30-4・おーちゃんへの未練
由井さんは仕事があるので一時解散となり、徹夜で動き廻って疲れ果てていた僕等は部屋を借りて休ませてもらうことにした。
臥床をして、これからのことを考える。チートとの決着が決定的になってしまったこと。拠点の確保と仲間集め。僕等は、藤原くんにできなかったことをやり通さなければならない。
その過程で傷付いてしまった人はどうする?全部を幸せにできるほど甘い世界ではないこと、全部を救える力量なんて僕には無いこと、それくらいは解っている。
「・・・おーちゃん」
チートを睨んでいた時のおーちゃん、メチャクチャ怒ってるけど泣いていた。泣いたおーちゃんを見たのは、中学校の卒業式以来。怒ったおーちゃんを見たのは、小学校でイジメッ子から僕を守ってくれてた時以来かな?
「そう言えば、おーちゃんが僕に笑顔を見せてくれたのは、いつ以来だろう?」
友達と一緒にいるおーちゃんが笑っているのは何度も見ている。でも、僕に笑顔を向けてくれたのは、僕が彼女を避けるようになってから見ていない。「女の子の笑顔」で真っ先に思い出すのは、真田さんの笑顔。僕と会話をしていて、頻繁に笑顔を見せてくれる。・・・たまに怒られることもあるけど。
「おーちゃんの笑顔が見たい。・・・笑ってくれるの?」
傷付いた肉体は現実世界に戻れば「無かったこと」になる。だけど、傷付いた心はどうなる?チートに傷付けられた人は、ずっとチートを恨んで生きていくことになる?
「なら・・・僕が守る」
おーちゃんには返しきれないほどの借りがある。全部を救うのは無理でも、おーちゃんが心に傷を負ったまま生きていくなら、僕が寄り添って少しでも癒やしたい。
一番心に引っ掛かっていた部分がクリアになった途端に睡魔が襲ってきた。「拠点の確保と仲間集め」も考えなきゃなんだけど、眠気には勝てずに意識を落とす。
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夕方には目が覚めたので、宿場町の外に出て近くの森に入り、彷徨いるゴブリンの集団を見付けて戦いを挑んだ。
「わぁぁぁっっ!」
冒険者ギルドで依頼を受けたわけではない。僕はモンスター狩りを楽しむような攻撃的な性格でもない。だけど、「チートとの決着」を避けられないなら、可能な限り強くなっておきたい。
「富醒・レンタル!・・・アジリティ発動!」
分身を一体作ってゴブリンを惑わして懐に飛び込む。
「レンタル!・・・アーマーファンブル発動!」
ゴブリンの革の鎧に刃を叩き込んだ時に若干の“刃止まり”を感じる。
「・・・くっ!」
剣に力を込めて1人を両断する。近藤くんなら、刃が止まる感触が無いまま、すんなりとモンスターを両断できるのだろう。だけど、僕の力量と、「レンタルでは効果が1/3」の制限では、これが限界。
一旦、ゴブリン達から距離を空けて、待機状態にする特殊能力を変更する。
「レンタル!・・・ファイヤーウインドミル発動!」
僕では、土方さんや鷲尾くんのように特殊能力を上手に使い熟すことはできない。だけど、皆から託された力を無駄にしたくない。少しでも技量を上げておきたい。今の僕に、どれくらいの効果を発揮できるのか知って、僕なりに使い熟せるようになっておきたい。
「レンタル!・・・ルーラー発動!抵抗を止めろっ!!」
ゴブリン達は数秒ほど動きを止めたけど、直ぐに構え直した。藤原くんなら、ゴブリン程度なら完全に無抵抗にして倒すことができるだろう。でも、今の僕では、これが限界らしい。
「・・・あれ?」
森の中に踏み行っていたのに、ゴブリンを追い回しているうちに平原に出てしまったらしい。
「もう少し、周りを見ながら戦わなきゃ」
ゴブリン程度だから戦場を変えても楽勝だけど、もっと強いモンスターで、「相手に有利な地形に誘い出された」と考えると、恐ろしく感じる。
「こらぁっ、尊人くん!何やってんの!?」
聞き慣れた声がしたので振り返ったら、真田さんが駆け寄ってきた。
「え~~と・・・戦いの練習を・・・」
「なんで、1人でやってんの!?
トロールや、秘境狩りの騎士団に遭遇する可能性だってあるんだよ!」
「・・・まぁ・・・うん」
「あたしも誘ってよね!
『原っぱで寝ているチートしか倒せない』なんて情けなさすぎる!
せめて『原っぱで立っているチート』くらいは倒せるようになりたいの!」
現在の藤原組(仮)で攻撃系の特殊能力を持っているのは僕と真田さん。だけど、吉見くんの分析では、今の僕等の戦闘能力は「チート戦では勝負にならない」ってことだ。
「悔しいのは尊人くんだけじゃないの!
あたしだって、縫愛に助けられた命を背負ってるの!
だから、一緒に強くなろうよ!」
「そっか・・・そうだね。・・・ごめん」
「わかればヨシ!」
真田さんはモンスター狩りを楽しむような好戦的な性格ではないけど、僕よりは攻撃的。何よりも、「チートとの決着」に向けて強くなっておきたいのは、僕だけではない。
「時間的には、もう1回くらいは討伐できそうだね」
「うん、できそう」
僕等は、次の討伐対象を求めて森に踏み込む。
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