30-3・吉見くんの判断
昼前には南宿場町に到着した。早速、吉見くんが由井さん&輪島さんを呼んで今後の方針会議を開く。
「ありゃ~・・・帝都のおうち、無くなっちゃったんだ?」
拠点が無くては、仲間を集めても住まわせることができない。今更ながら、「真っ先にアジトを作った藤原くんの先見性」は見事と感じてしまう。
だけど、僕の気持ちは「拠点をどうするか?」とは別のところに有った。
「ねぇ・・・新しい拠点を確保するのって、2~3日ではクリアできないよね?
先ずは、菅原さん達を救出した方が良いんじゃない?」
櫻花ちゃんが智人を睨む顔が脳から離れない。菅原さんや前田さんをチートのところから引き離したい。
「ホワイさんが内通してくれるんだから、チャンスはあるんじゃない?」
「源君の気持ちは解る。
でも、菅原さん達には申し訳ないけど後回して、他の仲間集めを優先する。
彼女達のことは『脱落しなければOK』って割り切ってほしい。
『内通』の切り札は1回しか使えないだろうから、軽はずみには使わない」
吉見くんの提案は間違いではない。だけど、とても冷たい言葉に感じられる。
「吉見くん・・・冷静だね」
「僕が冷静?そんなわけないでしょ。
護衛を全く付けずに野原で寝ているチートを奇襲する。
源君は可能だと思う?」
「急に何の話?」
「源君と真田さんが生きていたと知った時、
我田さんが仲間に加わってくれた時、
由井さんと輪島さんに合流できた時、
僕は特殊能力でチートに勝つ可能性を検索した。
そして、今のがストラテジーで導き出した『チートに勝つ』戦略だ」
「不可能だよ。チートが、たった1人で野原で寝ているなんて有り得ない」
「・・・だろ。これが現実。
しかも、彼の所には安藤さんのスキルシールがある。
有り得ないレベルの奇跡が起こらなければ、現存戦力では勝てないってこと」
僕を見詰める吉見くんの目は、とても寂しそうだ。
「僕だって、菅原さん達を助けたい。
・・・でもね、その“焦り”で僕等は敗北をした」
土方さんが先手必勝で動きを止め、真田さんと鷲尾くんが攪乱をして、藤原くんと近藤くんが倒す。しかも、回復担当の沼田さんもいた。完璧と思われた布陣だったのに、藤原組は惨敗をした。
「安藤さんから『チートが織田さん達を汚す』って聞いて、
情報に踊らされて『藤原君潰し』を狙っていたチートに誘き出されてしまった。
たらればは無いけどさ・・・今なら解る。
あの時の正解は、多分『生きてさえいてくれれば、やがて救える』だったんだ」
吉見くんは、辛そうな表情で喋っている。「おーちゃんたちは後回し」と考えるのは苦しいけど、その選択をしていれば、沢山の仲間を失わずに済んだ。
「僕はね・・・戦略で藤原君達の参謀のつもりになっていた。
実際に、その能力を使って、盗賊から屋敷を奪った」
「うん、その話は前に聞いたね」
「藤原君を目の敵にして挑んできた脇坂君と我田さんに対しては、
『面子を潰す勝利』を立案して、見事に追い払った」
土方さんが主力になって我田さん達を追い払ったって聞いている。目の敵にしていた藤原くん達から相手にされずに負けたんだから、我田さん達の面子は間違いなく潰れただろう。
「でも、その結果がどうなったかは・・・」
吉見くんが我田さんに視線を向ける。
「私達だけでは勝てないと判断して、背に腹は代えられずに、チートに与した」
「僕の戦略は目先の勝利を掴んだけど、その後の最悪の敗北に繋がってしまった。
藤原君達が窮地に陥った時、僕は何も打開策を立案できなかった。
動揺してしまって、沼田さんの自己犠牲の行動すら予測できなかった。
彼女の優しい性格を考えれば予想できたかもしれないのに・・・」
吉見くんの本心に対して、僕は何も言い返せない。当たり前なんだろうけど、彼も苦しんでいた。
「もう誰も失いたくないのは、僕も同じなんだよ。
だから、勝つ可能性が少しでも上がる作戦を立てたい」
「・・・うん」
「もう、チートを無視するって選択肢が無いことは、源君だって解るだろ?」
「・・・うん」
考えたくないけど解っている。生存者が4割以下になった時点で多数派工作は破綻をして、残った全員の意見を一致させなければ現実世界への帰還はできない。反対派はゼロにしなければならない。つまり、絶対にチートに勝って、チートを脱落させなければならない。
「仮に菅原さん達を救えたとしても、
チートを刺激して警戒させるのは愚策なんだ」
「・・・うん、そうだね」
「これ以上、生存者が減って勝つ可能性が低くならないようにして・・・
内通の切り札を効果的に使って・・・
絶対に勝たなきゃならないんだ」
吉見くんは僕以上に敗戦の責任を感じていた。そして、心を鬼にして「勝つ手段」を模索している。全部を受け入れられたわけじゃなかったけど、「僕の考えは甘い」「勝利を最優先にしなければならない」と思い知らされる。




