて!」
「『オマエの友達だから例外』なんて特別扱いはしない!
話すことなんて無いっ!出て行けっ!」
立ち上がって足早に寄ってきた武藤さんは、長野さん諸共に僕等を家の外に押し出す。
「武藤さん?」 「むとちゃんっ!」
僕等はわけが解らず、ただただ呆然としたまま追い出されて、扉は閉められてしまう。
「どゆこと?」
一斉に、一緒に追い出された長野さんを見詰める。
「話くらいは聞いてくれるかと思ったんだけど、考えが甘かった」
「武藤さんって人見知りタイプだっけ?」
武藤さんが人見知りタイプとは思えないけど、あまり接したことが無くて本性が解らないので、念のために真田さんに聞いてみる。
「正反対だよ。むとちゃんは物怖じしないタイプ。
・・・てか、今のは『人見知り』どころか『人嫌い』って次元だよね。
ど~なってるの?」
真田さんが長野さんに質問をする。
「なんかあったの?『約束破った』とか言ってたけど・・・」
真田さんの質問に便乗して被せる。「まるで人が変わってしまった安藤さん」の件があるので、心配になってしまう。
「ただの『人嫌い』なら誰も寄せ付けないよね。
だけど、『約束』さえ破らなければ長野さんは容認してた。
これは『人嫌い』以外の理由があるってことでしょ?」
吉見くんは理詰めで質問をする。
3人から質問攻めにされた長野さんは、「あっちで話そう」と言って家から離れた芝生に案内して腰を下ろした。真田さんは長野さんの隣に、僕と吉見くんは長野さん達と向かい合わせになって座る。
「来る前に説明しとくべきだったね、ごめん。
『クラスの誰と会っても受け入れない』が、武藤と共同生活をする約束なの」
この村は、赤騎士と青騎士の両軍が彷徨いている。この村で生計を立てるつもりだった武藤さんと長野さんは、両騎士団の中にクラスメイトの顔を幾つも見た。
寄ってくるクラスメイトは騎士団への勧誘を迫るに決まっている。異世界での権力争いに巻き込まれるなんて冗談ではない。どの陣営にも所属する気は無い。
そう考えた武藤さんは、「全てのクラスメイトを避ける」と提案して、「それができないなら一緒には住めない」と選択肢を提示した。
「秘境狩りを煩わしく感じていたのは同じ、
だから、私と楠木は『全員を拒否する』を受け入れたの・・・
それなのに早璃達を連れてきちゃったから・・・」
「あのっ・・・ちょっと待って!」
武藤さんが怒った理由と『約束』は解ったけど、それよりも重要なことがサラッと流されてる。
「楠木くんも一緒なの?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてない!」×3
「楠木も一緒に住んでるよ。楠木の寝室は馬小屋だけどね」
「なら、馬小屋に行けば楠木くんがいるの?」
「今は、冒険者ギルドの依頼を受けて、泊まりがけでモンスター討伐に出てる。
楠木の戦闘力なら、順調にクリアできれば、明日には帰ってくるだろうけどね」
この村の西(南都市の東)の平原で発生したサウザン軍とアーズマ軍の争いと、チートの介入は、皆が知っている。武藤さん達は、消沈して退却をするアーズマ軍の姿を見ており、その中に、出陣の時にはいたはずのクラスメイト達がいなかったことを知っている。
「それが決定打。武藤は、既存メンバーの私と楠木以外を信用しなくなった。
まぁ、私だって、会ったのが早璃じゃなかったら拒否ってただろうけどさ」
僕等にとっては、絶対に見逃すことができない貴重な仲間達。しかも、3人も同時に獲られる。武藤さんが謳う「全員を拒否する」を受け入れるわけにはいかない。
「今の説明で、僕達が追い出された理由は解ったけどさ・・・
もっと肝心の、根底の部分が見えてこないんだよね」
そもそも論として、武藤さんは初手の段階で「クラスメイトとの接触」を嫌がっている。その原因はなんだろう?
櫻花ちゃんを含めたクラスメイトの多くが、秘境狩りに遭遇をして投降をした。柴田くん達は、勧誘を断った仲間を殺害されて秘境狩りの怖さを知っていたので拒否をした。僕に至っては、勧誘以前に見せしめのために殺されそうになり、真田さんは、その状況を知っているので秘境狩りを嫌っている。
武藤さんも、秘境狩りを徹底拒否する事件に遭遇したのだろうか?
「ちょっと、武藤さんと話をさせてもらってもいいかな?」
武藤睦姫。出席番号33番。バスケットボール部(女バスのキャプテン)。度胸と判断力に優れる姐御肌。勉強はあんまり得意ではない。
近藤くんと並んで、藤原グループの№2。つまり女子のトップ。素行が悪いのではなくヤンチャな雰囲気で、藤原くんや近藤くんや安藤さんよりも話しかけやすい。
「話せないでしょ?拒否られたばっかりだよ」
「火に油を注ぎかねないよ。少し時間を空けた方が良いんじゃない?」
真田さんと吉見くんからは「やめた方が良い」と止められる。武藤さんの剣幕を考えれば、当然の反応だろうね。
「解ってるけど・・・僕は、どうしても武藤さんが欲しいんだ!」
仲間を集めるには、説得力のあるリーダーが必要。クラス内で目立たない存在だった僕には「鶴の一声」はできない。藤原くんと近藤くんがいない今、旗頭に最も相応しいのは武藤さんだ。
「へ?武藤ちゃんが欲しい?」
「源君って、武藤さんが好きだったの?」
「てっきり、早璃と相思相・・・」
「わぁ~わぁ~!凪ちゃん、余計なこと言うな!」
吉見くんんと長野さんはドン引きして、真田さんは慌てている。
「・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「武藤さんを抱きたいって意思表示だよね?」
「武藤とエッチしたいの?」
「・・・・・・え?違う違う!どう解釈すればそうなるの?」
「尊人くん、今のは言葉が足りなすぎるよ」
熱い決意表明をしたつもりなんだけど、違う意味で解釈されてしまった。
僕の言い方が悪いの?今の状況で性欲丸出しの発言なんてしたら、僕、頭かオカシイでしょ。




