30-1・藤原屋敷の炎上
案の定、お屋敷に火が掛けられていた。 正面に5人、両脇と裏側に3人ずつ、白騎士がお屋敷を囲んで、炎を眺めている。
「・・・くっ!」
僕達の大切な場所を奪ったアイツ等が許せない。我慢できなくなって、背負っている剣を抜刀したら、吉見くんに止められた。
「源君。ここで白騎士を敵に廻すリスク・・・解っているよね?」
見過ごせば、「藤原組は壊滅して残党は行方不明になった」とチートに報されるだろう。白騎士の分隊を襲撃するってことは「抵抗勢力が存在する」をチートに知られることになる。言うまでも無く、「藤原組壊滅」で、チートの視野から外れた方が動きやすい。
「・・・わ、わかってる」
「白騎士の狙いは僕だ。
燃やした屋敷を囲んでいる理由は、『隠れてるかもしれない僕』を炙り出す為」
白騎士達は「子供のお使い」で帝都まで来たわけではない。「お屋敷を訪ねたけど吉見くんがいなかったから、アッサリと西都市に引き返す」ってわけにはいかない。嫌がらせをしたいわけではなく、「吉見くんは帝都にはいない」を証明する為にお屋敷を燃やしている。
「わざわざ、チートに君の生存を報せるつもり?
源君が存在をアピールするのは愚行中の愚行だよ」
死んだことになっている僕が姿を見せれば、チートは本腰を入れて討伐隊を結成するかもしれない。僕が白騎士に挑むのはデメリットしか無いのだ。
「・・・解ってるけど」
眺めてるだけで何もできないなんて悔しすぎる。
「こんな時、藤原くんならどう動く?
藤原くんなら、敵意に対して真っ向勝負をするはず」
いや、違う。僕には藤原くんみたいな度胸は無い。瞬発的な判断力も無い。藤原くんを真似しても上手にはできない。
『ふーみんみたく根拠の無いポジティブキャラになったら
嫌いになっちゃうからね』
真田さんの言葉を思い出す。
「・・・だよね。僕らしく、僕にできることをしなきゃ」
僕らしさって何だろう?高校生活では、目立たず、波風を立てず、「ヤバい人には絡まない」「絡まれても笑って誤魔化してやり過ごす」ってスタンス。だけど、今この時点で、お屋敷が燃やされてるのに「笑ってやり過ごす」は情けなさすぎる。
「最低限の波風しか立てずに、お屋敷に入って旗を持ち出したい。
吉見くん・・・特殊能力で作戦立てられる?」
「『白騎士を全部倒す』なら特殊能力で立案しなきゃだろうけど、
その程度の作戦なら、僕の思考だけで何とかなるよ」
「マジで?どうやって?」
「僕が囮になって逃げ回るから、源君が屋敷に飛び込んで旗を持ってきて。
白騎士の狙いは僕なんだから、確実に揺動に引っかかるよ」
狙いが吉見くんなら、吉見くんが姿を現したのに放置をして、燃える屋敷を眺める白騎士なんているわけがない。
「でもそれじゃ、吉見くんのリスクが・・・」
「僕だって、このまま屋敷が燃えるのを眺めてるだけなんて嫌だ。
少しくらいは意地を見せたいんだよ」
それまで黙って作戦を聞いていた真田さんが、驚いた表情で吉見くんをガン見する。
「え?ちょっとやめてよ、吉見!死亡フラグ立ててるの?
もうこれ以上、友達を失いたくないよっ!」
「立ててない!真田さん、縁起の悪いこと言わないでくれ!
白騎士と戦うなら死亡フラグかもしれないけど、
地の利がある町中を逃げ回るだけ!
走り疲れてるけど、重武装してる奴ら10人くらいなら逃げ切れるよ!」
「あたしは何をすれば良いの?」
「この作戦は、見られるリスクを下げる為に、少数で動いた方が良い。
真田さんは、我田さんと一緒に隠れていて。
強いて言うなら、屋敷の中がどうなってるか解らないから、
特殊能力を源君に提供して、源君の安全率を上げてもらえると望ましいね」
「うん、解った」
さすがは吉見くんだ。真田さんって、いつも僕を心配して一緒に来るし、藤原くんの指示には反発ばかりするのに、理詰めで「待機」を納得させた。
「よ~し、やるよ!」
作戦決行!先ずは、吉見くんが「素知らぬ顔」を作って、お屋敷に駆けていく。
「うわー!なんてことだー!僕の家が燃えてるぞー!」
うわぁ・・・ヤバい。僕等がドン引きするくらい台詞が棒読みだ。吉見くん、作戦立案は見事だけど、演技力は大根レベルらしい。
「なんだ貴様は!?」
「僕はこの家に住んでいる吉見陽輔です。
貴方たちは何者なんですか?
もしかして、先日の戦いから逃亡した僕を探していたんですか?」
うわぁ・・・ヤバい。大根役者で、しかも台詞がもの凄く説明臭い。もし、次の文化祭で演劇を割り当てられたとしても、吉見くんには役を与えるべきではない。
「いたぞっ!チート様から『捕らえろ』と言われていた秘境者だ!」
「ひぇーーーーー!にっげろーーーーーー!」
吉見くんが逃げ出した!屋敷正面の白騎士達が、屋敷を囲んでいた全員に声をかけて、吉見くんを追い掛ける。
「よし!作戦通り!」
吉見くんの所為で、ちょっとマヌケな展開になってるけど、標的が現れたんだから、燃える屋敷を放置して全員で追うのは当然だろう。
タイミングを見計らって、燃えるお屋敷に飛び込む。まだ、くべられた薪と外壁が燃えてるだけ。中央の広間には火が回っていない。
「良かった!まだ燃えてなかった!」
広間のテーブルの上に置いてあった旗を回収。小脇に抱えて、藤原くんの部屋に入る。ベッドは燃えていたけど、ベッド下から引っ張り出した小箱は黒く焦げた程度。
旗と小箱を両脇に抱えてお屋敷の出入り口まで戻り、振り返って眺める。
「大変なことやムチャ振りされることもあったけど・・・全部楽しかった。
みんなと過ごした家まで失うのは悔しいけど、
全部の思いをこの旗で継ぐから!」
これで、この世界に来て最も長く滞在をしたお屋敷とお別れになる。だから、お屋敷に頭を下げてお礼を言ってから脱出をする。
「尊人くんっ!こっちこっち!」
真田さんに呼ばれて振り返ったら、真田さんと我田さんが一頭ずつの装甲馬に乗っていて、しかも騎手無しの馬を一頭ずつ、つまり計4頭の馬をキープしていた。
「えっ?その馬、どうしたの?」
「多分、白騎士が乗ってきた馬。あっちに繋がれていたから、貰ってきちゃった」
先ほど、「さすがは吉見くん。理詰めで真田さんに「待機」を納得させた」と評価したけど前言撤回。真田さんが温和しく待機なんてしているわけがなかった。
「他の馬は全部逃がしたぞ。
これで、白騎士共は足を失ったから、追われる心配は無い」
「うわぁ~~~・・・うちの女子、たくましいなぁ~」
我田さんに至っては、数日前までは白騎士の仲間だったのに容赦無し。白騎士達に存在を気付かれないまま、ガッツリと嫌がらせをしていた。
白騎士達、吉見くんに逃げられて、ここに戻ってきたら、馬にも逃げられていて、徒歩で西都市まで帰ることになるのかな?でも、お屋敷を燃やした奴らに同情なんてできない。ざまーみろってんだ!
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