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29-5・帝都マラソン

 帝都の灯りが見えてきた。


「良いね、2人とも!

 チート本人が動いたらヤバいけど、彼は南西村ミナーシャに滞在中だ。

 非戦闘員の僕のことは舐めているし、帝都で派手な軍事行動はできないから、

 刺客が向けられたとしても白騎士クラスが数人程度。

 もし遭遇しても手遅れにさえなってなければ、我田さんを連れ出せるからね」 


 走りながら吉見くんはアドバイスをくれる。


「刺客の中に転移者がいる可能性かあるんじゃない?

 攻撃系の特殊能力は、どれも初見殺しが可能だから、警戒した方が良いよ」

「その可能性は極めて低いだろうね。

 もし、チートのところに転移者がいれば、前回の戦いで投入してたはず。

 チートは安藤さん以外の手札を無駄使いしてしまったと考えるべきだ」


 確かに、チートが出し惜しみをしたとは思えない。脇坂くんが生き残っていて刺客として送り込まれれば厄介だっただろうけど、チート本人が脇坂くんを消滅させた。


「刺客の中に安藤さんがいる可能性は?」


 特殊能力を使えば白騎士と戦える自信は有る。だけど、安藤さんのスキルシールを喰らったら、僕は一般人より少し強い程度、真田さんに至ってはただの小柄な女子になってしまう。


「それは考えられない。

 チートは菅原さん達の特殊能力を把握していないだろうからね。

 安藤さんはチートの傍にいて、彼女達の特殊能力を封じてるはずだ」

「・・・くっ!」


 胸中穏やかではいられない。帝都に向けられた刺客が御しやすい=菅原さん達の身に命とは別の危険が迫っているってことだ。

 櫻花おーちゃんは、チートのことを「人間の皮を被った獣」と表現して、眼に涙を浮かべて睨んでいた。その時の顔が、脳内に焼き付いたまま離れない。僕が「おーちゃんとの接触は後回しで良い」と優先順位を下げてしまった結果、おーちゃんはチートに泣かされた。

 あの時の「判断ミス」と同じ判断をしなければならないのか?


「尊人くん!そんなに急いだら、お屋敷まで保たないよっ!」

「源君、落ち着け!そんなんじゃ、何も救えなくなる!

 確実にできること・・・確実に救えることを優先するんだ!」

「うん・・・ごめん」


 焦って先行する僕を、真田さんと吉見くんがクールダウンさせてくれた。ジョギングペースに抑えて、体力を温存しながら走る。


 ようやく帝都に到着。お屋敷は帝都南門から北西に5㎞くらい離れた場所にある。


「先に行くよっ!」

「あたしもっ!」


 残り5㎞なら、ある程度ペースを上げても走り抜ける自信がある。体育会系の部活動に所属している僕と真田さんが、吉見くんを置いて先行する。

 最初に到着したのは真田さんだった。僕が到着をすると、我田さんを連れた真田さんが、お屋敷から出て来る。


「よかった~!無事だったんだね」

「いったい何なんだ?いきなり叩き起こしやがって!」

「説明はあと!とりあえず、お屋敷から離れるよ」


 来た道を1㎞くらい戻った住宅街で、ヘロヘロになって走っていた吉見くんと無事に合流。


「とりあえず休ませて」

「うん、休憩しよ」


 水筒の中は空っぽ。水分の補給をしたいけど、とりあえず適当な空き地に入って寝転がる。このまま爆睡したい気分だ。

 体育の授業で 走るのは3000m。マラソン大会でも5㎞。部活動ではかなり走り込むけど、ノンストップで走り続けるわけではない。


「足が痛い~~~」

「うわぁ~・・・血豆できてる」


 30㎞ぶっ通しで走るなんて、初めての経験だ。往路は夢中になりすぎて考えてる余裕が無かったけど、復路はどうしよう?この“瀕死の足”で30㎞も歩けるのだろうか?


「説明しろ。なんでそんなにバテている?由井には接触できたのか?」


 口を開く余力が無いので「落ち着いたら詳しく説明する」「お屋敷が襲撃される可能性が高い」とだけ説明する。


「屋敷に貯めてある金くらいは持ち出した方が良いんじゃねーのか?」

「我田さんの安全が最優先だったからね。

 お金は、安全を確認してから取りに行こう」

「そういや、商人が変な旗を持ってきたぞ」

「・・・はた?」

「花か葉っぱかよく解んねーけど、丸い形になったマークの旗だ」


 何のことだか解らない。「間違って配達されたんじゃね?」と思ってたら、吉見くんが上半身を起こして、感傷的な表情で空を見上げた。


「下がり藤の旗・・・完成したんだね」

「・・・さがりふじ?」


 その単語を聞いて思い出した。もう20日くらい前になるだろうか?僕と真田さんが藤原組に加わった直後、近藤くんが「下がり藤の旗を作ろう」と言ったっけ?


「・・・え?作ったの?」

「うん、もちろん。でもさ・・・

 ようやく完成したのに、既に藤原組は壊滅してるなんて・・・皮肉なもんだね」


 冗談トーク、もしくは、皆が聞き流したと思っていたので、本当に作製したのは予想外だった。


「藤原組・・・まだ僕達がいる。我田さんも参加してくれた。

 由井さんと輪島さんも加わってくれる。・・・壊滅してないよ」

「・・・そっか」

「そだね」


 僕の発言に、吉見くんと真田さんが同意をしてくれる。お金を取りに行くつもりだったので、旗も一緒に回収しよう。


「取りに戻ろっか」

「うん。あたし達の旗だもんね」

「お屋敷のお金で馬を買おう。それくらいの貯蓄はあるよ」


 財務管理していた吉見くんが言うんだから間違いないだろう。まだ疲れてるけど、休んだおかげで少しは息が整った。


「お金があるのは藤原くんの部屋だっけ?」

「うん、ベッドの下。出納帳は僕が記入してたけど、お金は藤原くんの管理下。

 ・・・てか、まるっきりどんぶり勘定だったから、

 みかねた僕が財務管理を担当したって言うべきかな」

「なんでも大雑把なところが、いかにも藤原ふーみんって感じだね」

「皆はもうしばらく休んでて。僕、取りに行ってくるよ」

「あたしも行くっ!」


 僕と真田さんが立ち上がってお屋敷に向かおうとしたら・・・


「空が赤い」


 朝焼けの紅さとは違う。お屋敷の方角の夜空が赤く照らされていて、煙が上がっている。


「お屋敷が燃えてる?」


 パルー騎士団が来た?踏み込んだけど誰もいなかったから「終わり」ではなく、僕等の拠り所を灰にするつもり?


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