30-5・南都市へ
夜になって由井さんが仕事を終えたので、再び集合をする。
「南都市・サウザンに行ってみたいと思うんだけどどうかな?」
早速、半日考えた僕なりの提案をしてみた。
「急にどうしたの?」
「なんでサウザン?」
チートの襲撃で、南都市の赤騎士団に所属していた柳生くんと芹沢くんは倒され、菅原さんと前田さんは連れて行かれた。行ってもクラスメイトは誰もいないんだから、真田さんや吉見くんの疑問は当然だろう。
「和紙や藁で作った紙って、サウザンから来るんだよね?
多分・・・なんだけどさ、この世界に紙の技術を広めた人って、
僕等とは別の時期に転移をした人だと思うんだ」
「そ~いえば、尊人くん、前にもそんなこと言ってたね」
北東村に滞在していた頃(第5話)に、疑問に思ったこと。だけど、当時は日銭稼ぎが精一杯で、皆(柴田くん達)からスルーされてしまった。
21世紀の現実世界にあるような白くて丈夫な“紙”は20世紀に発明された。藁半紙は19世紀に日本で発明された。製紙工業が確立されて紙が一般に流通するようになったのは17世紀以降。活版印刷の実用化は15世紀後半。
この世界の文明レベルでは、本を流通させるほどの紙が発明されているわけがない。
「なるほど・・・面白い説だね。一定の説得力はあるよ。
でも、紙の発明者が転移者だったとして、
それが今の僕等とどう関係があるの?」
以前の柴田くん達とは違って、吉見くんは興味を持ってくれた。
「僕等が転移者ってことを説明して、力になってもらうの」
「パトロンになってもらうってこと?」
「うん、そんな感じ。
きっと紙の技術で利益を出していて経済的に余裕があるだろうし、
同じ転移者なら事情は解ってくれると思うんだよね。
高校生の僕等が『困ってる』って言えば助けてくれるんじゃない?」
「金持ちのヒモかぁ~・・・」
「まぁ・・・そんな感じ」
ちょっと情けない手段だけど、新しい屋敷をゲットする方法なんて思い付かないんだから、最短ルートで生活圏を得たい。
「尋ねたけど、転移者ではない可能性は有るし、
頼んでも拒否をされる可能性だって有るだろうけどね」
「『当たって砕けろ!』の精神だねっ!」
由井さんが前向きに解釈してくれる。
「こんな他力本願を『当たって砕けろ!』なんて勇ましい言葉で例えるのは
どうかと思うよ。
「凄まじく御都合主義な思考だな」
即座に吉見くんと我田さんの冷めたツッコミが入った。
「でも、急いで仲間を増やしたいのに、
日々の暮らしすら満足にできないのは困るし・・・
ふーみんが貯めたお金だけが有るとはいって限界があるし・・・」
「ダメ元で行ってみようよ」
真田さんと輪島さんは賛成をしてくれた。これで、6人中4票を獲得!・・・てか、「真田さんに『それは惨めすぎる』とかって否定されたらどうしよう?」と思ってたけど、賛成してもらえた。
「早速、明日の朝になったら出発しよう」
「あ~あ~・・・南宿場町のお宿ともこれでお別れかぁ~。
ちょっと寂しいけど、まぁいいや」
由井さんは、この世界に転移をしてからずっと、この宿に勤めて看板娘をしていた。だから、きっと「後ろ髪を引かれる思い」だろうな。
「なんにも言わないで旅に出ちゃダメかな?」
「ダメでしょ。ゆいゆいには、お世話になった恩義ってもんが無いの?」
「だってメンドイんだもん」
「いきなり従業員がいなくなったら、宿主さんビックリしちゃうよ」
由井さん、ちょっと薄情だった。「後ろ髪を引かれる思い」は無いっぽい。放っておいたら、何も言わずに旅に出そうなので、僕と真田さんで宿主さんのところに引っ張っていく。
「ふぇ~~~~ん・・・ユイちゃん、どこにも行かないで~~~!
宿の仕事が辛かったのなら改善する!
受付で笑ってくれてるだけで良いから辞めないで!」
「ゴメンね、オーナーちゃん。アタシ、行かなきゃなの」
「君は生き別れの娘にソックリなんだ!君のことは娘のように感じていた!」
「オーナーちゃん、結婚してないよね?」
「僕が未婚かどうかなんて、どうでも良い!
このまま僕の娘に・・・いや、お嫁さんになってぇ~~~!」
「うざっ!」×全員
「きもっ!オーナーちゃん、アタシをそ~ゆ~目で見ていたの?」
宿主さんは必死になって引き留めたけど、由井さんには全く未練が無いっぽい。てか、宿主が鬱陶しすぎて、由井さんが薄情に対応する気持ちが、ちょっと解る。
「ふぇ~~~~ん・・・だったら代わりに君が、宿に勤めてよ~~!
受付で笑ってくれてるだけで良い!」
「はぁ?なんで急にあたし?」
しかも、由井さんが拒否った途端に、真田さんの勧誘を始めた。
「君は生き別れの娘にソックリなんだ!
数回しか会ってないが、君のことは娘のように感じていた!」
「宿主さんの娘さんって姉妹なの?」
「オーナーちゃん、結婚してないよね?」
「僕が未婚かどうかなんて、どうでも良い!
君のことは娘のように大切にするから・・・いや、お嫁さんになってぇ~~!」
「真田さんは僕等の大切な仲間です!オーナーさんに任せることはできません!」
僕は無関係なんだけど、「真田さんをお嫁にほしい」と言われたら何故かイラッとしたのでキッパリと断っておいた。
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翌朝、南宿場町を発って南都市に向かう。僕は真田さんの駆る馬の後ろに、吉見くんは我田さんが駆る馬の後ろに、由井さんは輪島さんが駆る馬の後ろに、残る一頭には荷物を積んである。
「源っ!
モンスター退治をして戦闘力を鍛えるのは良いんだけどさ、
時間が有るなら馬に乗る練習もしておけよな!」
「申し訳ありません」
「吉見は、昨日一日何やってたんだよ!?」
「疲労困憊で、ずっと寝てました。
全身筋肉痛で、実は今も満足に動けません」
運動部の僕でも筋肉痛なんだから、文化部の吉見くんの肉体疲労は相当だろうな。
「うちの男は学習能力の無いアホしかいねーのかよ!?
輪島が馬に乗れなかったら、どうするつもりだったんだ!?」
2日連続で我田さんに怒られたけど、一切反論ができません。




