28-1・現状把握
念のために、あまり町中を動き回らずに息を潜めているけど、追っ手は確認できない。智人は、きっと「僕が脱落した」と思っているんだろうな。逃走したことを知っていたら、捕らえる為に捜索隊を出しているような気がする。それくらい、僕とチートの関係性は悪化をしてしまった。
吉見くんが生き残ったことは把握しているだろうけど、追っ手がいないのは「眼中に無い」と思われているからかな?
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力石先生、今川くん、毛馬内さん、鰐淵くんは、僕が異世界に来て直ぐに脱落を確認した。二宮くん、橋本くんは、力石先生から脱落したと聞いた。柴田くん、綿本さんは、秘境者狩りの犠牲になった。目黒くんはチートに倒された。根津くんはこの世界の都合の良い伝承に流されてモンスターの犠牲になった。これで10人。
先日のチートとの戦いで藤原くん、近藤くん、沼田さん、土方さん、鷲尾くん、寺内さん、蓮田先生、脇坂くん、そして櫻花ちゃん、全部で9人も犠牲になった。
逃げ帰った現実世界で瀕死者を確認して、遠藤くん、加藤くん、蘇我さん、近松さん、野口さん、隣のクラスの分山くん、僕が知らないところで6人が脱落していることを知った。
計25人が脱落をして、この世界に残っているのは、たったの26人。裏を返せば、「現実世界に帰りたい派」を14人集めれば、多数決は成立する。
僕は、何が何でも現実世界に帰りたい。現実世界で、櫻花ちゃんや柴田くんや藤原くんと会いたい。
『これで貸し一つね』
僕の無事を確認した時の櫻花ちゃんの顔が頭から離れない。
『隣に立とうとするヤツくらい守り抜け!』
藤原くんの心からの叫びが頭から離れない。
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合流の翌日、ブラークさんが目を覚ました。
重傷を負ったわけでもないブラークさんを、たいして広くもない部屋で、7令嬢が甲斐甲斐しく看病した件については「無駄」としか思えないけど、まぁ、一応、お礼を言っておく。
「行っちゃうんですか?」
ブラークさんは、まだ傷が癒えていないのに、「北都市に帰る」と言って止めるのも聞かずに起き上がり、宿場町を廻って馬を購入した。
「早急にチートを討つ為の戦力を整えねばならんからな」
チート・・・つまり、智人を討つことを諦めてない。聞きたくない言葉。だけど、もう「仲良くして欲しい」とは言えない。
僕自身、本音では戦いたくないけど、櫻花ちゃんや藤原くんの仇は討ちたい。まだちゃんと考えが纏まったわけじゃないけど、もう「今まで通りの友達」ではいられないことくらいは、ハッキリと解っている。
「世話になったな。死ぬなよ、ミコト」
「・・・ブラークさんも死なないでくださいね」
ブラークさんと一緒に行動をしたい。
「あの・・・ブラークさん」
でも、その感情が「頼りたい」や「力を貸して欲しい」なのか、「僕が知らないところでチートが討たれるのが嫌」なのか良く解らない。
「ん?なんだ?」
そもそも論として、僕はチートを討とうとしたブラークさんを妨害している。今更、信用してもらえるわけがない。
「ブラークさんに攻撃をしたこと・・・ごめんなさい。
僕と戦わなければ、ブラークさんは余計な消耗をせずに・・・」
謝らなきゃなのは当然だけど、今言いたいのはコレじゃない。
「気にするな。オマエの気持ちは理解できる。
敗北の理由は、オマエとの戦いで消耗したからではなく、
俺がチートの戦闘能力を見誤ったからだ」
結局は一番言いたいことを伝えられないまま、馬を駆って発つブラークさんを見送った。
「いや・・・違う。今の僕じゃダメなんだ。
一緒にいてほしいけど、一緒にいてくれたら頼りっぱなしになっちゃう」
ヘタレすぎて満足に意思表示ができなかった頃とは違う。今の僕が言い出せなかったのは、僕自身が「ブラークさんと組む」に適していないから。助けてもらうばかりでは「一緒に戦いましょう」とは言えない。「対等」は無理でも、もっと強くなってブラークさんから頼もしく思ってもらえなきゃ、「同盟を組みましょう」なんて言っても相手にしてもらえない。
「ブラークさん・・・もっと強くなってから会いに行きます」
ブラークさんの背を見詰め、「これでお別れではない」と心に誓う。
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更に翌日、我田さんが歩けるようになった。我田さんの傷は致命傷ではない。だけど、失神したくらいなんだから、かなりの深手だ。薬草湿布のおかげで痛みが和らいでいるけど、医者からは「ちゃんとした薬で治療するべき」と言われた。小さな宿場町にあるのは、周辺で採取できる応急的な薬草だけで、「ちゃんとした薬」は無いらしい。
「西都市に行くわけにはいかないから、帝都一択だね」
帝都までは、足早でも5時間くらいはかかる。言うまでもなく、負傷中の我田さんに、そんな行程は不可能。そんなわけで、吉見くんが行商の馬車への相乗りを手配してくれた。
「日が暮れる前には帝都に着きたいから、昼前には発つってさ」
身1つで逃げてきたような状態だ。僕は先生の剣と小さな斧と鉄の盾、吉見くんは細身の剣と革の胸当てくらいしか所持品は無いので、直ぐに出発の準備が整う。
「真田さん、まだ、そのナイフ持ってたの?
魔石のダガーがあるんだから、もう要らないでしょ?」
真田さんは銀の胸当てと魔石のダガーナイフ。それから、僕があげた大きなナイフ。上等な装備品に混ざって、一個だけ場違いで見窄らしいナイフを所持している。
「念の為の護身用だよ」
所持品が少ない僕等が「一番忘れちゃいけない」「帝都まで何よりも丁寧に運ぶべきもの」が我田さんだ。
「なんで私の為にそこまで?私はオマエ等の敵だったんだぞ」
我田さんはチートの仲間をしていたのに、チートに見捨てられて死にかけた。
「もう今は僕達の敵じゃないんだよね?」
「チートのところに戻る気は無い。
だけど、私はオマエを殺そうとしたんだぞ」
僕は我田さんに殺されそうになった。櫻花ちゃんが助けてくれなければ、多分、僕は死んでいた。
「もう今は僕を殺そうとしていないんだよね?」
「今更、オマエを殺す理由は無い。だが、私が憎くはないのか?」
「憎いよ・・・だけどさ」
我田さんは藤原くんや近藤くんと仲が悪かった。この世界に来て、藤原くん達と戦って負けて逃げて、その後、同じように藤原くんを嫌っていたチートと利害の一致で組んだらしい。
「憎み合うのは・・・・・・・・」
ホントは「憎しみの連鎖は僕が断つ」と格好良いことを言いたかった。でも、僕は櫻花ちゃんや藤原くん達を脱落させたチートが憎いから、言い掛けた言葉を飲み込む。
「もう、誰かが死ぬのは見たくない。
苦しんでる人がいて、敵じゃないなら、できるだけ助けたい。
みんなで助け合いたい。我田さんへの解答・・・それじゃダメかな?」
「殺されかけた源君が許すって言ってるなら良いんじゃね?」
「尊人くん、相変わらずお人好しすぎ。でも賛成」
吉見くんと真田さんが同意をしたので、我田さんは受け入れてくれた。
我田さんには荷台に乗ってもらい、僕等は商人が引く馬車の後を歩いて、西宿場を発つ。
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