表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

後輩吸血鬼、自らの行いで血が吸えない

「なあ、お前ってちょっと前まで俺の血吸ってたよな。今は吸わなくていいのか?」


「えー?無理っすよぉ、先輩の血マズイんですもん」


 高校二年生である俺には悩みがある──なんて言っても、先述のやりとりでもう分かりきっているだろう。それは単純、後輩の吸血鬼女子がウザすぎるということだ。学年が違うくせに、いつも俺のクラスにやってくる。


「不味い、なんて言ってるってことは、もちろん俺以外の血も吸ったことあるんだろうな」


「えー……っと、ありますよぉ!もちろん!」


 強がりだ。こいつには友達がいない。友達がいないから地元の先輩である俺に絡んできているのだ。それに、俺が血を吸わせようとするのは気を使ってのことだ。いくら人間と距離が近いとはいえ、吸血鬼というのは血を吸わなければ限界が来る。血だけを摂取して生きるわけではないが、血がなければ彼女たちの必須栄養素を確保できない。人間で言う『野菜を食べるかどうか』レベルの話を少しランクアップさせた感じだ。


「じゃあそいつに吸わせてもらいな。俺だって血が無限にあるわけじゃない。文字通り俺の命がかかってるんだよ」


「え、ええ!もちろん良いっすよぉ!?私にたっくさんいる友達から血を分けてもらうっすもーん!」


 詭弁だ。全部。それを言い放った後輩は逃げるようにして自分のクラスへと戻っていった。


◇ ◇ ◇


 昼休み。俺はいつも通り弁当を食べ終わり、次の授業の準備を始めていた。


「先輩、ひとりっすね」


 案の定、後輩がやってきた。


「そうだな。俺は弁当は一人で食べる派だから」


「強がりっすね〜っ。本当は友達がいないんじゃあないっすか?」


「あほ。俺は授業の準備が終わったら別のクラスの友達とサッカーすんの。ほらほら、帰った帰った」


「い、良いっすよ!べつにっ!」


 ぷいっとそっぽを向いて後輩は去っていった。なんなんだ。俺は気にせずにサッカーコートへ向かっていく。


◇ ◇ ◇


 予鈴が鳴ったので、教室へ戻る。いやぁ、今日もいい汗をかけた。昼休みのサッカーは、俺にとって最高の趣味のひとつだった。ただ、全てが楽しいわけではない。体温が上がってしまうこと、その問題がのしかかってくるのだ。タオルがあるから良かったものの、なかったら色々とまずいことになっているだろう。


 俺は身体を拭いたタオルをカバンに詰め、そのまま授業を受ける。


◇ ◇ ◇


 時間は過ぎ、そのまま放課後を迎えた。すぐ帰れるなら良かったのだが、今日は掃除当番だったので強制的に学校に残ることになってしまった。それだけならまだしも、ごみ捨てジャンケンで敗れ、俺はゴミを出しに行かなくてはならなくなった。


「あれ、先輩ゴミ出しっすか?ジャンケン弱いんすね、ぷぷぷっ」


「ジャンケンってのは運でしかないだろ?一回で強い弱いを決められるもんじゃねーっつーの」


「ええ〜?負けてるのは事実じゃないっすか〜♡」


 呆れて声も出ない。しかも、後輩は明らかに俺の首筋を見ながら発言している。あまりにも分かりやすすぎる。


 俺はそんな後輩を無視しながら、袋をふたつ持ち、階段を降りる。ゴミ捨て場までは少し遠い。少々の面倒くささを感じながらも、ゴミを捨て、来た道を戻る。階段を上がったせいか若干の汗ばみを感じ、俺はカバンの中にあるタオルを取ろうとする。


 しかし、入れたばかりのはずのタオルがどこにもない。机の中を確認してもない。まずい、どこかで落としたか?


「先輩のタオル、汗臭いっすね〜」


 犯人は変態女だった。彼女はタオルをスポーツ観戦をするファンのごとくクルクルと回し、煽るような視線を送っている。いくらなんでもそれはやりすぎだ。


「おい、さすがにそれはライン越えだろうがよ」


「ライン?勝手に決めないでくださーい」


「とりあえず返せこのバカっ」


 俺は後輩の持つタオルを掴み、思いっきり引っ張った。


「ぐっ……返せっ」


「嫌っすよー!」


 吸血鬼の力は強い。たとえそれが高一女子であってもだ。タオルがピンと張っていまにも破けそうだし、さすがにヤバそう、と思った次の瞬間、


「あっ」


 という声と共に後輩の力がするりと抜け、その場にびたーんと倒れてしまった。


「いたた……ちょ、ちょっと!!女子倒すなんてどういうことっすか!?」


「お前が力入れまくるからだろーが!!」


 俺はタオルを拾い、バッグに詰め込んだ後、代わりににんにくチューブを取り出して後輩に差し向けた。


「お返しだ」


「えっ……?」


 困惑する後輩の口の中にチューブをぶち込んだあと、それを思いっきり握った。


「んーーっ!んーーーーっ!!」


 にんにくは辛い。それはチューブでも同じこと。しかし、今回はそれだけじゃない。吸血鬼にとってのニンニクは天敵なのだ。俺は苦しむ後輩を放置し、カバン類を全て背負って帰路についた。


◇ ◇ ◇


 駅に着いた。しかし、目の前で電車に出ていかれ、十数分待たなくてはいけなくなった。はあ、面倒だ。俺が少しため息をつくと、後ろから後輩が走って追いかけてきた。


「ゼェ……ッ、ゼェ……ッ……ようやく、追いついたっす……!」


 後輩はさっきまでの情けない表情を変え、鋭い目つきを向けている。


「仕返し……するっすよ……!」


「ほー、いいのか?お前対策で何本もにんにくチューブを買ってあるんだけど?」


「ヒェッ……あーいや……」


 後輩は先程の状況にビビってしまい、白旗を振るように肩を落とした。


「──わかったっす、素直になります。私、血が欲しいっす」


「最初からそう言えよ。それだったら素直にあげてたよ」


「──そうなんすか?」


「まあ、お前にも事情があるだろうしな。ただ、タオルを盗ったのは許してないからな」


「あーいや、あれは……汗で血をごまかせるかな、って、思った、っす」


「──素直になれないからって、犯罪者になるのは違うだろうよ」


「──すいませんでした」


 俺は、恐らく彼女からしても吸いやすいであろう左腕を差し出し、袖をまくって「ほら」という。


「吸いな。痛くしすぎるなよ」


「──!はいっす!」


 そう言って、後輩は左腕にキバを突き立てようとした。しかし……


「あ」


ビリリッ!!


 そう言って彼女は、捲られた袖に噛み付いてしまった。しかも、穴が空くだけならまだしも、結構ガッツリと破けてしまった。


「……ッおい!!」


「あ、あぁっ……!今度はわざとじゃないっすから!!」


「ふざけんなぁぁ!!」


 破けた服は、後輩が責任をもって直しました、っす。

ご覧頂きありがとうございました!良ければポイント評価をいただけると嬉しいです!!

メスガキかどうかは少し微妙ですが、わからせ要素があるので勘弁してください……


吸血鬼絡みのラブコメとSFの長編作品もやってますので、良かったら覗いていってくださいっ


青野ハマナツ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ