表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼女は風呂場の窓から入ってきた

 彼女は風呂場の窓から入ってきた。安宿の一階でまったりと湯船に浸かっていたら、かなり高い位置にある窓が開いて、顔が現れた。

 「こんばんは。」

 「どうも、こんばんは。」

 「私もお風呂に入っていい?」

 「ここは女湯なので、入っても良いと思います。」

 「じゃあ失礼。」

 顔、上半身、腰までを窓に通して、彼女は反転した。そのまま腹筋をするように上体を起こし、窓の上のへりをつかんで、足を抜き、窓の上のへりから窓の下枠をつかんで、こちらに背を向けてぶら下がる形になった。彼女の足の先から床まで1.5メートル弱あるが、この状態で彼女はどうするんだろう。しばらく見守っていると、彼女の腕がビリビリと震えた。

 「ちょっと。」

 「何でしょうか。」

 「見てないで、あたしを速く下ろしてよ。」

 どうやって下ろせば良いのかわからないが、私はとりあえずざばりと湯船から出た。彼女の足元まで近付き、彼女を見上げた。なんとなく、頭上に手を伸ばして彼女の太ももあたりを抱きかかえる。

 「濡れててすみません。あと、裸ですみません。」

 「いいから腕に力を入れておいて。今窓枠から手を離すから。」

 「はい。」

 彼女が窓枠から手を離し、私の両腕に重みがずしりときた。当然、支えられる訳もなく、私はよろめき、倒れこんだ。その上に彼女が覆いかぶさる形になった。痛い。

 

 「あの、お風呂には扉から入った方が良いですよ。」

 「私もそう思う。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。その踊りは、見るもの全てを惹きつける踊りだった。私は、彼女から瞳を離せなかった。本当の美しさ、本当の芸術というものに触れた気がした。美しいものの正体見たり、と感じた。美しさの尻尾を掴んだ、と思った。もしも美しさが生き物だったならばの話だが。私の心はビリビリと震えた。彼女が踊れば時間が止まる。彼女が踊れば地球が回る。そんな感じだ。

 彼女は最後のターンを決め、格好良いポーズで静止した。そして時間は動き出し、私はため息を吐き、呼吸を再会する。自然と手が拍手をする。痛い痛い。掌が痛い。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。多いときは1日に15件のクラブで踊ったりしてる。」

 「この街には、そんなに沢山のクラブがあるんですね。」

 「あんたは他所の街から来たの?」

 「はい。死体の降る街から来ました。」

 「へえ。ずいぶん遠くから来たね。」

 「この街に着くまで、険しい山道を二日かけて歩いてきました。さっきこの街に着いて、疲れ果てて、お風呂に入っていた所です。」

 「お疲れ様だね。」

 「この宿派安い割には、お風呂が綺麗で素敵ですよね。」

 「そうだね、あたしもここのお風呂はかわいくて好きだよ。」

 「好きならば尚更、扉から入った方が良いですよ。」

 「私もそう思う。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。その踊りは、見るもの全てを惹きつける踊りだった。美しい。とても美しい。美しいって言葉がゲシュタルト崩壊するほどに美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。

 美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。

 美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。

 美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。

 美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「何で窓から入って来たんですか?」

 彼女は、いきなり踊りだした。

 美しい。

 「素晴らしい踊りですね。」

 「あたしはダンサーなの。」

 「もう体が冷えたんであがります。ごゆっくり。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 唐突な来訪者が単調な日常を壊していく話かと、偏った先入観を持っててすいませんでした。(告白からこんにちは) 本編は、もうちょっと動きがあってくれた方が面白くなったのではないかと。 しかも飛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ