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陽輔

 チート討伐は源君に任せ、安藤さんの排除は武藤さんに任せ、僕は「僕がやるべきこと」をやる。2人にだけ、キツい重荷を背負わせるつもりは無い。



 この世界に転移をして、「一番大きい都市に行けばクラスメイトが集まってくるかも」と考えて帝都に向かった。案の定、直ぐに藤原君や近藤君と合流できて、僕の作戦でお屋敷を獲得して、藤原組の原形ができあがった。

 沼田さんが合流してきた時は嬉しかったな。「仲間を集めて現実世界に帰らなきゃ」って気持ちはあったけど、「数日くらいなら冒険者ギルドで依頼を受けて日銭を稼いで、この世界の様子見をしながらスローライフを楽しむのもありかな~」と思った。


 俊一(柴田)が、どこで何をしているのかは心配だった。だから、源君と真田さんが合流してきて「俊一が綿穂ちゃんと一緒に脱落した」って聞いた時はショックだった。この世界がまったりスローライフな世界ではなく、過酷な環境ってことを把握した。


 そして、その「過酷」が他人事では無く、僕自身にも降りかかる。

 西都市セイ平原でのチートとの戦い(第25話~第27話)。戦力外の僕と沼田さんは、離れて戦いを見守っていた。

 クラスメイトとの戦いなんて、過酷な殺し合いになるわけが無い。ちょっと派手な喧嘩になる程度。そんなふうに安易に考えていたのに、仲間達が次々と倒されていく。


「なんなの?チートは平気で人殺しができるの?」


 僕が割り込んでも、何もできずに瞬殺されるのが解る。戦いを眺めながら振るえていた。


「あんなメチャクチャなの・・・勝てるわけがない」


 チートが全方向に広がる灼熱光を発した。倒された仲間達が次々と光の中で消滅をしていく。源君が、深手を負った真田さんを背負って逃げている。でも、源君も傷を負っていて満足に走れないので、逃げられそうにない。源君達だけじゃない。僕等だって逃げなければ、次に殺されてしまう。


「早璃ちゃんっ!」


 腰が退けて一歩も動けなくなっていた僕とは対照的に、沼田さんが戦場に向かって駆けていく。


「ちょっと待ってっ!」


 何で逃げないの?何で、こんな状況で他人を気にしてられるの?沼田さんを追って止めたいんだけど、足と勇気が前に出ない。どうにか、退けた腰に活を入れて、大きく出遅れた状態で沼田さんを追う。


「ヒール発動!早璃と源くんっ!」


 迫ってくる灼熱光の前に立った沼田さんが、特殊能力ヒールを発動させる。おかげで、源君と真田さんが全回復をした。

 だけどそれは無茶だよ。君は特殊能力を上限まで使い切ってしまった。逃げる余裕があったはずなのに、わざわざ死の目前に飛び込んで、卒倒をする選択をした。なんで、他人の為に、そんなことができるの?


「沼田さんっっ!!!」


 僕は沼田さんを救出するために走った。沼田さんは、まだ死んでいない。卒倒をしただけだから、休ませれば意識を取り戻す。

 でも間に合うのか?沼田さんに辿り着けても、逃げ切れなくて諸共に灼熱光に飲み込まれてしまうのではないか?


「ひぃぃっっ!助けてっっ!!」


 沼田さんよりも手前。傷を負った我田さんが、助けを求めて逃げている。我田さんは敵。僕は沼田さんを助けたい。頭では解っているのに、僕は我田さんに肩を貸して逃げていた。

 安全圏まで逃げて振り返った時、戦場にはチートしかいなかった。沼田さんも消滅してしまった。僕は、我田さんを助けるために、助かったかもしれない好きな子を見捨てた。


「・・・いや、ちがう」


 僕は、自分が助かるために、「我田さんの所為で沼田さんを見捨てるしかなかった」という言い訳を選んだんだ。

 自分が卑怯者に思える。好きな子の救出を選ばなかった打算が嫌になる。僕は僕が嫌いになった。


 翌日、黒騎士ブラークさんと我田さんを休ませるために西宿場ミドオチスに滞在していたら、無事に生き残った源君と真田さんが合流をしてきた。

 源君の眼を見て驚いたよ。彼の瞳には光があった。僕は気持ちが折れて、何もかもを諦めていたのに、彼の目には希望があった。源君は良いヤツで、意外と根性があるとは思ってたけど、あれほどの絶望を僕よりも近くで体験したのに、諦めていなかった。

 凄い胆力だよ。僕は源君に負けた気がした。負けたくないと思った。


 僕と源君と真田さんと我田さんの4人から始まって、由井さんと輪島さん、武藤さんと長野さんと楠木君、津田君。源君がイニシアチブを取って、仲間が集まりはじめる。

 彼には自覚が無さそうだけど、このチームのリーダーは間違いなく源君だ。不器用な彼が必死で藻掻くことで、仲間達が「頼りないリーダーを支えよう」と動き出した。

 現実世界では目立たない彼が、この世界でたくさんの経験を積み、誰よりも辛い思いを乗り越えて、頭角を現している。


 源尊人は、情や和でチームを作るタイプのリーダー。打算を優先させてしまう僕では、彼のような「皆で力を合わせて頑張ろう」のチームは作れない。

 彼に不足をしている「力で引っ張る」は武藤さんがサポートをする。本質的に「シャイで人前に出るのが苦手」な部分は真田さんが支えている。


「このチームで僕にできることは・・・?」


 徹底した管理と非情の決断。源君の情の深さは、戦場では枷になる。だから、僕が鬼の副長になって、源君の甘さを支える。心を殺さなきゃならないのは辛いけど、僕は「僕にできること」をする。

 それが、勝つための最短ルートであり、僕の特殊能力ストラテジーを最大限に活かす手段であり、「自分優先」で見捨ててしまった沼田さんへの贖罪と信じて。


「源君。僕は君と共に勝ち残るために、君を利用させてもらうからね」



 いっぱいいっぱいで、壊れてしまいそうだ。だけど、辛いのは僕だけではない。僕ばかりが弱音を吐くわけにはいかない。


 由井さんに同行してもらって、主塔を駆け上がる。由井さんの特殊能力アダプトのおかげで、帝兵達に見付からない(気にされない)まま、目的の部屋に辿り着けた。


「吉見!?」

「ゆいちゃん!?」

「もしかして助けに来てくれたの?」


 石造りの殺風景で決して広くない一室に、菅原さん、前田さん、和田さんがいた。戴冠式の時に彼女達が自由を与えられていたので、「監禁されていて、看守を倒さなきゃ接触できない」ではないのは予想できた。でもそれは、裏を返せば、「チートから信用されている」を意味している。


「君達が本心でチートに服従をしているのか、

 不本意だけど従うしかないのか・・・

 申し訳ないけど、見極めている余裕は無い。

 今は質問を受け付けるつもりもない。

 『仲間が増えた』と喜んで無防備を狙われたら、即座に破綻してしまうからね」


 彼女達が納得をしてくれるかどうかなんて、どうでも良い。無礼については、現実世界に戻ってから謝罪する。


「チートとの戦いが終わるまでは、君達を敵として扱う!

 この場で切り捨てられて脱落をするか、おとなしく拘束されるか、

 君達が選べるのは2つに1つだ!」


 菅原さん達3人は、互いの眼を見て頷き合い、無条件に拘束されることを選んでくれた。

 尊人は大きく成長しているんだけど、穏やか&甘ちゃん&内向的が根底であり、これが無くなったら別人になってしまう。

 吉見は運動神経が壊滅的に悪く、スポーツマン系がスクールカーストの上位を握っていた小中学校時代には日影にいたキャラ。中学後半~高校の学業優秀が人権を得られる世代になって、ようやく日向にでてきた。

 感性的には尊人と似ており、表立って尊人をサポートする早璃の影に隠れがちだが、実は尊人の最大の理解者。尊人(=自分)の弱点を誰よりも知っているので、徹底して尊人の甘さを補っている。


 このストーリーで吉見が脱落する展開も考えたけど、輪島と安藤が立て続けに消えた状況で吉見まで消すのはストーリーが暗くなりすぎると思って、吉見には戦い抜く尊人を見届けてもらうことにした。

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