29-4・多数決破綻
智人がそこまで残酷になってしまったとは思いたくない。だけど、少し落ち着いて考えたら理解できた。
「味方まで容赦無く消し去ったチートならやりかねない」
3日前に確認できた生存者は26人。今回、チートが6人を脱落させて、残ったのは20人。転移者の6割が脱落をした。
『同時期転移者の残数が4割以下になった時点で、
多数決の多数派意見ではなく、全員の意見一致が必要になる』
転移時に喋る光に教えてもらったことを思い出す。
「もう・・・多数決では現実世界に帰れない。
『残る派』をゼロにしなければ、現実世界には戻れない」
僕の「仲間を集めて多数派を取る」計画は破綻をした。
「残った菅原さんと前田さんと和田さんも、脱落させられたかも」
智人1人で16人を倒して、僕と真田さんと我田さんの3人も脱落させたと思っている。柴田くん、綿本さん、力石先生、今川くん、毛馬内さん、鰐淵くん、二宮くん、橋本くん、8人の脱落は、西都市にいた時にチートに伝えた。つまり、チートの脳内では、最低でも27人が脱落済みになってる。
チートは「この世界に残ること」に拘っている。多数決を無効化するために、あと4人を脱落させるのではないか?
「いや・・・和田さん達3人は、今のところ大丈夫」
「なんで解るの?」
「確認したら、3人の反応はあったから・・・」
「反応ってなに?そんなの解るの?」
「うん。・・・富醒発動!コンパス!」
輪島さんの正面に矢印が出現した。
「由井さん!」
輪島さんが由井さんの名を呼んだら、矢印が由井さんの方向に向く。
「私の富醒は、イメージした人のいる方向を教えてくれるの。・・・和田さん!」
矢印は南西を向く。
「この方向は、南西村かな?」
続けて、菅原さんと前田さんの所在方向も南西を示した。
「3人とも逃げ延びてミナーシャにいるってこと?」
「・・・徳川くん」
チートの所在方向も同じだ。
「智人に連れて行かれたってこと?」
南都市まで遠征をしたチートと白騎士団が、ミナーシャで一泊していると解釈するべきだろう。
「・・・渡辺君」
輪島さんが眼に涙を浮かべながら、脱落済みの渡辺くんをイメージする。すると矢印は、しばらくあちこちを向いて渡辺くんの方角を探したあと、矢印の先を真下に向けて停止した。
「もうこの世界にいない人は、こうなっちゃうの」
便利だけど、仲間の脱落をハッキリと明示する残酷な特殊能力。櫻花ちゃんや藤原くんをイメージしても、同じ状況になるのだろう。逃走をした輪島さんが、「生きていてほしい」と思いながら特殊能力を発動させて、仲間達の脱落を実感して絶望する・・・そんな姿を想像できてしまう。
「智人が菅原さん達を脱落させなかったのは、
安藤さんみたく使える特殊能力を持っているから・・・かな?」
「菅原、前田、和田さん・・・みんな美人だよね」
真田さんの発言に反論は無い。だからこそ、その事実を受け止めるのはキツい。だけど、男子は容赦無く倒されて、女子だけが生かされたのは・・・
「・・・おーちゃん」
チートの屋敷に連れて行かれて「保護」という名目で、櫻花ちゃんと同じ状況に・・・。考えたくない。胸が押し潰されそうになる。
「ヤバいよ、源君」
吉見くんが青ざめながら口を開いた。「菅原さん&前田さん&和田さんがどうなるか?」を想像すれば、当然の反応だろう。
「うん・・・菅原さん達がヤバい」
「そうじゃないよ。ヤバいのは我田さんだよ。
手遅れになる前に帝都から連れ出すべきだ」
「なんで我田さん?チートは『我田さんは死んだ』と思ってるはずだよ」
「違うよ!狙われるのは僕だ!
多分、彼は僕が死ななかったことを知っている!
お屋敷の場所は、安藤さん経由で確実にバレている!
多数決無効化のために数を減らすなら、真っ先に僕を襲撃するはずだ!」
先日の戦いでは、チートは非戦闘要員の吉見くんを眼中に入れてなかったかもしれない。だけど、多数決無効化に王手がかかった状況(実際には既に無効)では、討伐対象になってしまう。吉見くんの逃走先として、当然、「藤原屋敷に戻った可能性」は考慮するだろう。そして、そこには傷を負った我田さんがいる。
「僕なら、アーズマ軍とサウザン軍の戦いを征した時点で、次の手を打つ!
今のチートは、まだ戦勝に酔って、そこまでは考えていないかもしれないけど、
本拠地に戻れば、確実に次の一手を打ってくるだろうね!」
「急ごうっ!」
「あたしも行くっ!」
由井さん、輪島さん、共に戦闘能力は皆無だけど、もし、この宿場町にチートの刺客が来ても、由井さんの特殊能力があれば、2人は隠れ通すことができる。
もう深夜なんだけど、僕と真田さんと吉見くんは、宿場町を出て帝都に走る。
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コンパス
使用者:輪島輪珠
同時期転移者の所在方向を矢印で示す。名前と顔が一致しない人物は探せない。脱落済みの場合は矢印が真下を向く。1日の限界数があるが、コンパスを発動した状態で会話をすると記憶をされて、使用制限に関係無く探せるようになる。現時点での限界数は3回、熟練度が上がれば増える。




